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 百物語というものがあります。
 物語を一つ語り終えるたびに蝋燭を一本ずつ消していき、百本の蝋燭が全て消えた時に『何か』が起こると言われる迷信です。
 そのお話を聞いた時、私は友達を誘っていつかやってみたいと思いました。
 そして今、形は違いますがそれに似たことを終えて……。
 私達の前で確かに『何か』が起こっていたのです。
 それも、普通では考えられない何かが。

 それに気付いていた私と秋子さんを除いて、最初に気付いたのは祐一さんでした。
 おもむろに一方向を指差して言います。
「そういえば、どうしてお前がいるんだ?」
 その指差す先には北川さんの姿がありました。
「って、お前オレに何か恨みでもあるのか!?」
 存在を否定されかけた北川さんが怒ります。
「違う、お前じゃない。その前にいるちっこいやつ」
「うぐ? ボク、ここにいたらいけないの!?」
 祐一さんが指差していたのは、北川さんの前に立っていたあゆさんでした。
 ちっこいの、はちょっと言いすぎだと思います。
 私も決して大きい方ではないので、あまり他人事とは思えません。
「祐一、言いすぎ。あゆちゃんを泣かさないの」
「そうですよ祐一さん」
「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃあ……」
「どっちでも同じだよ。ほら、あゆちゃんに謝る」
「……悪かったな、あゆ」
 名雪さんと秋子さんに睨まれて、祐一さんは渋々あゆさんに謝っていました。
 居候は色々辛い……なんて言ってるのを聞きましたが、それとこれとは話が違う気がします。

「ちょっとよろしいですか?」
 と、今度は横から天野さんが手を挙げました。
「私も何か違和感を感じてます。知らないはずの人を知っていたり、真琴がここにいたり。……いえ、本当は誰も知らない気もするんです」
「美汐も?」
「そういえば、オレも何か違和感が……」
「ちょっと、違和感がある人は手を挙げてみて」
 お姉ちゃんの問いかけに、今違和感を訴えた天野さん、真琴さん、北川さんが手を挙げ、続いて他の人達も手を挙げていきます。
 残された私と秋子さんが手を挙げた瞬間、その場にいる全員が手を挙げたことになりました。

「変なんだ。俺、栞と会っていたから会ってないはずなのに、同じ時間に舞と佐祐理さんに会ってた記憶がある」
「私も、入学式の日美坂さんに会った記憶と、そうでない記憶があります」
「真琴は、ここにあたしがいるはずがないって気がする」
「なあ、オレ水瀬のこと何て呼んでた? 水瀬さんって呼んでた気もするし、名前を呼んだこともない気が……」
「私は佐祐理なんでしょうか? それとも私なんでしょうか?」
「そもそも、今日って何年何月何日なのかしら?」

 皆さんめいめいにその違和感を口にしますが、何より強く感じることは同じのようです。
 何人かが口を揃えて言いました。


「全員が知り合いなんて有り得ない」


 と、全ての違和感はそこに集約されたようです。


「これって絶対におかしいぞ。一体、何がどうなっているんだ?」
 怪訝そうな様子で祐一さんが周りを見回しました。
 どこかに、この現象の犯人がいると考えたのでしょう。
 でも、そんな祐一さんに私は言いました。
「いいじゃないですか祐一さん」
「は?」
「だって、今日はお祭りですから」
 私がそう言うと、他の人がそれに相槌を打ってくれました。

「そうだよ祐一。お祭りなんだから」
「そうそう、細かいことは気にしないの」
「…大勢いる方が楽しい」
「ボクもそう思うよ」

 そうです。お祭りは何も気にせず楽しめるのが一番です。
 それに、私のためにこれだけたくさんの人が集まってくれたのはとても嬉しいです。
 ですから……。


「今度は皆さんのお話を聞かせてもらえませんか?」


 まだ聞いたこともないお話がきっとたくさんあります。
 今度は、あなたの新しいお話を聞かせてくれませんか?



(企画参加・応援ありがとうございました)




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