あわただしい最初の一ヶ月
1/6
相沢祐一は駅前のベンチで人を待っている。
失われた記憶の中で、このベンチは人を待つべき場所だった。
世話になる先の電話番号は知らない。未来によって、知っていたり知らなかったりするので、つじつまを合わせるにはこの時点では判らないとするしかないからだ。
待ち人来る。缶コーヒーは雪うさぎ。過去を彷彿とさせ、また先の展開を暗示するシーンであるが、分岐する物語において伏線は回収されないことの方が多いのだった。
1/7
水瀬家での生活が始まる。
名雪の制服が洗濯された原因は、前日の駅から自宅までの道程にあったらしい。待たされた理由が、部活動に関係することも判明する。
夕飯の買い物。7年前と同じ構図で、あゆと再会。昔の姿でもないし、眠り続けた姿でもない。エンディングでは、髪を切ったことにしてこの点をごまかすことになる。
1/8
転校初日。香里と出会う。
職員室を探していると始業式が終わる。教室は二階。転校には不慣れ。帰り際に北川と挨拶するが、即座に忘却。
商店街。喰い逃げ再び。道に迷って、栞と出会う。奇妙なことに、あゆは自分の年齢を把握している。
1/9
北川再登場。教科書を見せてくれる。窓の外に栞を見つける。
百花屋で名雪とイチゴサンデー。栞にかまけて、待ちぼうけさせたお詫び。これが本日の昼食がわり。陸上部は案外休みの多い部活らしい。
夕飯の買い物を引き受ける。商店街で真琴に殴りかかられ、気絶したので連れ帰る。夜中にお茶漬け。
1/10
休日。秋子と米袋の買い出し。あゆの名を聞き、秋子驚く。退院という発想がないのは、見舞ったばかりだからか、もう治ることの出来ない状態だからか。確かなのは、あゆの顔を秋子は知らなかったという点だけである。
1/11
近道を探して、大遅刻。
本日の日直、北川と香里。級友7人と学食に向かい、席がなく4人と3人に別れる。いまに伝わる、美坂チームの事始めであった。カツカレー。
商店街であゆと会い、一緒に探し物。あゆの記憶の街は7年前のまま。
名雪、ノートを返せと迫る。未来を知るもの以外は最初に選んでしまうだろう夜の学校ルートである。
1/12
購買でパン。栞はアイスクリーム、祐一はツナサンド。旧校舎への渡り廊下に舞を見つける。あははーという感じで一緒にお昼となるが、断るときの言い草はあまりにも的確すぎるだろう。
商店街であゆと探し物。
豆腐の代金が漫画に換わり、真琴を叱る。やや偏執的。風呂に乱入。
夜の校舎、コンビニおにぎり。
水瀬家にもティーパックがあることが判明する。
1/13
名雪が日直。みさかとみなせのあいだにひとりいる模様。
踊り場で食事したり、いつものメンバーで学食に行ったり、ふたりでバニラを食べたりする。ちなみに、いつもとやらの食事は、まだ二度目か三度目でしかない。
雪の商店街、相合傘であゆと探し物。
夜の学校、ガラスが割れる。
1/14
昼休み、舞と佐祐理が現れず、アイスを買って中庭に向かう。
舞、窓ガラスの件で職員室に呼ばれる。冷静に考えると、夜間の管理体制の方が問題である。夜の校舎自体、舞のつくった友だちホイホイなのかもしれなかった。
前回は停学なのに、今回はお咎めなし。
名雪の部活が休みなので、CD屋の場所を教えてもらう。百花屋でイチゴサンデー。うまくてリーズナブル。二杯で880円。
夜の校舎、懲りずに舞がいる。コンビニ寿司。
1/15
休日。あゆと朝食。
昼寝後、学校へ。誰も来ないと知りつつ、人を待つ栞。
夜の校舎、牛丼。
味噌汁風呂。
祐一、夜中に焼きそばの腕を振るう。
1/16
登校中に、舞と佐祐理を見つける。山犬参上。舞、大活躍だが、傍目には動物虐待。
後々のため、ちょっと早めだが雪うさぎを作成しておく。
放課後、栞と商店街。モグラ叩きで0点。
真琴の具合が悪くなり始める。ぴろを拾う、軽トラの荷台に捨てる。真琴、いなくなる。
夜の校舎、巻き寿司。
はちみつクマさん、ぽんぽこタヌキさん。
1/17
休日。再びあゆと朝食。後、映画。
降ってきそうな天気。真琴を見つけて鬱蒼とした山に分け入り、ものみの丘から街を見おろす。草地に寝込んだ真琴を抱いて帰る。
夜の校舎でみたらし団子。
1/18
校内人気者化計画、傍迷惑に発動する。
栞のクラスメイトから、栞が一日しか登校していないと知らされる。
真琴の風呂に乱入。
夜の校舎、ケーキ。
1/19
舞踏会の準備で半ドン。掃除当番。
名雪の腕時計、電池が切れる。
休み時間に佐祐理が現れる。舞踏会のドレスの件。
掃除中の廊下で、美汐に出会う。
商店街で時計の修理。祐一は、腕時計が苦手だったり苦手じゃなかったり、持ち歩いたり持ち歩かなかったりする。駅前ベンチで、栞と待ち合わせ。名雪とあゆ、初対面。甘味屋と露店で食事を済ませ、休日の学校を見学し、雑貨屋で真っ赤なビー玉を買う。
夜食は納豆とご飯。
1/20
舞踏会。本日も掃除当番。
昼休み、中庭で美汐と栞。巻き寿司とアイスで昼食。似顔絵のモデルをしながら、美汐の話を聴く。美汐は真琴の正体を見抜いているが、その根拠は不明だった。ものみの丘のふたりを見ていたのかもしれない。
公園で栞に告白するが、振られる。名雪の部活休み、手をつないで帰る。あゆ、水瀬家に泊まる。
学校に引き返して、舞踏会に出席。北川も参加していたらしい。魔物の襲撃。ちゃんと剣の用意もある。普段から学校のどこかに隠しているのだろう。
1/21
名雪の部活、休み。
佐祐理、昨日の負傷で大事をとって休み。舞に退学処分。
昼休みの中庭。栞、来らず。
ものみの丘で真琴がらみの記憶を思いだす。名雪とイチゴサンデー。買い物帰りのあゆと会い、連れ立って帰宅。
名雪と、夜の勉強会開始。
1/22
遅くまで勉強して、大遅刻。
昼休みの中庭で、美汐と香里の話。奇跡は一瞬の煌めきで春になるとお弁当で賑わう場所らしい。踊り場に急いで、佐祐理と作戦会議。舞の復学について。魔物の件はごまかし通し、署名を募ってみることに決定。
久瀬と談判。佐祐理が迷わず窓口に選んだところから見て、表か陰かはともかく実力者なのだろう。佐祐理とは初対面。
放課後、崩れかけた雪うさぎを発見。直して、片目に赤い真心を。ずいぶんと長持ちした雪うさぎであった。
1/23
あゆが家に帰る予定の日。秋子が倒れ、あゆが看病。少々いぶかしい展開ではある。
佐祐理、生徒会と和解。舞、帰ってくる。反生徒会の女生徒に事情を聞かされる。美汐に相談を持ちかけるが、かかわりたくないと拒否される。
香里に呼び出されて、数日ぶりに夜の学校。慟哭を聞きながら、差し入れのせんべいをかじる。
1/24
休日。物置で木刀を見つけ、がむしゃらに素振り。
午後になって街に繰りだす。100円ショップで鈴のついた髪留めを買い、駅前のベンチであゆと名雪に告白。互いを薦めあって、どちらも身を引こうとする。しまった、別々に告白するんだったと後悔するが、後の祭り。
家に戻った後、ものみの丘へ。帰りがけ、夜の公園で栞と再会し、一週間の恋人を約す。
夜の校舎、携帯栄養食。
1/25
全校対象突発試験。五教科を丸一日。先週に続いて、何故か今週も掃除当番。栞、登校開始。
名雪から、うさ耳入手。昼は学食。舞と栞とカレー牛丼。
掃除当番を済ませると、中庭で木刀を振って、駅前のベンチであゆと待ち合わせ。
家に帰ると真琴がいない。行方不明のぴろを探していたらしい。真琴、発熱。
今夜は何故かお赤飯。
夜の校舎、携帯食。しりとり。
1/26
栞と名雪の手作り弁当がバッティング。何気に香里も弁当持参。
名雪の部活、休みだったり、わざわざ部活着を披露に及んだり。
商店街であゆと待ち合わせて、お土産のイチゴケーキを買う。
戻ったところで、美汐から電話。駅前にとんぼ返りして、妖狐の話を聴く。姿を消したぴろは、関わりを拒絶する美汐を説得に行ったのかもしれなかった。
夜の校舎、携帯食とバナナ。
あゆ、二階の窓から深夜の訪問。
1/27
リビングで目を覚ます。名雪、朝練。あゆと登校。
5時間目、秋子の事故の報告。一説によれば、あゆの起こした奇跡。秋子が回復しなくとも話の展開は変わらないが、ここで事故が起きないと過去を乗り越えられないから。
放課後の素振りが佐祐理に見つかり、危険を理由に追い返す。校門で栞と待ちあわせてから、駅前であゆと合流、学校見学に向かう。大きな切り株。過去を思いだし、あゆ、消える。
1/28
佐祐理、休み時間の教室に現れる。誕生日プレゼントの相談。
佐祐理と栞をつれて買い物。舞のプレゼントはオオアリクイのぬいぐるみ。あゆの助言がなく、栞へのプレゼントはなかなか決まらないが、結局、スケッチブックと画材に落ち着く。
夜の校舎、石焼きイモで一休み。
1/29
名雪の部活、休み。
真琴の友だちになって欲しいと美汐に頼む。もう真琴は何も判らない状態だが、秋子の入院で面倒を見てくれる相手がいなくなったので。
ジャンボミックスパフェデラックスで姉妹の和解。北川を呼び出してタイムカプセルの捜索に向かう。願いの叶う人形を見つけるのは、自身が痛切な願いをもっていない人間である。唯一、本当に北川が必要な出番であり、彼が好漢であることが窺えるシーンでもある。
舞の誕生日。夜の校舎、プレゼントを持っていった佐祐理が怪我をする。知り合いがふたりも入院しているが、なかなか病院で過ごす時間がつくれない。
1/30
朝から雪。修復が終わり、天使の人形が戻る。交換にメッセージをこめた目覚まし時計を返却。イベントが立て込んでいるが、空き時間はなるべく駅前のベンチで過ごす。立場を替えて、7年前の繰り返し。切り株でも待たねばならない日なので大変である。
洋菓子専門店でアイスを買い、言葉たくみに栞を連れこむ。
窓ガラスを破壊する舞。魔物との最終決戦。
なんとか片付けて、日が替わる前にベンチに戻る。学校、さぼってる人発見。
1/31
休日。前日までの疲れで寝坊。切り株の学校に急ぎ、あやういところであゆと再会。あゆ、また消える。
栞とのデートに駆けつける。日付が替わり、誕生日のメッセージとともに別れる。
2/1
真琴、最後の発熱。ものみの丘で結婚式。
ぶっ続けに36時間の睡眠をとって、相沢祐一は目を覚ました。
この一月というもの、目の回る忙しさで、同時にいくつもイベントをこなし、もう少しもう少しと無理をして、ぎりぎりまで一日をしぼり取っていた。
振り返ってみれば、やるだけやったという実感はあるものの、その実ほとんど出来てはおらず、幾人かが去り、幾人かは不安定なままで、やがて訪れる結末を待っている。
夜の戦いは何が何やら解らないうちに落着し、この家もふたりでなんとかやっている。どうにかなったのはそのくらいで、それだって、追い込まれる前に食い止められなかった証しのようなものだ。
ひと頃に比べると、周りはずいぶん静かになった。
駅のベンチで待ち合わせて、桜の舞う街角をのんびりと歩く。同じ家に暮らしてみたり、同じ学校に通ったり、みんなでお弁当を囲んだりする。機会があれば集まって騒ぎ、仲のいい家族と友だちがいて、もう決してひとりじゃない。
満足の中、ふとしたことで現実感を見失う、そんな自分に苦笑する。いくつもの奇跡につむがれた、呆れるくらいに退屈な毎日。
それは、目覚める前に見ていた夢だ。みんなが幸せな日常の幻視だった。
夢と未来が同じくなるには、単に極小の可能性だけではなくて、目覚めたら別の世界だったとか、子どもの頃に戻って過去を変えたとか、飴玉が空から降って来るような、そんなたぐいの魔法が必要になる。
だけど、これだけやったのだ、きっと無理やりなハッピーエンドがやってきて、わいわいと騒がしい日常に暮らせるはずだ。
思いが空回りして、あんまり焦るなと打ち消した。そんなに強く願ったら、まるで本当は実現しないと判っているかのようだ。やがて叶うべき奇跡なら、ただ静かに待てばいい。
重くなった布団を押しのけて、ベッドの上にからだを起こす。
のどがかわいて、頭の芯にだるさが残っていた。からだはまだ目覚めていないが、そのうち腹も減るだろうし、別の欲求がそろそろ不満を洩らし始めている。
長く尾を曳くあくびして、そろそろ階下におりる頃合いだった。
感想
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