しばらく…というかコタツが程よく暖まってから彼女は言った。
「とりみだしてしまいました」
「びっくりした」
「ならいいです。ミカンはないんですか?」
「いいんのかよ」
「わたし、ミカンのあの白いのを取る人が許せないんですよ」
「なんでまた」
「だって、白いのがついてるからミカンなわけじゃないですか」
「そりゃまあそうだな」
「それなのに白いのを取ってミカンを食べるなんて、ピーナッツ入り柿の種のピーナッツ
を残すようなものじゃないですか」
 これがコタツの魔力か。
「そんなに白いのが嫌いならピーナッツ抜きの柿の種を買えばいいんです」
「そうっスね」
 一通り語り終わると、よほどミカンがないのが不服らしくコタツの上を眺め始めた。
「あ」
「ん?」
「これ」
「ああ、うん」
 昔住んでいた街に帰ってきた1コマを書いた、最近賞を取った小説だった。何時か読み
直していたのでコタツに置きっぱなしだった。
「読む?」と聞く前に読み始めていた。




3位



サンダルが飛ぶ夏(作者:竹仙人さん)


有効票24 
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「どうだった?」
 パタン、と本が閉じられてから聞いてみる。
「悲しくて、切ない話だと思います」
「そうだな。感傷的で冷たくて、始まってる段階からなんか終わってるみたいな感じだっ
た。終わってるのに始まるって変な話だけど」
「いえ、わかります」
「そっか」
「いい終わり方でした」
「終わり方?」
「街には帰ると言うのに、家ではただいまと抵抗なく言えなかったりするのは、心が家
じゃなく街に住んでたからだと思うんです」
「それで?」
「でも最後に、家には戻るって言ってます。これは街から家に、日常に戻って来たという
ことでしょう? 迷子にならなくてよかった、と思います。無くしたものは取り戻せない
かもしれませんけど、またそこから始められるし、始まると思うんです」
「なるほどね。何にせよ、楽しめたみたいでよかったな」
「ですね。どうして女の子の事を忘れてしまったのか疑問は残りますが。素直に、人形に
残った願いだったんでしょうか?」
「どうだろうな。そこを考えるのも読書の楽しみだと思うけど、俺に言えるのはひとつだ
な」
「ひとつ?」
「ああ」
 俺に言えるのは、ただ、



 置きっぱなしの食材がいつ調理されるのか、ということだ。


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