「はふぅ〜……」

 本日何度目かの溜息……と言うより、だらけ声。

「……佐祐理、みっともない」

 私はテーブルの上に体を投げ出して、だらけている佐祐理を窘める。

 佐祐理の格好はワンピース。だけど、裾は捲くれ上がっていて、危ういところまで太ももを露出しているし、肩紐は半分以上ずれて、半ば役に立っていない。

 こんな格好を祐一が見たら――いや、祐一でなくとも男なら――卒倒もの……もしくは暴走ものだと思う。

 それほど、私から見ても扇情的だ。

「でもね舞、こうも暑いとね……」

 佐祐理の言い分も分かる。

 何せ、今日も今夏の最高気温を更新したらしい。

「……暑いけど、その格好の言い訳にはならない」

「舞〜。分かってるっけど、今日の気温は……」

 分かっている。今年の夏は気温がおかしい事くらい。






本年は猛暑也








「……41.3℃」

 今日の最高気温だ。

 全く持って馬鹿げていると思う。

 冬になれば氷点下なんて軽く下回るはずの地域の夏の気温ではない。

 いや、むしろ沖縄ですらそんなにお目にかかれない気温だと思う。

 さらに、今年は日に日に気温が上がってきているらしくて、一体どこまで上がるのか予測不能らしい。

「舞〜。暑いよ〜」

 暑いと言われても仕様がない。

 第一、佐祐理と共に借りたこのアパートには、クーラーだのエアコンと言ったものは付いていないし、扇風機や団扇すらない。

 買えばいいじゃないかと思うだろうけども、親に絶対迷惑をかけない約束をしている今、そんな金銭的余裕もないし、高々団扇を買うためだけに40℃を超える外に出ようとも思えない。

 だから、結局――

「佐祐理、我慢」

――としか言えなくなる。

「じゃあ、舞。せめて涼しくなるものでも言おう?」

「……スイカ?」

 突然の佐祐理の提案に少し躊躇しながら乗ってみる。

「そう! じゃあ、冷やし中華」

「……カキ氷」

「そうめん」

「……アイス」

「冷麺」

 と、ここまで来て思うことがある。

「……ねえ、佐祐理」

「なに、舞?」

 佐祐理は全く疑問に感じていないのだろうか?

「むなしくならない?」

「…………あ、あははーっ。じゃ、じゃあ止めにしようか?」

 どうやら、本当に疑問を持っていなかったらしい。

 と言うより、私に言われて初めて気付いたんじゃないだろうか?

「舞。じゃあ、何しよっか?」

 正直なんでも良い。

 むしろ、この暑さをしのげるのなら私は何だってやるつもりだ。

「……ん、佐祐理に任せる」

「そっか〜、なら、プールでも行こうか?」

――ピッ

 佐祐理の提案に私は無言でテレビをつける。

 ちょうどそこには、この暑さの所為でプールが混み、中に入れない人が沢山いるというニュースが流れていた。

 しかも、よく見るとそこには美坂姉妹と北川潤の姿もある。

「…………」

 そのニュースを佐祐理に見せて、私は無言で見つめる。

「じゃ、じゃあ海は?」

――ピッ

 私はまたしても無言で、今度はチャンネルを変えた。

 そしてそこには、今年は海が混雑していて人で溢れていると言うニュースが流れた。

 さらに、そこには祐一たち水瀬家の面々が映っている。

「……それに、佐祐理。今から行っても泳ぐ時間がない」

 それが駄目だしだった。

「あ、あははー……」

 さすがの佐祐理も笑顔が引き攣っている。が、次第にその笑顔が曇ってくる。

「……佐祐理?」

「ごめんね、舞。佐祐理が不甲斐ないばっかりに……」

 いきなり佐祐理がぐずりだした。

「佐祐理がお父様に迷惑をかけない。なんて言わなければ、今頃は舞と佐祐理の別荘で悠々自適の夏休みだったのにね」

 佐祐理はそう言って、わーっと泣き出してしまった。

「佐祐理の所為じゃない。これは私たち二人で望んだものだから」

 私は暑いのも忘れとっさに佐祐理の頭を抱きしめた。

「本当? 舞……」

 佐祐理が男じゃなくても、凄くドキッとするような表情で私を見る。

「佐祐理……」

 ふぅっと、私は無意識に佐祐理に顔を近づけていく。

 そして、唇と唇が合わさろうとした瞬間。

――ガチャッ

「舞ー、佐祐理さーん。元気にしてた…………?」

 いきなり、祐一が家に入ってきた。

――びくぅぅぅぅ!!!

 思わずそんな擬音が出るほど驚いた私たちは、そのまま固まってしまった。

「ゆ、祐一……?」

「ゆ、祐一さん……どうしてここに?」

 祐一は私たちの言葉も聞こえてないような顔で私たちを見ている。

「ど、どうしてここに? って、昨日まで海に行っていたから、今日は土産を持って遊びに行くって言ってたじゃないですか」

 そう言われて、四日ほど前にそんな事を電話で聞かされた覚えがあるのを思い出す。

 ついでに、さっきのニュースで生中継と一言も言ってなかったことも。

「そんなことより……まさか、二人がレ……げふっ!」

 祐一が妙な単語を口走りそうになった瞬間、私はいつものチョップ……ではなく、正拳突きを顔面に放っていた。






――その後……

 祐一の誤解を解くことで、一日をあっさりと潰してしまった。

 妙に慌しかった所為なのか、その間暑さもあまり感じることはなかった。

 いや、むしろ感じる暇がなかったと言った方がいいかもしれない。

 まあ、要するになにかやることがあれば暑さは吹き飛んでしまうと言うことだろう。

 それにしても、暑さに当てられていたとはいえ、佐祐理とあんなことをしようとするなんて……。でも、それは私だけではなく佐祐理にも問題はある……はずだ。

 まったく、佐祐理はただでさえ可愛いのだから、あんな仕草を……えふん。

 ともかく、来年までには扇風機……いや、せめて団扇くらいは買っておいたほうがいいと切実に思った。
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