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 ぽかぽかと暖かい陽光の降り注ぐ水瀬さんのおうち。
 そのリビングに賑やかなクラッカーの音が鳴り響きました。

 ――おめでとう!

 皆さんが口々にそう祝福してくれます。
 そう、今日は私、美坂栞のお祝いの日なのです。
「ところで、何のお祝いなんでしょう?」
 ずどどっと、クラッカーを持っていた何人かがひっくり返りました。
 その中の一人、祐一さんが、ソファーにめり込ませた顔をがばちょっとばかりに持ち上げます。
「お前の誕生日祝いと快気祝いと復学祝いだろうがっ!」
「じょ、冗談ですよ」
「今の目、絶対本気だったわ」
 苦笑いしながら取り繕おうとしましたが、お姉ちゃんには見抜かれてしまいました。
 こういう時、姉妹というのは厄介です。
 でも、何も言わずにここに連れてこられたんだから、分からなくても仕方ないと思うんですけど……。
 それに、よく見たら知らない人も混ざってます。
 お姉ちゃんと祐一さん、それとあゆさんは分かります。
 あと一度しか会ったことはありませんが、優しそうに微笑んでる人達は祐一さんの叔母さんと従姉妹の秋子さんと名雪さんですよね。
 あとは……。
 休日なのに制服を着ている背の高い男の人。
 そしてやっぱり制服姿のお嬢様っぽい女の人に、凛々しい雰囲気の女の人。
 そこで肉まん食べてるツインテールの女の子(背は高いですが、私より年下の気がします)もそうですが、何故この人達は並べられた食事にもう手を出しているのでしょうか?
 何かおかしいと思いつつも、誰も咎める様子はないので突っ込んじゃいけないみたいです。
 それと、部屋の隅に大人しそうに控えている……。
「あっ、あなたは……」
「私がどうかしましたか?」
「いえ、前にどこかで会った気がして……そうだ、一年前に入学式で会いませんでしたか?」
 私がそう言うと、そのお姉ちゃんによく似たカールの短い髪の女の子はくすりと笑って言いました。
「覚えていて下さいましたか。入学式の日、お話した天野美汐です」
 やっぱり間違ってませんでした。
 でも、ちょっと変です。前に会った天野さん(名前も覚えてました)はこんな明るい雰囲気の人じゃなかった気がします。
 入学式、誰に話しかけるべきか悩んでいた時、ちょうど私とよく似て周りを不安そうに伺っている天野さんを見かけて、勇気を出して話しかけてみたのですが……。
「あれから何かいいことありました?」
「ええ、まあ」
 はにかむように、天野さんは小さく頷きました。
 その視線は、隣で肉まんを食べてる女の子に向けられています。


「さてと、それじゃ主役が来たところで始めるぞ。みんな準備は出来てるか?」
 私が全員の顔を見回したのを確認して、祐一さんが号令をかけました。
 すると、皆さんが二人一組になって大きな茶封筒を取り出して見せます。

「いつでも構いませんよ」
「準備オッケーだよ祐一」
「任せてよ。とびっきりの持ってきたよ」
「おう、こいつでどんなヤツもイチコロだ」
「あははー、ちょっと苦労しましたけど大丈夫ですよ」
「…昨日何も食べないで選んだ」
「はい、皆さんには見劣りするかもしれませんが」
「美汐、こういうのは気持ちよ気持ち。そんなに心配ならお札でも挟んでおく?」

 何か、一部不穏当だったり台無しな台詞が混ざっていたような気がしますが、どうやらその封筒はお祝い品のようです。
「よし、それじゃ順番に行くぞ」
 いったいあの封筒の中には何が入っているのでしょうか?
 何が出てくるのか分からないところに、不思議と胸の高鳴りを感じます。



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