その後の事に関しては手短に語ろう。
 私たちはその後、ことみちゃんの家に向かい、そこでこの時代のことみちゃんと対面した。その事に関して、ことみちゃんは簡潔にこう言った。
「無矛盾なの。何故なら私は、この時空間において未来の私と出会っていたから」
 図書館に向かったのは、この時代の自分に会う為だったらしい。つまり、ことみちゃんは最初からすべてを知っていたのだ。彼女は私がこの時代にやってくる事を、そのために自分を頼るだろう事を、そしてそこで何を得るのかも、私が生まれる前から知っていたのである。
 なんだか……凄くズルイ。でも、それは決してことみちゃんの口から聞かされても信じることのできないものだったから、この選択は正しかったのだろう。それになんとなく、ことみちゃんらしいのかもしれないし。だから私は何も言わなかった。例の地下室へと降り、そこに用意されていた時空間転移装置に乗り込んだ。過去のことみちゃんに対しては、私は「私をお願いします」とだけ言い、ことみちゃんは無言で、だけど笑顔で手を振った。
 本来の時代へと戻ってきた私たちは、そのまま別れた。そして私は夕食の食材と、パパのパンツを買って家に帰った。
 パパと二人きりの夕食時。
 私はパパに聞いた。
「パパはママの事、好き?」
 突然の質問にパパは不思議そうに首を傾げた。
 だけど、直ぐに笑顔で「好きだよ」と答えた。
 私はその答えに満足し、頷く。
「そっか……。私も、好き」
 パパは、驚いたような顔をしていた。


* * *



 私、岡崎汐には母親が居ない。
 私のママは私を産んですぐに死んでしまった。
 だけど私に不満は無い。
 私は、望まれて生まれてきた。
 私は、他の子たちがそうであるように、彼ら彼女らが今までも、これからも与えられるだろうママからの愛情を、一番最初に、生まれる前に、一杯一杯貰っていた。
 ママはママに出来る精一杯の愛情を、この身体に詰め込んで、産んでくれたのだ。
 だから、私がこうして生きていること。
 それこそが、ママが私を愛してくれた、その証なのだ。
 オンボロアパートの二階。
 私とパパと、そしてママの家。
 その開かれた窓から大きく身を乗り出し、世界を全身で感じ取る。
 空は青い。
 降り注ぐ光は暖かい。
 緩やかに流れる風は心地いい。
 空気の匂いは芳しい。

 私は、この世界に生きている。

 ママは居ないけれど、パパが居る。
 アッキーや早苗さんも居る。
 ことみちゃんも、杏センセーも居る。
 みんな元気で、楽しく笑っている。
 辛い事や哀しい事はあるけれど、
 寂しい事や苦しい事もあるけれど、
 きっとこれからだって沢山あるだろうけれど、

 私は今、とても倖せで――――

 そして、それは―――――
 


 とてもとても、『素晴らしい事』だ。




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