約束の三月一日の夜。
 あたしは潤君とデートをしている……わけではなく、自分の部屋で独り寂しく過ごしていた。
 テンションは最高に低い。
 あたしは自分のベットに勢い良く飛び込み、意味もなくゴロゴロと転がる。
 ゴロゴロゴロ……
 しばらく無意味にこの行為を続けていたが、当然すぐ飽きる。
 今度は大の字に寝転がり溜息をつく。

「ふぅ……」

 直後、すぐ側にあった枕を天井に向かって投げつける。
 枕は天井で僅かな埃を撒き散らし、手応えのない音を立て落下してきた。
 まっすぐあたしの顔面に向かって。
 
「きゃ……」

 咄嗟に対応しきれず見事に枕が顔面に直撃。
 痛くはなかったが、あたしは自分のマヌケさに呆れ果て、枕を顔面に乗っけたまま硬直。
 結構息苦しい。
 緩慢な動きで枕を取り除き、そしてまた大きな溜息をつく。
 何をやっているんだあたしは。
 自問自答。
 しばらくの間、枕をぶつけてやった天井を見つめながら考える。
 自分の辿り着いた結論は、わりと自分では認めたくないものだった。
 ただ、あたし自身の冷静な部分がそれ以外はないと、結論付けている。
 あたしは寂しいのだ。
 楽しみにしていた誕生日に潤君に会えなくて。
 潤君は今、この街にいない。
 先日親戚に不幸があり、田舎の方へ帰っているのだ。
 たしか昨日がお通夜で、今日がお葬式。
 彼の田舎では、お葬式の後でもいろいろとやる事があるらしく、今日中にこちらに戻ることは不可能らしかった。
 昨日、電話で何度も謝罪していた。
 仕方ないことである。どうしようもないことである。
 分かってはいる。
 電話の時は自然に対応できた。
 気にしないで、行って来て。ご親戚のご冥福を心からお祈りしております……と言ってあげられた。
 別に誕生日を独りで過ごしたわけではない。
 気を効かせてくれた家族が誕生日会を開いてくれて祝ってくれた。
 親も栞もささやかな誕生日プレゼントを用意してくれていた。
 何故か当たり前のように手ぶらでその場に存在した相沢君も、軽快な話術で場を盛り上げてくれた。
 みんなにありがとう、と笑顔を向けることができた。
 楽しくなかったわけでは決してない。
 ただ、どうしても考えてしまう。
 潤君と会って、二人っきりで誕生日を祝ってもらいたかった。
 二人で今度の誕生日が楽しみだね……って話していたのに。
 とにかく寂しい。すぐ帰ってきて欲しい。そして、イチャイチャしたい。
 できることなら、子供みたいにわがままを言って潤君を困らせてやりたい。

「……」

 何を考えているのだあたしは。
 自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
 誰が見ているわけでもないのに、自分の顔を両手で隠すように覆う。
 そしてしばらくベットの上で体をウネウネさせながら悶絶する。
 恥ずかしいし、悔しい。
 元々は向こうが求愛してきたのに。こちらは勢いで付き合い始めただけなのに。
 こちらが一方的に惚れられている、有利なお付き合いだったのに。 
 これだけ情けなくも切ない気持ちになるのは、それだけ潤君の存在があたしの中で大きくなっているということだ。
 これではどっちが惚れられているほうか分かったものではない。
 ひょっとしてこれは……すでにラブラブ状態ではないのだろうか。
 このクールな美坂香里が栞や相沢君と同類になってしまったのか。

「でやっ」

 恥ずかしさのあまり、あたしはもう一度枕を天井に向かって投げつけた。
 やはり、枕は天井で手応えのない音を立て落下してきた。
 まっすぐあたしの顔面に向かって。
 デジャヴ。
 ……本当に何をやっているんだ。
 再び大きな溜息を着く。
 そして無造作に枕元に置いてあった二つ折りの携帯を掴み取り、開く。
 携帯のディスプレイに表示されているのは”23時30分”の文字。
 今日がもうすぐ終わってしまう。
 そう思って閉じた携帯が、直後に鳴り響く。
 あたしは期待に胸を高鳴らせながら再び携帯を開く……がそこに表示されている名は相沢祐一。
 落胆する。
 空気読め馬鹿男……さすがにそれは無理か。
 まあ、よく考えてみたら潤君用に特別に用意している着メロではなかったのだが。
 相手が相沢君なら無視してもよかったが、気晴らしくらいにはなるかと思い、出る事にした。

「もしもし、相沢君?」
「起きていたか。こんな時間に悪いな」
「気にしないで。それより今日は一緒に誕生日を祝ってくれてありがとうね」
「……ふふふ、その件だがな」

 あたしの何気ない社交辞令に過剰な反応が返ってくる。

「何? いきなり笑い出さないでよ、キモイから」
「おまえな……キモイはないだろ。女子に言われると意外と傷つくんだぞ、泣くぞコラ」
「どんな脅迫よそれは。で、何の用?」
「実はおまえの誕生日会はまだ完全に終わってはいない」
「は?」
「家の外を見ろ。入り口のあたり」 
「何を言ってるんだか」
「いいから」

 言われてあたしは二階にある自分の部屋の窓を開く。
 三月に入ったとはいえ、まだ雪の振る日も少なくないくらいこの街は寒い。
 部屋に入り込んでくる風はたまらなく冷たかったが、携帯を片手に窓枠に腰掛け、体を乗り出してみる。
 すると変なものが家の入り口の側に存在するのが見えた。 
 何かの白い巨大な塊だ。

「相沢君……何あれ?」
「雪だるまだ」
「へ?」

 言われてみれば確かに雪だるまだった。
 丸い雪球が二つ重なっているし、スキー用の帽子や木の枝で飾りつけもしてある。
 すぐに気が付かなかったのは、それがかなりの大きさだったから。
 普通の人間より二回りは大きいと思う。
 作るのがとても大変そうだ。
 学校から帰った昼頃には絶対になかった。いつの間に用意したのだろうか。

「大きいわね。なんであんなものが?」
「あんなものとかいうな! この冬、雪だるま作りのスペシャリストに成長した栞と俺の自信作だ」
「……へぇ」

 せっかく健康になった体で何をやってるのだ栞は。
 しかし、将来性の無さそうなスペシャリストだなそれは。
 あたしが呆れているのが伝わったのか、ちょっとだけ不機嫌そうになる相沢君。

「大至急作り上げないといけないから、すげー苦労したんだぞ! 俺の手は霜焼けだらけだ」
「あ、そう」
「しかも栞は最後まで居てくれなくて”寒いからお風呂で暖まってきます”とか言っていなくなるし……一生懸命作り上げた俺は心も体も凍えそうだよ!」
「なんでわざわざそんな苦労をするのよ」
 
 相変わらずこの男の行為は全く理解できない。
 何を考えて生きているのだろうか……多分、何も考えてないだけか。 

「まあ友情の為なんだ。仕方がない」
「何のこと?」
「あの雪だるまに北川からの預かり物を持たせている」
「え?」
「誕生日も残りわずかだ……受け取ってやれ」

 それだけ言って相沢君は電話を切ってしまった。
 それを聞いてしばらく呆然と携帯電話を眺めていたが、相沢君の言葉を思い出し慌てて部屋を出る。
 確かにあたしの誕生日はもうすぐ終わってしまうのだ。
 相沢君の話が本当なら急がねばならない。
 潤君があたしの為に用意してくれた誕生日プレゼントなら、必ず今日受けとってあげたい。
 もう夜中なので、家族に気づかれないようにこっそり外に出る。
 突き刺すような冬の寒さに、上着を着ていないことを思い出した。
 まるで北川君の告白を受け入れたいつかの夜のようだ。
 しかし部屋に戻る気にはならなかった。
 焦る気持ちを押さえながら、ゆっくり巨大な雪だるまに近づく。
 確かにプレゼントがあった。
 太い枝を胴体に差し込んで作った右手があたしに向けられており、先にプレゼントらしい長方形の箱が置いてある。
 あたしの歩いてくる方向を計算していたのだろう。雪だるまがプレゼントを差し出しているように見える。
 可愛らしいピンクのリボンで飾られたそれは、あたしの両方の手のひらをあわせたくらいの大きさ。
 緊張しながらそれを受け取り、リボンを解き開けてみる。
 中に入っていたのは有名ブランドのシステム手帳だった。
 大学生活を前にあたしが欲しがっていた物で、今一番欲しいものと言っても過言ではない。
 潤君の前で欲しがった覚えはないが、栞か名雪あたりから聞き出したのだろうか。

「無理しちゃって……」

 正直、高校生にはもったいないくらい高価なものだ。
 プレゼントは金額ではないとは思うが、あたしの為に無理してくれたのかと思うと素直に嬉しい。
 これだけ的確にあたしの欲しい物を用意するには、下調べだって必要だったはず。
 きっと栞や名雪あたりから聞き出してくれたのだろう。
 初めてのデートの時のようにあたしの為に一生懸命。
 あたしは寒いのも忘れプレゼントをギュッと抱きしめる。
 誕生日を一緒に祝えなかったのは寂しいが、潤君の思いだけは伝わった。
 しんみりと夜空を見上げる。
 空は晴れ渡り、多くの星が見えた。
 空気は澄んでいて、少し熱くなった心と体には、この寒さが心地よい。 
 いつもは気にもとめない星空が、今日はとても価値のあるものに思えた。
 あの人も一緒にこの夜空を見上げていればいいな。
 そんな乙女チックな感情を抱く自分にもはや不満もない。
 もういいではないか。この寒い季節に今のあたしはこんなに暖かな気持ちを持っていられるのだから。
 
 そんな事を考えていた時だった。
 予想外の事態が起こったのは。

 最初は地震かと思った。
 だって誰もがそう思うはずだ。
 目の前の雪だるまが突然震えだしたら。
 
「え……ちょっと、何?」

 地震ではないのは周りを見渡せばすぐ分かる。
 間違いなく小刻みに震えていた。
 二メートルはある巨大な雪だるまだけが。
 あたしは怯えながらじりじりと後ずさりをする。
 そのたびに振動を強める雪だるま。
 
「何なのよ!」

 そして、あたしが叫んだ瞬間……なんと雪だるまが砕け散った。
 内部に爆弾でも仕込まれていたかのように、それはもう盛大に。
 あたしは腰を抜かしそうになる。 
 しかし、驚くのはまだはやかった。
 目の前にある光景を見たときは自分がおかしくなったかと思った程だ。
 あたしは我が目を疑いながらも、叫ぶ。

 雪だるまの中に入っていた人間に向かって。

「潤君っ!」 

 そう、なんと雪だるまの中からまさかの登場を果たしたのは、あたしがあれ程までに会いたくて仕方なかった人。
 恋人である北川潤君だった。
 
「誕生日おめでとう……香里」

 喪服らしき黒いスーツとネクタイ姿で、手を振り微笑む潤君。
 まるで何事もなかったようにさわやかに登場。
 それを見てあたしはすぐには動けなかった。二十秒は硬直していたと思う。
 しかし、突然我に返る。 

「何よそれ! ありえないでしょ!」

 もらったばかりのプレゼントを、くれた本人に投げつけながらツッコミを入れるあたし。
 まったく状況が理解できない。正直、理解したくもない。
 ブランド物の手帳の一撃を受け、小さくうめき膝を付く潤君。
 そのまましばらく動かなくなる。 
 まさかブランド物だから攻撃力が高いわけではあるまいが、慌てて駆け寄る。
 周囲が暗くて分かりにくかったが彼の顔色が悪い。
 雪だるまの中に潜んでいたのだから当たり前だ。

「ちょっと大丈夫? 頭とか頭とか頭とか、あと頭とか!」
「全部頭になってるぞ……完全に俺の頭がオカシイって事?」
「当たり前よ! どう考えても今の登場シーンはオカシイでしょ!」

 抱きしめた彼の体が冷たい。雪に体温を奪われたのだろう。
 ……完全に馬鹿だ。想像を絶する程の。
 真っ青な顔で力なく笑う馬鹿……じゃなかった潤君。

「ちょっとしたサプライズのつもりだった……驚いて欲しくて」
「どこがちょっとよ! 凄まじく驚いたわよ! 泣きそうになったわ!」
「よかった……体張った甲斐があった」
「張りすぎでしょ! 体がすごく冷たくなってるわよ!」

 話をしながらもさらに弱っていくのが分かる。
 あわてて手首の脈を計ってみると、速度が明らかに遅い。
 更には潤君が、虚ろな瞳でボソボソと呟きはじめる。 
  
「……あれれ? ここはどこだ……川の向こうに亡くなったはずの親戚の姿が見えるぞ。おーい……俺も今からそっちへ……」
「その川は渡るな!」

 あたしの胸の中でゆっくりと目を閉じようとする彼。
 洒落にならないんですけど。
 慌てて頬に連続で平手打ちを食らわせてやる。
 彼の意識を呼び戻そうと、そのままビンタを十数発程食らわせた。
 するとようやく潤君が目を開いた。

「あれ……香里?」
「戻ってきたのね! よかったわ」
「俺、今ものすごく綺麗な川を……」
「渡らないで、お願いだから」

 僅かにだが顔色を回復させた彼は、ふら付きながらもゆっくりと立ち上がる。
 なんとか一命は取り留めたようだ。
 体を支えながらあたしは尋ねる。

「一体なんでこんな馬鹿な事をしたの?」
「いや、葬式で誕生日をちゃんと祝ってやれなかったからさ。せめて用意してたプレゼントを渡したくて」
「普通に渡せばいいでしょ」
「だって駅から大急ぎで走って来たら、ちょうどそこの角で相沢に会ってさ」
「……ほう」
「事情を説明したらさ。相沢に今更普通にプレゼント渡しても駄目だ! 俺にいい考えがあるから任せろって言われて」

 あの究極馬鹿男の発案か。
 しかし、どこにいい考えがあったのか小一時間は問い詰めたい。

「その後、栞ちゃんも来て」
「雪だるまの中に閉じ込められたのね……」

 凄まじく斬新な発想のイジメか?
 ……もしくは潤君を亡き者にするつもりだったのではないのか?
 あたしの中に湧き上がる疑惑と確かな殺意。
 とりあえず製作者であるはずの栞はきつくお仕置きだ。
 っていうか雪だるまの中に人を埋め込む程の技術をどこで身に付けたのか。
 かなりの難易度だと思う。
 とりあえず来年からさっぽろ雪祭りに強制参加させよう。
 参加作品の中には相沢君を埋め込む。
 そして奴にはさっき潤君が渡らなかった、あの有名な川を渡らせる。
  
「まあ、正直やばかったよ。香里が来るのがあと数分遅かったら死んでたと思う」
「こらこら」
「人間って雪だるまの中では生きていけなかったんだな」
「気づきなさいよっ!」

 若干切れ気味のあたしに気が付きもせず、呑気に呟く潤君。
 あたしが思わず怒鳴りつけると悲しそうに俯く。
 落ち込んでしまったようだ。
 まあ、努力と根性だけは認めなくもないか……使いどころが間違っているけど。
 あたしは、やれやれと肩をすくめ、大げさに溜息をつく。

「なんであんなことしたの?」
「今日寂しい思いをさせた分喜ばせたくて。香里が喜ぶことなら何でもしたくて……」

 あたしが怒っていると思ったのか、少しだけ瞳を潤ませながらそんなことを言う。
 あたしの為に必死になってくれたのは本当だろう。
 可愛いではないか。
 恋は盲目とはよく言ってものだ。
 完全にアホ丸出しの行為もなんとなく愛しく思えてくるのだから。
 好きな男の子にこんな顔をされたら怒る気も失せる。
 手段はありえないものだったが、あたしがさっきまで抱えていた寂しさ以上の思いを、彼は抱いていてくれたのだろう。
 部屋で潤君に会いたくて、寂しかった自分を思い出し苦笑する。
 彼だってきっと同じだったのだ。  
 考えてみれば今ここにいるのだって、相当無理をしたはずだ。
  
「本当に馬鹿ね」
「ごめん……え?」

 潤君が驚きの声を上げた。 
 それもそのはず……ものすごい至近距離にあたしの顔があるのに気が付いたのだから。
 そのまま、あたしは硬直して動けない彼の唇を奪ってやった。 
 あたし達の初めてのキスは触れるだけの可愛らしいモノだったが、それでも突然の不意打ちに真赤になる潤君。
 口元を押さえプルプルと震えている。
 顔は見ているのが心配になるほど赤い。

「ななななななななななぁ」
「……恥ずかしがりすぎ。あたしまで照れるでしょ」

 などと強がってみたものの、自分の顔も同じくらい真赤になっていたのは十二分に認識していた。
 まさか自分から奪いに行く予定はなかったし。
 まあ、でもどうしても彼にキスしたくなったのだから仕方がない。
 まったく困ったものだ。
 滑稽なほど錯乱して右往左往しはじめる潤君を見て、なぜか胸が熱くなる。
 もはや彼がどんな変な行動に出ても許してしまう気がする。
 本当に……一方的に惚れられているはずだったのに。
 ちょっと悔しいけど、満面の笑みを彼に送ってやる。 

「誕生日を祝ってくれてありがとう。本当に嬉しかったわ」
「か、香里ぃぃぃ」

 飛び込んでくる彼を受け止め、力一杯抱きしめあう。
 寒空の下で痛いくらいの熱い抱擁。
 そのままもう一度だけキス。
 さっきよりほんの少しだけ長く。
 彼の胸の中でドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じながら、あたしはしみじみと呟いた。

「……これであたし達も完全にバカップルの仲間入りね」
 
 友人以上恋人未満。
 ちょっと前までのあたしと潤君の関係。
 ずっとそれでいいと思っていたのに。
 もうそんなものじゃ我慢できそうにない。
 それは仕方ないでしょう。
 ほら、こんなに彼の事が大好きなのだから。













 
「まったくその通りだな。バカップル共!」

 突然の聞きなれた声にあたしは潤君の胸に抱かれたまま硬直。
 そして壊れかけた機械のようにゆっくりと振り返る。
 玄関のドアの隙間から覗き込んでいたのは、もちろん元祖バカップル。

「ふふ、お姉ちゃんらしくない油断でした。ここは自分の家の玄関前だよね」
「キスする場所くらい考えようぜ」

 満面の笑みの栞と……やはり当たり前のように存在するニヤニヤ笑いの相沢君。
 同時に絶叫をあげるあたし達。
 潤君が再びガクガク震えながら必死に声を絞り出す。 

「お、おまえら……いつからそこに?」
「結構初めの方からだよな、栞?」
「はい。北川さんが雪だるまから登場した頃にはもういましたね」
「マジかよ……」

 つまりは全部見られていたわけで。
 魂が抜けたように硬直して動かなくなった潤君からそっと離れ、あたしは突然座り込む。
 そして、周囲の雪を集めだした。
 寒いのも気にせず、素手のまま雪かきを始める無言のあたしを見て、栞達が首を傾げる。

「おい、栞。おまえの姉は何をやってるんだ」
「さぁ……雪を集めてますね。なんでしょう?」
「決まってるでしょ」

 あたしは怒りに満ち溢れた瞳で二人を睨みつけ、ゆっくりと立ち上がる。
 更に憎しみで震える拳をパキパキと鳴らしながら二人に詰め寄っていく。
 あたしの殺意の波動が伝わったのだろう。
 今更、怯えだす二人。
 しかし、絶対に逃がすつもりはない。
 はっきりと言ってやった。

「あんた達を埋める雪だるまを作ってるのよぉぉぉ!」
『ひぃぃぃぃぃ!』

 真冬の空に二つの断末魔が重なりながら響く。 

 あぁ! もう恥ずかし過ぎでしょ!
 とりあえず目撃者は消す!

 

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