改札から出てくる人の中に待ち人を見つけて、白く立ち上る溜息を吐いてよっこいせと
ベンチから立ち上がる。寒いのもこれで終わりだ。
何度もここで待ち合わせをしているので向こうもすぐに俺を見つける。お互いが相手を
目指して歩くので二人の距離はすぐにどこかへ旅立っていく。声が届く距離になってから
片手を上げて「よう」と挨拶。それに対しての返事はなくて、代わりに俯くように小さく
頭を下げる。一週間というサイクルで会っているから、何を言えばいいのかわからなく
て、俺だってそんな感じだ。電車で40分の距離にすら、確実に時差が存在してるという
時差が少し悲しい。
上げていた手を下ろして差し出せば、手を繋いで歩きだそうの合図。手が冷たいから、
一刻も早く繋ぎたい。そして駅をあとにしたい。
長い時間電車に乗っていた彼女の手は暖かい。離したくねえなあと思う。
毎週土曜日に、学校が終わり次第彼女が40分電車に揺られるようになってもうすぐ半
年になる。手を繋ぐようになったのもそのころくらいからだと記憶してる。
「どこいく?」
「スーパーに」
「了解。いつものとこでいいか?」
「はい」
スーパーまでは駅から5分。そこから家まで更に5分。
その間に他愛のない会話を続けて一週間の隙間を埋める。どんどん会話が無意味なもの
になっていつもの自然な2人を思い出していく。それが嬉しいと同時に少し悲しい。同じ
日本なんだから、俺と彼女の過ごす時間に時差なんてなくたっていいじゃないか。
駅に向かうときは気付かなかったのに、歩いているとクリスマス色に染まった街に気付
いた。あと一週間ちょっとだ。
「そういえば、受験大丈夫なのか?」
志望学校は教えられてないが、この時期私立の大学は受験の真っ最中のはずで、俺の通
う大学もその例に漏れず学生は立ち入り禁止になっている。
「ええ。もう終わりましたから」
「終わったのか。早いな」
「そうですか?」
「ああ。受かったのか?」
「はい。推薦入試ですから」
「は?」
「言ってませんでした?」
「初耳なんだが」
「春から、同じ学校ですよ」
「そ、そうか。嬉しいな」
というか、ならなんでセンター受けたんだろう。
そんなことを思っている間にスーパーについたが、買い物には大して長い時間かからな
かった。最初から作ってくれるつもりで、料理まで決めていたのかもしれない。手早く材
料をカゴに入れて、一番空いているレジにすっと並んだ。
スーパーから出るとまた手を繋いで歩く。あと半分だ。
そういえば、流しは綺麗にしてただろうか。カップラーメンとか置いてたらまた栄養や
健康がどうのこうのと小言を聞かされてしまう。
そんなことを思った。
家についた。鍵を開けて彼女を招き入れる。
「んじゃ入ってよ」
「おじゃましま……」
「ん?」
後方からドサリと音がしたので、振り返ってみると、信じられないものを見たというよ
うに彼女は目を丸くしていた。その視線は、一番の新参者のくせに部屋の中央に陣取って
いる偉そうなヤツに向けられている。
「こ、こたつじゃないですか!?」
「そうだな」
「どうしたんですかこれ!」
「買った。にーきゅっぱで」
いつもオバサンくさいと言っている俺がコタツを置いているのがたまらなかったのだろ
う。ニヤリといやらしく笑うと、こたつに駆け寄って頭を突っ込むとおもむろに「好き!
結婚してください!とプロポーズした。
「なんでやねん」
もぞもぞ。
「オイ」
もぞもぞ。
二回も無視された。が、特に悔しくはない。相手が悪すぎた。こいつのせいで締め切り
を破ったレポートがいくつもある。数ある電化製品の中でコンセントコードまで布で被服
するようなのはこいつ以外俺は知らない。とんだ悪女だ。というか顔早く出せ。きわど
い。
「しあわせ…」
「そうか」
「……ん?」
「なんだ」
「んん?」
「なんだよ」
「あっ!?」
うむ、青か。
「電源が入ってない!?」
「点けろよ」
「ですよねっ」
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