とある日の学校の裏庭にて
「こんな所で一体何の用よ?」
俺と春原に呼び出された杏が気だるそうに俺に声をかけてきた。
「いや、用件があるのは俺じゃないけどな」
「はぁ?」
そう言われて怪訝そうに杏は春原の方に視線を向け、硬直した。
そこに立っていた春原がまわしに髷を結って仁王立ちしていたからである。
「いつもいつも、僕はアンタにパシリにされてきたけど今日という今日は仕返ししてやるからな」
杏が説明を求めるような目で俺のほうを見たので掻い摘んで説明をする事にした。
「夕べいきなり相撲ならあいつらを見返せるって言ってた」
「はぁ?何よそれ?全然意味わかんないじゃない」
それはそうだろう、実際の理由を言ってしまうとこいつが暴走するところが見れないし。

で、その真相は…
今日も今日とて春原の部屋で何をするわけでもなくゴロゴロしていたら、部屋の主のアホが突然叫びだ
した。
「これだ!!これならいける!!」
何をいこうとしているのかは知らないが、俺はたぶん失敗するだろうと予感していたが、とりあえず何
のことなのか聞いてみる事にした。
「一体何の事だ?」
「なぁ、岡崎。相撲くらい知ってるだろ?相撲ってさ結構エロいよね」
「お前、大丈夫か?」
おかしいヤツだとは思っていたけどここまでとは……
「そういう意味じゃなくてさ、おっぱいをタッチしたり、おっぱいに顔から突っ込んでいったり、抱き
ついたり」
要はつっぱり、ぶちかまし、組み相撲って事なのだろうが、あの相撲からそれを連想できるこいつはや
っぱりアホだ。
「で、うまくいったら美佐枝さんのおっぱいに……うわっ、興奮して鼻血出そうだよ」
しかし、世の中そんなにうまくいくはずがない。
「とりあえず、いきなり美佐枝さんに相撲しましょうで通用するか?」
「ハハハ、大丈夫だっての。日本の国技なんだから何となくでいけるって。何なら明日にでも杏とか智代で試
してやろうか?」
そして今に至るのだが、その辺の経過は面倒なので伏せておいた。

「何でアンタと相撲なんかしなきゃいけないのよ。アンタなんか朋也と相撲とってればいいでしょ」
もっともだ、俺は絶対にイヤだが。
「フフンやっぱり僕に負けるのが怖いの?そうだよね、だっていつも僕がわざと負けてあげてるんだも
んね」
「…何ですって」
わかりやすい挑発だが杏もその挑発に乗りかけている。
このままでも面白そうだったが、さらに面白い展開を求めて口を挟むことにした。
「杏が勝ったら、少ないけどちゃんと(春原の財布から)懸賞金を出すぞ」
「杏が勝ったらって、僕が勝った場合は?」
「お前が仕掛けたんだからなしに決まってるだろ」
そもそも、お前の金から出すんだし。
「そっか…」
しばらく考えていた杏だったが、やがて意を決したようだ。
「いいわ、相手してあげる」
「そうこなくっちゃ」
3人のうち、行司をやる俺が土俵用の線を引き、春原がどこかからパクって来た盛り塩を用意して、準
備完了、いつでも取り組みOKだ。
何気に春原は形から入るタイプで、ちりちょうずや四股までちゃっかりこなしていた。
対する杏は、かなり冷めた目で春原を眺めていた。
そして…
「両者見合って…」
「「………!!」」
「ハッケヨイッ!!」
開始の合図と共に、春原が杏に対して組みにいった。
しかし、杏はそれより速いスピードで春原に左で喉輪を決めた。
そして春原がその手を勝ち上げようとした…次の瞬間
バチーン!!
杏の強烈な右の張り手…というかビンタが炸裂し、春原は一撃でブッ倒された。
「ただいまの決まり手は突き倒し、突き倒して杏の勝ち」
そして俺が春原の財布から千円を抜き出すと、土俵際で蹲踞して、心を刻んでいる杏に手渡した。
ただ、女の子が短いスカートで蹲踞はやめた方がいいと思う。


「やっぱりいきなり組んでいこうとしたのがダメだったんだよ」
懲りない男が起き上がりながら語り始めた。
「やっぱり、相撲の最初は当たり合いからだと思うんだよね」
頬っぺたに紅葉マークをつけながらカッコ悪い言い訳をするヘタレである。
春原のカッコ悪い言い訳を聞いていると今度は智代が現れた。
「一体何の用だ?こんな所に呼びつけたりして」
やはり怪訝そうな顔をしている。
「ああ、春原のヤツがな」
「またか……」
うんざりした顔をする智代だったが、春原の格好を見て顔を引きつらせた。
そりゃそうだが…
「一体お前は何をしてるんだ…?」
「フフフ、今までよくも僕を蹴飛ばしてくれたな。でも今日は相撲で勝負だ」
一瞬智代の目が可哀相なものを見る目になったような気がしたが、ふと俺のほうを向いた。
「どういうことなんだ?」
「要は相撲なら勝てるって事らしい」
あ、またあの目になった。
そして、智代が諦めたような顔になって
「わかった、それで気が済むなら勝負してやる」
……マジか?
「しかし私が勝ったら、もう私に突っかかってくるのはやめてくれ」
「ハハハ、いいよ。僕が負けるわけないからね」
一体この自身はどこから出てくるのだろう。
そして…
「両者見合って……」
「「………!!」」
「ハッケヨイッ!!」
合図と共に春原が猛烈な勢いで突っ込んでいった。
宣言通りのぶちかましだ。
しかし、智代は冷静に右にかわして、そのまま足を引っ掛けた、というか思い切り足を掛けて、刈り上
げた。
足を掛けられた春原はなす術なく、その勢いもあって身伸の前方宙返りの要領で体を回転させ背中から
落ちた。
「ゲッホ!!ゲホゲホッ!!!」
「ただいまの決まり手は蹴返し、蹴返しで智代の勝ち」
「うん」


「やっぱりさぁ、今の相撲っていえばスピード重視の突き押し相撲だよね」
受身も取れずに背中から落ちたダメージから回復したアホは、まだ懲りていないようだった。
「お前、そろそろやめとけば?」
「いーや、今までのはほんのお遊びさ。まだ大本命がいるじゃないか」
てな訳で美佐枝さんの部屋までやってきた。
コンコン
「美佐枝さんいる?」
カチャ
「何よ?…ってかアンタなんて格好してんのよ」
流石は年の功(ピーー歳)の女性、美佐枝さん。
春原のアホな格好を見てもあまり動じていない。
「相撲やろうぜ」
「やんない」
バタン
取り付く島もなかった。
「………」
春原にはかなり意外な展開だったようで、固まってしまった。
仕方がないので今度は俺が美佐枝さんを呼び出した。
「もうっ、何よ?」
「あの、俺からもお願いするからこいつと相撲を取ってやってくれないかな?」
「何でよ?」
美佐枝さんがみるみる不機嫌そうな顔になっていく。
「そろそろ、美佐枝さんの手で懲りさせてやってくれ」
そろそろオチも近くなってきているし…って何の事だ?
「ハァ、普通女性と相撲とろうなんて言う?」
そこが春原の春原たる所以なのだろう。
「面倒だからここでいいでしょ?」
「ああ、全然OKだ」
というわけで寮の廊下で相撲を取ることになった。
ここでも、春原は形にこだわるのか、土俵入りを行っていた。
そして…
「両者見合って……」
「「………!!」」
「ハッケヨイッ!!」
合図共に春原が猛烈な勢いで突いていった…美佐枝さんの胸を目掛けて。
あの野郎結局これが狙いか……
しかし、美佐枝さんは慌てず騒がす突いてきた春原の腕を取ると、自分の軸足を支点に体を回転させ、
春原の肘を極めながらブン投げた。
投げられた春原はそのまま顔面から壁にぶつかり、のびてしまった。
「ただいまの決まり手は小手投げ、小手投げで美佐枝さんの勝ち」
「はぁ、やれやれ」


そして数日後
今日も春原の部屋でゴロゴロしようと寮に来ると、やけに額に絆創膏を張っている連中が多いように思
えた。
その連中に共通する事はみな妙に次こそはという決意を秘めた顔をしているという事である。
しかし、その疑問もすぐに解けた。
廊下で、美佐枝さんと相撲を取っている春原とラグビー部員たちが見えたからである。
どうやら、あの件以来美佐枝さんに相撲を挑む連中が多くなったようだ。
「アンタらいい加減にしろー!!」
そんな美佐枝さんの咆哮をBGMがわりに、今度リラックスできる何かをプレゼントしようかと考えな
がら今日も春原の部屋でゴロゴロする事にした。
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