ねぇ、祐一。知ってた?



 私ね、祐一の事、ずっと大好きだったんだよ。










【決別】






 雪が降っていた。

 重く曇った空から、真っ白な雪がゆらゆらと舞い降りていた。

 冷たく澄んだ空気に、湿った木のベンチ。




 そこに全身を白く化粧をした幼馴染み兼親戚が座っていた。


 ――……ちょっと涙目気味に。





 ◇13:30 駅前・ベンチ





「雪、積もってるな」

「だって2時間も待ってる……」

 積もるのも当然か。

「そーいや今何時だ?」

「……1時半」

「あー結局2時間遅れか……」

 列車は実に定刻通りだ。

「なぁ、寒くないか?」

「今日はまだ暖かいけど……でも寒い」

 そりゃそうだな。
 
「ほれ、遅れたお詫び」

「……コーヒー?」

「再会の記念まで兼ねる実に便利な代物だろ?」

「うー……」

 過去にお前が俺にやった事だ。


「遅れてすまん。でもまぁ、ようやく6年前の俺の気持ちが分かっただろ?」


 不満げにちびちびと飲み始めたのを尻目に俺は皮肉気に笑いながら言う。

 ……こいつといると俺は性格悪くなる気がするな、昔から。


「……もしかして計画的?」

「いや、結果的にそうなっただけだ。決してわざとじゃない」

「むぅ」


 有給休暇を取るために仕事を纏めて片づけて家に帰ったら既に真夜中過ぎ。

 明日の準備をしてそのまま倒れ込むように寝たら既に予定していた列車の発車寸前。

 無論荷物片手に慌てて駅に駆け込んでみたものの当然間に合わず。

 結構な値が張った予約券をホームのゴミ箱に泣きながら捨てつつ一本分ずらさざるを得なかっただけの事。


 ……まあ結局は寝坊で俺の落ち度ではあるんだけど何だか誤魔化せそうだから言わないでおこう。


「それならそれで連絡してくれても良かったのに」

「したよ、秋子さんに。……っていうかお前いい加減携帯持てよ、色々と不便だろ」

「うー……何か嫌なんだよ。携帯の電波って体に悪そうで」

「いや、お前の属性が既に電波系だから何ら問題ないと思うけど」

「…………ゆういちぃー」

「あ、すまん。つい本音が……」

「私、北川君じゃないよー」

「……すまん、それどう突っ込めばいい?」

 なんか初めて北川が哀れに思えた。

「ほら名雪さっさと家まで案内してくれよ。俺物覚え悪いからあんま道覚えてないんだから」

 自慢になんかならないけど。

「うん、分かった。あ、祐一」

「ん?」

「おかえりなさい、祐一」

「……ただいま、名雪」


 まだ年相応というにはあどけなさが目立つ、

 けれどあの頃より少しだけ大人になった少女は俺に微笑んだ。





 ◇14:00 水瀬家到着・和室。





「あ”〜、さみぃさみぃでも此処はあったけ〜。それと甘酒うまいな〜」

「だらしないよ、祐一。まっすぐ家に帰ってきただけだよ。

大体寒い中ずっといたのは私の方なんだから。……というより本来は役回りは逆じゃないかな?」

「……俺に寒空の元で待ち続けろと? ははは、無茶言うな。俺は元々都会育ちの虚弱児なんだ。

しかも6年のブランクの上あの時よりジジイになってんだから此処の寒さに耐えきれるわけないだろう?」

「そんな事、胸張って言うことじゃないよ」

「うるさい。……あ〜、極楽極楽〜」

「こたつ入りながらみかんと甘酒片手につついてる姿には若々しさの欠片もないよー」

「何とでもいえ。“こたつでみかん”は日本人の世界に誇れる文化だ」

「あらあら。祐一さん、もう帰って来てくださってたんですね」

「あ、すみません秋子さん。起こしちゃいましたか」


 パジャマにガウンを羽織った姿は何処か儚げな印象で。

 ちょっとこうなんだ……ドキッとさせられたのは秘密。

 何時までも美しすぎる秋子さんが悪い。


「いえいえ。でもやっぱり祐一さんが来てくれると賑やかになるわね……」

「はは、それが俺の数少ない取り柄なんで。あ、どうぞ秋子さんも入ってください」

「はいお母さん、甘酒。最近は体調が良いけど体冷やしちゃ駄目だよ?」

「そうですよ秋子さん。体には気をつけてもらわないと困ります」



 ――――秋子さんが倒れたのは今から2年前。



 俺が都会に出て。

 名雪が短大を出て地元の企業に就職して。

 そして俺も向こうの大学を卒業して就職して。

 そんな、子供達がある程度手間が掛からなくなった時期。



 ……張りつめていた糸がその時途切れてしまったのか。

 秋子さんは突如倒れ、病院に運び込まれる事態に陥ってしまった。



 幸いな事に大事には至らなかったものの無理が祟ったのか体が弱っているらしく、今でも一日の大半を寝て過ごすよう医師に言われている。

 当初秋子さんは強い抵抗を示したが名雪と知らせを聞いて飛んできた俺に丸二日かけて説得されてしぶしぶ受け入れている。

 それでも加減が良いから今日は大丈夫、と目を離した好きに家事をしてしまう事があるらしく少し不安になる。


「大丈夫ですよ」

 そんな俺たちの思惑を見透かしたように秋子さんは微笑んで言う。

「最近は暖かくなってきましたから。大分体も楽なんです。

出来れば毎日家事くらいは自分で出来れば良いのですけど……」

「駄目だよ、お母さんはすぐ無理しちゃうんだから」

「でもね……」

「会社の方も理解して貰ってるしお金の事は今のところ問題ないし。

お母さんは早く元気になってもらわないと困るよ」



 ――――後、これは秋子さんが倒れてから仕事仲間の人が教えてくれたんだけど。

 名雪の親父さん……つまりは名雪が小さい頃亡くなった秋子さんの夫は結構なお金を残していたらしい。


 流石に俺は詳しい内容は知らないが名雪が言うには「想像もつかないって程じゃないけど意外と……」らしい。

 けどまあ……秋子さんの性格なら当然の事なのかどうなのかはともかく、それには一切手をつけた形跡がなくて。

 母子家庭でしかも俺のような厄介者を平然と受け入れながら何一つ不自由な生活をさせなかった。

 色々と悩みだってあったはずなのに秋子さんはそんな顔一つ俺たちには見せない人だったから。

 そりゃあ何時かは体壊すよなぁ。



 ……しかしこんな話を今更繰り返すのも不毛なので話題を切り替える事にする。

「あ、忘れてた。ほれ名雪、土産」

「わ、なになに?」

「別に面白いもんじゃねえよ」

 何しろ駅で思い出して慌てて買ったから。

「……ひよ○?」

「あらあら、定番ですね」

「……うぅぅ、その言葉日々を面白く生きようといする相沢祐一(24)にとっては死亡宣告のようなものです……」

 何でこんな面白みのないものを選んでしまったのか。

 他になんかあっただろう俺。例えば筋子とか筋子とか筋子とか。

「……何で筋子に固執するのは分からないけど東京らしくて良いんじゃないかな?」

「それ元々は福岡の土産なんだけどな」

「福岡の人に東京土産として買ってしまったという笑い話がありますね」

「うー……」






『……かえる』

『ゆういち、いっしょにあそぶっていったよー』

『こんなさむいなんてきいてない。かえる』

『ひどいよ、ゆういち』

『とにかくおれはかえる。かえるったらかえる! かえるんだ!』

『……うぅ』

『な、なんだよ。』

『……うぅぅぅうぅぅ』

『な、ないたってだめだからな! おれ、いえにかえるからな!』

『……うううぅぅうぅううううぅううわぁああぁぁあん!』

『…………あーもうわかった、わかった、あそぶ、そとでいっしょにあそぶよ!』





◇16:15 学園・校門前





「……よっと。相変わらず警備の薄い学校だ。変質者でも入ったらどうするつもりなんだ?」

「えっと……そういう話は何故か聞いたことないね」

「ただでさえ今のご時世数少ないブルマー採用校なんだがなぁ」


 学生時代は良かったなあとちょっとしみじみ。

 ……もうちょっと網膜に焼き付けておけば良かった。

 同級生に香里や名雪という全国を争える逸材がいたというのに……当時の俺は損をしたもんだ。


「何か今いやらしい事考えなかった?」

「いや、何も。……しかし変わってないな、この学校」

「変わってたらおかしいよ、祐一。まだ私たちが卒業して5年しか経ってないよ」

「そうなんだよな、まだ5年なんだよな……」

「時の過ぎるのって早いよね」

「何時の間にか、皆変わっていくんだよなあ」

「祐一の場合は一番変化が激しかったよね」

「……まあ、な。色々大変ではあったよ」


 多分この5年間というのは俺の人生の中でも密度の濃い5年間で。

 俺の運命が揺れ動いた時期でもあると、今の段階でも言い切ることが出来る。

 そしてこれからの5年も忙しい事になる事は決まっている時期。


「やれやれ。今更だが大変な選択肢選んだな、俺も」

「後悔してるの?」

「まさか。むしろ安堵してただけだ」

 俺は苦笑しながら名雪に向き直る。


「もしあの選択肢を選ばなかった時は……なんて考えたくもないからな」





『はぁ、はぁ、はぁ……』

『おそいよー、ゆういち』

『いや、おまえ、が、はしるの、はやすぎ、る、んだよ』

『そんなことないよ。ゆっくりはしってるよ』

『すこしは、ひとの、ことも、かんがえ、ろ、よ。それにけがするぞ、きょうは、みちが、よくすべる』

『おそいよゆういちー』

『って、もうはしりだしてる!?』

『さきにいくよー』

『ち、ちくしょう、まてー!』





◇16:45 学園・屋上




「やれやれ……懐かしい、な」

 屋上の金網を掴みながら、ポツリと漏らす。

「ふふ、ここって祐一にとっては青春の舞台だもんね」

「……妙に持って回った言い方するなよ」

 天然系のお前が保持していいスキルじゃないぞそれ。

「でも事実なんでしょ?」

「……まあ、な」



 ――――高校2年の冬。

 相沢祐一が『本当』の告白をしたのがこの場所。

 仮面の笑顔に慣れてしまった少女に、本当の笑顔を取り戻させた場所。

 真正面から彼女を見て、真っ赤になった顔を自覚しながらも学校に響き渡る大声で告白したその場所。


 ……あの時はもうテンパっていたから考えられなかったが。

 後から思い出すと何とも凄く青臭くて……なんとまあ滅茶苦茶照れくさいのか。



「……っていうか名雪、誰から聞いたんだその話」

「香里から」


 祐一は軽く舌打ちをする。

 あの老け顔女王様め、どっから聞きつけやがった。


「明日香里も必ず来るって言ってたんだけどなー」

「……何が望みです名雪さん」


 香里>>>(超えられない壁)>>>名雪>祐一(←時々入れ替わる)>>>(超えられない何か)>>>北川。

 俺たち『チーム美坂』のヒエラルキーは永久に不変です。


「じゃあイチゴサンデー」

「……懐かしいな、それ」

「定番だよ」

「オーケー、それで手を打とう。高校時代俺の財布を泣かせ続けた怪物も今じゃ良い思い出だ」

「ありがと、祐一。ちなみに香里は北川君から聞いたって」

 ドM金髪アンテナ殴ッ血KILL。

 未だに香里に告白一つ出来てない完璧なる下僕体質のくせに。



「……で、どう?」

「何がだよ」

「倉田さんとの仲」

「万事塞翁が馬。まあ同棲生活は至って順調とだけ言っておこう」

 まあ舞が常にいるので同棲つっても変わった部類なんだけど

「そういえばどんな風に付き合い始めたの?」

「今更聞くなよ」

「今更だから聞くんだよ。あの時祐一は恥ずかしがって教えてくれなかったから」

「む。……しかし自分の艶話を喜々として語る男というのは聞いた事がないんだが」

「じゃあ話せる範囲でいいから。後艶話って言わないで生々しいから」

「うーん……」

 まー……もう昔の事だし。

 後から聞かれるのも面倒臭いから話しちまうか。

 ……ネタにされやすいから知人には話さないと決めていたんだが。


「まあ告白自体はあれだ、その場の勢い」

「でもそのときまで付き合ってなかったの?」

 あんなにずっと一緒にいたのに、と名雪が呟く。

 まあ、他の人たちから見たらそう見えるだろうなぁ。

「いやなんつーかさ……お互いどうしていいか分かんなかったんだよなぁ」


 一緒にいるときはほとんど舞と3人な事もあった。

 佐祐理さん自体が割とつかみ所のない性格でかわすことに慣れてる人ってのもあった。

 多分気持ちの方はお互い自覚してたと思うし、本気で告白すれば99%OKもらえるとも分かってた。

 ……でもそれは結局100%じゃないし、何より3人でいるあの場所が好きだったから踏み出す事が怖くて。

 結局『関係悪くなるかもしれないけどでもやっぱ本気で告白する』という意志を固めたのが佐祐理さんの卒業寸前というのはかなり情けないが。


「――……というかな、大変だったのは盛大に告白したその後だったんだよ」

 溜息をつきながら祐一が呟く。

「うにゅ?」

 その擬音は何だろう。……気にしない事にした。


「…………いやな、その、告白した時勢いと流れで朝帰りしたから流石に親御さんにバレてな」


 ……あのときは俺も若かった。抑えきれなかった。今も抑えきれてないけど。

 ちなみに名雪はその時陸上部の合宿中でした。ぶっちゃけ計画してました。

 おそるおそる話した俺に秋子さんは一秒で了承しました。有り難かったですがそれもどうかと思います。


「……………………ゆういちー」

「うん言いたい事分かってるからお願い何も言わないで」

 冷え冷えとした視線が突き刺さって痛いです名雪さん。自業自得だって分かってるから。


「いやー……親父さんの『一度ウチに来い』ってお言葉を伝え聞いた時はビビった……」

 逃げられないですよーっ、という目の笑ってない笑顔の佐祐理さんも怖かった。

 だって真剣に駆け落ちしようか検討したもの。佐祐理さんに話したら「即日捕まります」と断言されたので却下されたが。


「で……まあそういうわけで面と向かって認めてもらわなきゃ不味いらしく。

 其処で当時の相沢祐一(18)は思った、『どうせなら向こうの度肝を抜いてやろう』と」

「……普通にすれば良いと思うんだけど」

「まあ後から思うとそうなんだけどさ」

 あの時はテンパってたからなあ。

 俺はつくづくと小市民体質らしい。


「具体的にどうしたの?」

「――……死装束着て短刀と持ってついでに舞に介錯用の刀持たせて佐祐理さんの親父さんの所に行った」

 死装束ってのは時代劇の切腹シーンで使うような白いアレですハイ。

「……わ。そんな事してたの」

「言っておくけどあの時は大真面目だぞ、俺。よく分かんないけど一応遺書も書いたしな」

 ついでに言えばどんな切腹の仕方が一番楽なのかも調べた。結局分かんなかったけど。

「死装束とか何処で揃えたの?」

「……秋子さんが何故か丁度良く用意してた」

 というかツッコミ所そこですか名雪さん。

「――……で、まあ紆余曲折の末に何とか親父さんに認めては貰ったんだが、な」

 其処に至るまでには結構込み入った話があるのだが諸般の事情によって割愛。


「東京の有名大学への進学が最低条件、だった?」

「そ。用は『倉田の跡継ぎとして相応しい男になれ』、って事だ」

「お母さん説得するの大変だったよね……」

「秋子さんが初めて一秒で了承くれなかったからあの時は驚いたな……」

「……そういえば祐一の両親は」

「事情話したら『勝手にしてろ』とだけ言って電話切りやがった」


 放任主義も此処まで徹底すればある意味大したものだ、と祐一も内心呆れ混じりに思ったのも覚えている。

 尤も一人息子の婿養子にもあっさり快諾したその両親がいなければ今の彼は存在し得ないのではあるが。


「で、血の滲むような受験戦争を経て何とか合格してみればなんとその大学で親父さんの知り合いが教授でな。

俺の話も伝わってたらしくゼミもその人の所に強制的に入らされて……まあ色々と大変だった」


 学生に厳しい事で有名で講義内容は役に立つが滅茶苦茶キツイ。

 同じゼミの先輩に佐祐理さんがいなければとても耐えられる環境じゃなかった。

 ま、根は悪い人じゃなかったから筋を通して話をすれば力を貸してくれたりしたんだが。


「就職の時は世話してもらったんでしょ?」

「ああ。他の新人の5倍は厳しい事やらされたがな」

 何度か本気で逃げようかと思ったし。

 これまた佐祐理さんが傍で励ましてくれたから何とかなったけど。


「幸せものだね、祐一」

「まぁな」

 考えてみれば色んな人に世話になった。

 これからも世話になるし、その分俺も恩返ししなければならないと思う。

 こんな風に考えるようになった自分に驚いて、少しだけ誇らしく思う。

 


「……でも時々は休みたくはなるんだけどな」 

「そういうとこは祐一らしいね」

「ほっとけ」





◇17:15 学校から商店街へ





その後はお互いの情報交換という名のとりとめのない無駄話。




 ――――美坂香里は国立大学に特待生で入学た後、今は外交官の仕事をしているとか。

 最近忙しすぎてちょっとお肌の状態が荒れているのがちょっと気になってるとか。


 ――――北川潤は高校卒業後地元で就職し中古車のセールスマンとして働いているとか。

 香里似の女性にストーカーのような真似をして警察に突き出されて現在執行猶予中だとか。


 ――――川澄舞は組織に馴染めず今は職を転々としながらフリーター生活をし母親に仕送りをしているとか。

 素直で純粋なんだけど口べたで無表情だから陰口を叩かれるのを何とかしてやりたいとか。


 ――――生徒会長(名前忘れた)が町の市会議員に立候補して当選したとか。

 収賄とかスキャンダルを起こして退職に追い込まれて家族もろとも破産に追い込まれたとか。


 ――――秋子さんの肌には未だに皺やたるみがどう見ても一つとして見つからないのはやはりおかしいとか。

 あのオレンジ色のジャムの正体を一度探ろうとしたけど気が付いたらベッドの上で寝ていたとか。




 ……ツッコまない。絶対にツッコんでやらない。




 2人は歩く。

 昔の思い出を楽しむように。懐かしむように。そして――――確かめるように。


 映画館が潰れているのにちょっと祐一がショック受けたりとか。

 商店街を歩いている最中に名雪がビー玉ねだったりしたとか。

 それでいいのかと祐一が苦笑すれば後の方が大変だからね言われて疑問に思ったとか。

 百合屋で名雪に凄まじい量の――何でも裏メニューだとか――イチゴサンデーを頼まれてビビったとか。

 祐一の財布の中から紙幣が2枚以上消えたような気がするとか。


 懐かしい思い出をもう一度踏みしめるように歩く。


「……いや、後半懐かしくないから絶対。前は夏目さん一枚で済んだのに福沢さんが2,3枚かかったんだが」

 畜生負けた。ツッコんじまった。

「ふふ、流石にS・G・DX(スーパー・ゴールデン・デラックス)イチゴサンデー・ドリームスペシャルは格別だね……」

「その小学生みたいなネーミングセンスはともかく、あの量は異常だろ……」

 顔の高さ以上に積み上げられたパフェには食欲より吐き気しか感じなったんだが。

「……やっぱり半分出そうか?」

「いいよ、しょうがねえ。奢るっていったのは俺だしな」

「わ、祐一太っ腹」


 苦笑いしながら祐一はある言葉を言おうとして、やめた。

『ま、今日は特別だからな』。

 ……この場で言う言葉ではないと判断した。

 それくらいの空気は読める人間だと自負しているから。



「ねぇ、祐一」


 名雪が声を掛ける。

 ――……その声はどこか少しだけ、震えていた。


「ん?」

「知ってた? 私ね、――」





 ――――――祐一の事、ずっと大好きだったんだよ。






『……いたい』

『ほら、やっぱりけがしただろ』

『うー……』

『あいかわらずどじだなあ、なゆき』

『ひどいよー……』

『またあきこさんにしかられるぞ、なゆき』

『うぅぅうう……』

『……はぁ。なくなよ、なゆき』

『だって……だって……だってぇ……』

『ほら、かえろう、なゆき』

『いたい……あるけない……』

『わかってるよ、ほら。おれのせなかにのれ』

『……』

『はやくしろ。くらくなるぞ』

『……うん。ごめんね、ゆういち』







「……それ、何時から」

「えっと、……覚えてない。気が付いたら好きだったみたい」

 でも本当に自覚したのはつい最近なんだけど、と付け足す。

「な、何で」

「分からないよ。いつの間にか好きになってたみたいだから」

「え、……えーと、ちょ、うぇ、あ、あのさ……名雪」

「うん」

 へぇーそうか名雪って俺の事好きだったんだうわ知らなかったなぁ……。



「――……ってええええええっ!?」


 えー放送席、現場の相沢です。

 私、只今かなり焦っております。

 こんなのに焦ったのはあれです大学4年先輩に飲みに連れて行ってもらい(立場上断れず)調子にのって何件もハシゴしてる流れでキャバクラ行って深夜にボロの安アパートにバタンキュー状態で帰宅。

 そのままグースカ眠った翌朝に佐祐理さんが忙しい時間の合間を縫って家事をしてくれている時に最悪のタイミングでポケットから女の子の連絡先が出てきた上にシャツにキスマークが綺麗に口紅で描かれていた時以来です。

 ……ってかあの時の佐祐理さんの笑顔は地獄の閻魔様が「ちょ、マジ勘弁」って言いそうなぐらい恐かったです流石倉田のご令嬢だと思いました教育行き届いております。

 流石倉田の御令嬢、並の育ちじゃございません。ご機嫌直してくれるまで一週間掛かりました。



 ……ってそんなどうでもいい事はともかく落ち着け相沢祐一いいか素数を数えて落ち着くんだ。1,2,たくさん。はい落ち着いた。


 この後にするべき俺の選択肢は主に3つ。


 @真面目な返答をする(無難そうに見えるが展開次第でデッドエンドの匂いが。……罠?)。

 Aとりあえず走って逃げる(この場は逃れても名雪と気まずくなりそう)。

 Bネタに走って誤魔化す(意外と無難かもしれない。後のフォロー次第で傷は一番浅そう)。


 そして俺が選んだ選択肢は、



「――――……………………それ、ドッキリか何かだよな?」



 ……Bでした。うん、人生無難が一番だよな。


 父ちゃん母ちゃんごめんなさい。

 貴方達の一人息子はどうしようもなくヘタレでした。

 でも父ちゃん、貴方は「困った時は笑って誤魔化せ」って良い笑顔で言ってましたよね?

 ……母ちゃんに浮気ばれた時は笑って誤魔化そうとしたら撲殺寸前まで花瓶で殴られてピクピクしてましたけど。

 子供が見た現代の地獄絵図として今も脳裏に焼き付いております。



 でも父ちゃん、事が露見した時の母ちゃんを目の前にした貴方がふるふると子犬のように震えていた気持ちがこの年でやっと分かってきました。

 会社の女の子と話している時でさえ頭の中で綺麗な笑顔で睨みを利かせてくる佐祐理さんが俺は恐くてたまりません。

 それでも浮気何度か繰り返して三途の川を彷徨いながらも母ちゃんとラブラブやっている貴方が偉大ですお父上様。

 そのコツが知りたい気もしますが一昨年死んだばあちゃんに会いに行くにはまだ修行が足りないので遠慮させてもらいます。



「祐一」

「おい何処に隠れてる金髪アンテナ妖怪識別コードネーム【KITAGAWA】! どうせお前が仕組んでんだろ!?」

「……祐一」

「それとその妖怪の完全支配者美坂香里! いや香里様! ちょっと手が込みすぎだろってか最近化粧濃くなってるって噂だぞ!」

「………………ゆういち」

 あ、やべ。名雪泣きかけてる。

「……はぁ、分かってるよ。お前はこんな冗談が言える奴じゃないもんな」

「……そうだよ、ばか」

 それでも一応こういう事言って確かめとかなきゃならなかったけど。

 ……こちらにも色々あるんだ、察してくれ。具体的に言うと倉田SPの皆さんへの後日事情説明とか。


「でもさ、そう言われて俺はどうすれば良いんだよ。だってさあ――――」






 ――――――名雪、お前は明日他の男の花嫁になるんじゃないか。






◇同時刻 都内、某アパートにて






「舞ー、舞ー。準備出来たー?」

「……ごめん、あとちょっと」

「あははーっ、1泊2日なのにぬいぐるみ持ちすぎだよ舞」


 佐祐理の父の方針で経済的援助は最低限しか渡されていないので資金的にもあまり余裕はない。

 新幹線で明日の朝出発する予定だが流石に荷物が多すぎる。

 どう考えても旅行鞄3つ分は流石に異常だ。


「……アリクイさんが一度家に帰りたいって言ってる」

「じゃあ今回はアリクイさんだけにしようね、舞」

「……………………うん、がまんする」


 舞に涙目で頷かれると佐祐理としても罪悪感に押しつぶされそうになるのだがそれはそれ。

 自分がプレゼントしたアリクイを最優先してくれたのが嬉しかったりもしたが。


「……佐祐理」

「なーに?」

「……祐一と一緒に帰らなくて良かったの。最近祐一と佐祐理忙しいし、会ってない」


 舞の方はフリーター生活なので時間的な余裕は作れない事もないが2人の方は別だ。

 祐一は倉田の次期後継者として厳しい教育を日々施されているし、佐祐理もかなり多忙な生活だ。

 頭脳明晰で若くしてその経営手腕に定評のある佐祐理は激務を条件に3人の同棲を許可されているのだから仕方のない事ではあるが。


「うーん……祐一さんと日程の都合がつかなかったのもあるんだけど……」


 佐祐理とて寂しいと思わない訳ではない。

 彼女とて年頃の女性なのだから恋人との時間が減っているのには内心不満たらたらだし何とかしたいと思っている。

 今回の一件とて佐祐理の方が少々日程が厳しいのではあるが無理すれば(強権発動すれば)何とかなりそうだった。

 が、舞が涙ながらにパート仲間のおばさんがギックリ腰になって順番を変わって欲しいと懇願されて断れなかったと言うのを聞いて佐祐理はその案を完全に捨てた。

 未だに世間ずれしていない部分を持っている彼女を一人にしておくと危険だと判断したのが要因の一つ。しかし、それだけでもなかった。


「一日だけ、最後にあげようかなって思ったの……あの子に」


 人生の門出を控えたあの子に、一日だけ塩を送ろうと決めた。

 思えば不戦勝のような勝ち方だったから。

 彼女はあまりにも距離が近すぎて、その時は気が付かなくて。

 私が側にいるようになって初めて本当に気が付いたようで。

 ……あの子の視線の意味を、私が感づいていないとでも思ったのだろうか。


「……? 佐祐理、どういう意味」

「あははーっ、舞、鈍感さんだよ」

「……分かんない。佐祐理、いじわる」

 再び涙目になる舞に慌ててよしよしと子供をあやすように頭を撫でる。

 祐一の常套手段であり舞には絶大な効果を発揮するこの手口。

 ……その天然ジゴロな部分だけはどうにかならないかと思案しつつ。

 まあそれも祐一さんだしそれを含めて私は大好きだしとちょっと溜息つきつつ惚気たり。

 不思議そうな顔でのぞき込んでいる舞の頭を撫でながら佐祐理は言う。


「単純な事だよ、舞」

 クスッと――その気になれば世の中の半分を虜にし、半分からは憎悪の対象になれそうな笑顔で佐祐理が笑う。

「佐祐理が、祐一さんを信頼してるって事だよ」

「……?」

 舞の頭の上にはさらにクエッションマークが増えた。





◇18:30 駅前・映画館跡





「どうしたらいいって……どうしたらいいのかなぁ」

「……おいおい」

「じゃあ祐一ならどうしたいと思う?」

「さぁな。だがまあこれが仮に映画だとするなら、だ」

 ちょうど此処には映画館があったとこだし。

 映画ならどういう展開が一番やりやすいかで例えてみるか。


「ここら辺でお前の独白が始まってそれを聞いた俺が戸惑うシーンじゃないか?」

「えっと……こう2人がぎゅーっと抱き合うシーンじゃないの?」

「ばーか、何事も下準備が必要なんだよ。この状況で抱き合ってみろ? 唐突な展開に観客は全員『はぁ?』と思うぞ」

 もしその展開を選ぶならこの直後に回想シーンでも入れなければ不味いだろうけど。


「その後は?」

「ベタな展開なら家に戻った俺が夜ベッドでずっと考え込むシーンだろうな。適当に回想も入れれば尚良い。

……まあもし俺がヘタレなら帰り道に偶然北川あたりに出会って飲み食いして背中押して貰うシーンあたりになるんじゃねえか。

『お前それで良いのか?』とかそんなかんじの内容のヤツ」


 残念ながら北川は明日にならないと帰らないのでこの展開はボツだが。

「ふんふん。で、夜が明けたら?」

「一気にすっ飛ばして控え室でのシーンだな」

「其処にはウェディング姿の私の姿と着物姿のお母さん?」

「待ち時間の控え室には空気を全く読まない莫迦発言する北川と名雪の気持ちを察して複雑な顔の香里とか脇役が登場したりしてな」

 まあ実は北川は意外と空気が読める男なのだがそれはさておき。


「で、場面は教会へ」

「其処にはウェディングドレス姿の私とタキシードの男の人」

「キスシーン間近になって其処まで音沙汰なかった俺が突如乱入して名雪をかっさらう」

「慌てて追いかけてくる皆」

「それを振り切りながら俺が名雪抱えて逃げるわけだ。

ちなみにこの後の展開は個人の自由だが俺が連れ去ってフェードアウトで終わりというのが一番楽だな」

 曖昧なラストというのは無難だし。


「……ベタだね」

「全くだな」

 本当につまらんストーリーだ。

「うん。後、意外と祐一ってロマンチストなんだね」

「うるさい。そういう名雪はどうなんだよ」

「私も、同じかな。たいした事思いつかない」

「お互いに想像力が貧困だな」

「そうだね」

 顔を見合わせて笑う。



「ね、祐一。そこまで想像出来るなら本当にしてみる?」

 ……この馬鹿。

 何時の間にそんな表情が出来るようになったのか。


「へぇ、何をだ?」

「駆け落ち。本当の映画みたいに」

「随分と唐突な話だ。しかも俺に映画の主人公になれと?」

「私じゃヒロインは似合わないかな?」

「俺が相手という不条理に比べればたいしたことないさ」

 自分で言ってて少し空しいけど。


「じゃあ……祐一の答え聞かせてくれないかな?」


 熱に浮かされたような眼差し。

 それは何かを期待しているようでも、期待していないようでもあり。

 ……俺ってそんな視線を向けられる程の2枚目だっただろうかと思いつつ口を開く。



「わりぃ。そりゃ、無理だわ」

 自分でも驚くほど迷いの無い、きっぱりとした答えだった。




 ――――その答えは、最初から分かっていた。

 けど少しだけ、……ほんの少しだけ揺れる心を自覚しながら名雪は言葉を続ける。


「佐祐理さんがいるから?」

「――……まあそれが大きな理由ってのは勿論だけどさ」

 ぼりぼりと頭を掻きむしり少しだけ躊躇い。

 ちょっともったいないことしてるよなと自覚しながら。


「今の俺には名雪をそういう風に思えないから。

 名雪の事は好きだ。けど恋愛対象としては考えられない」


 ――――……まだあの頃なら、違っていたかもしれないけれど。



 もしかしたら言わない方が幸せだったのかもしれない。

 笑いながら誤魔化してやった方が傷つく事は無かったかもしれない。
 
 けれど名雪が望むなら答えなくちゃならないと思う


 それが必要だと思うから。

 それが惚れられた俺の役割だと思うから。


「ありがと、祐一。ちゃんと言ってくれて助かったよ」

「本気だったのか?」

「あはは。もし頷かれたらどうしようかと思った」

「……お前なぁ」

『どうしようかと』って……そんなどちらにでも取れる事言うなよ。


「後、聞いていいのかどうか分からんが面倒なので一応聞く。何のつもりだ、これ」

「一応、けじめのつもり」

「だろうな」

 それ以外に思い浮かばなかった。

「本当は祐一と佐祐理さんが結婚する事になってから、のつもりだったんだけど」

「俺の方が『結婚はお前が一人前になるまでは無理』だ、って言われてるしな」


 祐一は大学卒業後、倉田財閥の次期後継者として育成されている。

 倉田財閥の直系にはもう一人娘の佐祐理しかいなかったためにその座を狙うものが少なからずいたので娘の将来を願う身としては結婚相手の育成は自分自身の手で行った方が良いと判断したのか。

 佐祐理の婚約者という事は非公式ながらも周知の事実なので色眼鏡で見られる事も多く、祐一は息苦しい日々を過ごしてはいるが事情が事情なので仕方のないことと割り切っている。

 ……時間掛かりそうなら思い切って出来ちゃった結婚に持っていこうかと真剣に検討したりもしてるがリスキーな選択肢なので今のところ却下。


「気持ちの整理が出来ないのはあの人にも失礼だと思うから。

……お母さんの事情で同居を笑って快諾してくれたあの人に悪いから。

だからいい加減けじめ、つけようかと思って」



 ――あの人。

 明日から名雪の旦那様。

 彼女と同じ会社の3歳上の男性。

 大人しくて地味で目立たないけど、心の暖かくて優しい人。




「……で、これでけじめはついたのか?」

「えっと、後もう一つだけ。……いいかな、祐一?」

「何だ? もうついでだ、俺に出来る範囲でなら応えてやるよ」

「じゃあ……。あ、祐一。佐祐理さんが後ろに立ってるよ」

「なんだそのサプライズ発言はっ!?」


 佐祐理さん俺何も悪いことしてないつもりですがお気に召さない事がおありになりましたでしょうかっ!? ……ってあれ?


「名雪、佐祐理さんなんか何処にもいないじゃな……むがっ!?」



 振り返ったら唇奪われた。半ば強制的に。

 不意を突かれて硬直した。だから避けられなかった。嘘じゃない、……多分。

 で、がちん、と音がした。 とりあえず思ったことは。


 ……歯が、痛ってえぇぇぇ!?



「……痛いよ、祐一」

「いきなり頭突きかました上にその言動とは良い度胸じゃないか名雪」

 あー……よかった。歯が欠けてなくてホントよかった。

「ごめん。後それ私のファーストキスだから異性としては」

「……マジ? 後、最後がすっげえ気になる」 

「初恋の印にそれだけは祐一にあげる」

「無視かよ」

「だってそれは乙女の秘密だもん」

「どーせレズっ気のある部活の先輩に奪われたとかいうオチだろ?」

「……」

 あれ? もしかして当たり?


「――……さ、これで水瀬名雪の切ない片思いは終わりだよ。めでたし、めでたし」

 何となく気まずい空気を振り払うように名雪が言う。

 ……なんちゅーか今日は色々とすまん。


「しかし……めでたいのか?」

「うん。これでやっと終わったから」

「そっか」

「やっと終われる時が見つかったから」

「そっか」

「でも終わっちゃった。……終わっちゃったなあ」

「……そっか」

「祐一」

「うん?」

「苦しい事や悲しい事もあったけど。祐一は結局最後まで私の気持ちに気づいてなかったけど」

「……すまん」

「私、祐一に恋して幸せだった」

「……そっか。ありがとな、名雪」

「うん」



「帰ろっか、祐一」

「……ああ。帰ろうか、名雪」


 差し出した手を自然に握り返す。


「……そういえばガキの頃、此処に泊まりに来た日は何時もこうだったよなぁ」

「昔のこと、思い出したの?」

「まぁ、ボツボツとな。……昔から苦労させられた気がする、名雪には」

「祐一が私を引っ張り回したんだよ……」

「最初はな。でもいつも最後はお前の方が大はしゃぎしてた」

「祐一が飽きっぽいだけだよ……」

「で、毎回怪我するんだよなぁ。お前運動神経は良いのにどんくさいから」

「……うー」






『なゆき』

『……?』

『…………おもい』

 ぽかっ!

『いたっ! なにすんだよなゆき』

『…………ふんだ』

『なんだよー、なんでおこってるんだよー』

『…………………………べつに』

『わけわかんないなぁ……』

『…………ゆういちの、ばか』

『うわっ!? なんでだよ』

『ばか、いじわる、としうえしゅみ、へんたい』

『ちょっとまて! さいごはちがう!』

『……としうえしゅみ』

『……。なゆき、あきこさんにちくってやる。「はしりまわってずっこけてねんざした」って』

『……』

『なゆきは「べにしょうがどんぶりのけい」だからな。ふふん、まいったか……いたたっ!?』

 ぽかっ! ぽかっ! ぽかっ!

『あ、あばれるななゆき! あばれるな! おとす、おとしちゃうから!』

『ゆういちのばか。いじわる。すけべ。……どんかん』

『なんでだよっ!?』






「なぁ、名雪」

「なに?」

「お前未だにボケボケしてて危なっかしいけどさ」

「うー」

「でもいい女になったな、名雪。今更、……しかも俺が言うのもどうかと思うんだけどさ」

「あはは……そうだね。でもありがとう、祐一」

「幸せになれよ、名雪」

「……うん」




「ね、祐一」

「ん?」

「ありがとう。――――そして、さよなら」




さよなら、私の初恋。

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