「さてと、いよいよ俺達の番だな」
「そうね、待ちくたびれたわ」
 どうしましょう……。
 一瞬、南向きに出番を待ち侘びる二人が、ラスボスに見えました。
 しかも二人がかりなんて卑怯です。
「……栞、あなた今何か物凄く失礼なこと考えてなかった?」
「はうっ! そんなこと絶対ありませんっ」
「そのオーバーリアクションは肯定してるも同然だと思うが」
 うう、バレバレです。
 最近はお姉ちゃんだけじゃなくて祐一さんまで鋭くなって来たような気が……。
「まあいいわ。相沢君、お願いね」
「おう。これは俺からのプレゼントだ」
 祐一さんにしては珍しく、ごく普通に封筒を差し出しました。
 中も特に変わったところはありません。
 あぶりだしとかを予想したのですが、紙にはそのまま文字が書かれています。
 縦読みしたり、逆から読むのでもないようです。
「なあ、栞……」
「はい」
「そこまで疑われると何かショックだぞ」
「あ、あはは、冗談です」




第1位 チョコレートのストール  α・アルフライラさん   75.87 pts






 ふふ――
「栞、何笑ってるのよ?」
「いえ、こんなこともあったなぁって」
 お姉ちゃんの顔がみるみる赤くなっていきます。
 普段あれだけ辛辣なことを言ってて、自分もその狂乱に加わっていたんですから。
「あ、あたしは製菓業者の陰謀なんかに加担してないわよ」
「でも、どうせだったら混雑を避けていけばよかっただろ」
「うっ、それはその……」
 祐一さんの言う通りです。
 その日じゃなければ買えない物でもなかったんですから。
「お姉ちゃんも口ではあんなこと言ってて浮かれていたんですね」
「片意地張ってる姿が面白かったなあ、今思うと」
「あなたたちねえ……」
 握り拳を作ってぷるぷる震えているお姉ちゃんの顔はもう真っ赤です。
 見られていたのがよっぽど恥ずかしかったのでしょうか?
 それとも、その様子を解説されるのが恥ずかしかったのでしょうか?
 お姉ちゃんも、かわいいところがあります。
 妹ですから、こういうことを言うとお姉ちゃんがどんな行動を取るかもわかっていたりして。
 次は、つんと横に顔を背けて拗ねる、ですね。
「もう知らない。これは返してあげないから」
「わっ、ごめんなさい。もうしませんから返してくださいー」
 もちろん、もう子供でもないお姉ちゃんが本当に拗ねてるわけじゃありません。
 私が謝ると、ふわっと何かが首にかけられました。
 懐かしいぬくもりとやわらかい感触。
 お日様の匂いもたっぷりとついた春仕様です。
「はい、それがあたしからのプレゼントよ」
「どうだ、栞?」
「そうですね。前にもらったのもいいですけど、やっぱりこれが一番です」
 だって、このストールは大切な思い出のものですから。


「うーん……」
「どうしたんですか祐一さん?」
「いや、何事もなく終わってしまったのが何か物足りなくてな」
「最後くらい普通でいいじゃないの……」
 祐一さんのぼやきに、お姉ちゃんがため息をついて答えます。
「あら、もう凄いことが起きてますよ」
 その時、ぽつりとそんな意味ありげな呟きをもらしたのは、この家の主である秋子さんでした。
「えっ!?」
 皆さん、とても驚いた様子であたりを見回しています。
 でも、私はもうそのことに気付いていました。


−−−− 閉幕 −−−−