その男子学生は昇降口の扉に張られた模造紙をじっと見つめていた。
その模造紙には、一年から三年までの新しいクラス分けが書かれていた。
その学生の名前である相沢祐一という文字は三年五組にあった。
しかし、その名前を見つけても、祐一はじっとクラス分けの模造紙を見つめていた。
自分の恋人の名前を見つけるために。
しかし、一年から三年の各クラスを三度見直しても、全ての名前、全ての文字を追っても、その名前を祐一が見つけることは出来なかった。
その事実に、祐一は大きくため息をついた。
「……勝負に勝ったら……うまいもの、一杯食ってやるつもりだったのにな……」
勝負――それは彼女と祐一が交わした約束。
もし奇跡が起きたら、彼女が祐一に学食で昼ご飯をおごるというものだった。
がっくりと肩を落とし、祐一は自分のクラスへと向かう。
咲き誇っていた桜が風に吹かれ舞い落ち、雪解けの水たまりにふわりと落ちた。
「起きないから、奇跡って言うんですよ………か」
ぽつりと呟いた言葉は誰にも届くことなく風と共に空に消えた。
感想
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