「あははー。
 舞、照れてるんですよー」

雪も溶け、若干暖かくなってきた春の日。
左右に和服の女性を連れ、彼は商店街を歩いていた。

一人の女性は彼に笑顔を向け、もう一人の女性はあえて視線をそらしている。

「……照れてない」

黒髪の女性はそう言い、明るく笑う女性の頭を手刀で軽く叩く。
彼はそれを見て笑う。


彼が窓から落ちた時は雪がクッションとなり、傷一つ負わずに舞の元へと駆けつけることができた。
だが倉田佐祐理の怪我は重症のはずであった。
それが卒業式を迎えた今、彼女は既に健康そのものになっている。

祐一は思う。
これはもしかして―――。





―――それは、舞さんの『力』。

月宮あゆはその三人を商店街の一角から見ていた。

―――佐祐理さんを回復させたのは彼女の願いを叶える力。
それだけじゃなくて、もしかしたらボク自身、彼女の力でここにいるのかもしれない。

あゆは舞が祐一の説得に応じると同時に夜の校舎から消失した。
次に彼女が目を覚ましたのは、病院のベッドの上。
七年前の事故では奇跡的に一命をとりとめ、今まで病院のベッドで眠っていたとの事だった。

そう、もしかしたらそれ自体、『舞の願い』であったかもしれないということだ。
それをあゆが知る事はできない。
もしかしたらそれはただの思い過ごしかもしれない。
だが、否定することもできないのだ。

「でも、祐一くん。
 舞さんはそれを知っている。
 だから舞さんは、『結果が努力によってもたらされた』ということに自信が持てない」

―――それは、とても悲しいこと。
祐一くんがそばにいるのも、佐祐理さんがそばにいるのも、自分が願ったから。

彼女はそう思ってしまうかもしれない。

「だから祐一くん」

あゆは彼に聞こえないとわかりつつも、力強く言った。

「舞さんを支えてあげるんだよ」

彼女はそう言って、笑顔できびすを返す。

「彼女を守るのは君の役目なんだから」

―――祐一くんなら、わかってると思うけどね。

心の中でそう付け足し、あゆは春の商店街を歩き出した。
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