今日は佐祐理さんと舞の三人で動物園に行ってくる…予定だったんだがなあ…

外を見てみると


ザー


雨が降ってしまってるんだよなあ…






Rainy day








あれは一週間ほど前、舞と佐祐理さんの卒業を記念に三人でどこかに行こうってことになったんだっけな。

二人の卒業の記念なんだから行き先は二人に決めてもらうことにして、そしたら舞が

『…動物園がいい』

と言って、佐祐理さんも舞の行きたいところでよかったらしいから、俺の春休みの最後の日に行こうってことになったんだよな。



天気予報を見た限りじゃ今日は曇りだけれど雨は降らないって言ってたから安心していたんだが…おもいっきり外れてしまっているし。
…天気予報は天気予測と名前を変えるべきだと思うぞいやマジで。



仕方ない、こんな天気じゃ行けそうにもないから中止って舞と佐祐理さんに伝えるか。



まずは…舞からかな。
電話電話っと…

ピッピ…Prrrr…Prrrr…Prrrr…

…でない

Prrrr…Prrrr…Prrrr

まだでない…ひょっとしてまだ寝ているのか?

Prrrカチャ

お、でたでた。

『……はい?』

「お、舞か?俺だ」

『…祐一?』

「ん、正解だ。」

『…何?』

「えっとな、今日はまあ外を見ての通り雨が結構降っているだろ?
 
 だから今日動物園に行くのは中止にしようと思ってな。」

『……』

「…舞?」

『……分かった…残念…』

「…そうだな…でも絶対にそのうち連れて行ってやるから、な?そう落ち込むなって。」

『…うん』

「よしよし。それじゃ今度は佐祐理さんに電話しないといけないから。」

『…分かった、ばいばい』

「おう、またな。」 ピッ



…舞のやつ落ち込んでたなあ…まあしかたがないか、一番楽しみにしてたのは舞なんだし。
今度会いに行って励ましてやるか。






<舞>

『おう、またな。』 ピッ…ツー、ツー、ツー…


祐一から電話があった。

今日は動物園に行けなくなったから…

雨が降ってしまっているから…

予報じゃ降らないって言っていたのに…お天気お姉さんの嘘つき。

外を見てみる

雨がザーザー降っている…空は暗く曇っている…

…雨が憎くなった。

せっかくの予定を台無しにされたから。

…暗い空が嫌いになった。

落ち込んでしまった気分をさらに鬱にさせられたから。

…雨の日は嫌い。

早く晴れになって欲しい…そう思った。









さて、今度は佐祐理さんだな。

ピッピ…Prrrr…Prrrrカチャ

おお、出るのが早い!

『もしもし?』

「あ、佐祐理さん?」

『あ、祐一さんですか?』

「おう、祐一さんだぞ。」

『あははー、おはようございます。』

「ああ、おはよう。それで佐祐理さん、今日動物園に行くって言ってたけど、外はあいにく雨が降っているだろ?
だから今日は中止にしたいと思うんだ。」

『はぇー…残念ですねー。でも雨が降っているんじゃあしかたがないですよね。』

「うん、だから動物園に行くのはまた今度にしよう。」

『分かりましたー。あ、舞にはもう言ってあるんですか?』

「うん、ついさっきね。やっぱりショックだったみたいで声が沈んでたよ。」

『舞は一番楽しみにしてましたからねー。』

「はは、だろ?だから今度会いに行って励ましてやろうと思ってさ。」

『あははーその時は佐祐理もご一緒させていただきますねー。』

「よし、一緒に励ましてやろうか。それじゃ、また今度。」

『はいー。』 ピッ


「これでよしっと…」






<佐祐理>

はぁ、今日は動物園に行くのは中止ですかー。

…でも雨が降っているからしかたないですよね。

舞、落ち込んでいるんでしょうねー…お天気お姉さんに文句を言ってそうですねー。

あははー、今度祐一さんと一緒にはげましてあげに行きましょう。

…ふっ、と外を見てみます。

…雨が降っていますねーあたりまえですけど。

佐祐理は雨の日って結構好きなんですよね…

雨はいろいろな音を聞かせてくれて楽しませてくれますし

庭の草木もとっても生き生きして見えます。

それに、雨は虹を見せてくれますから。

雨の後に出てくる虹を見るのが佐祐理は大好きなんです。

速く雨が止んで虹を見てみたいですねー…







<祐一>

電話を切った後、俺は外を眺めてみた。

相変わらず雨が結構な強さで降っている…そういえば



「俺、この町に来てから初めて雨が降っているのを見た気がするぞ。」



この町では雪が降っているのはいやというほど(実際に嫌だったが)見てきたが

雨が降っているのを見るのは向こうの町以来だと言うことに気づいたのだ。


「…ま、だからといって何かあるわけでもないがな。」


別に久々に雨を見たからといって、感動したりするわけでもないしな。

予定が潰されたのは痛いけど、雨を恨んでもしょうがないしな。

雨はどちらかと言うと人を助けてくれるものだしな

感謝こそすれ、恨む理由はあまりない。

…まあ天気予報のお天気お姉さんは恨むかもしれないがな。

…いや、この場合は衛星のヒマワリをうらむべきか…あほらしいなこんなこと考えるのは


さて、秋子さんにも中止になったことを伝えておくか…






一階に降りると、すでに秋子さんが朝食の用意をしていてくれていた。


「おはようございます秋子さん。」

「おはようございます祐一さん。」


朝のあいさつを互いに交わしてから席に着く。

ブラックのコーヒーを一口飲んだ後に秋子さんに話しかける


「そうそう秋子さん、今日は俺でかけてくるって言っていましたよね。」

「ええ、確か川澄さんと倉田さんとで動物園に行く予定でしたね。」

「はい。でもあいにくのこの天気なので、今日は止めておくことにしたんです。二人には既に連絡しましたから。」

「あらあら、残念でしたね。…それでは今日は家にいるんですよね?」


頬に手を当てながらたずねてくる。その顔がなぜか少し不安げに見えるような…


「そうですね…他に予定なんかないですからそうなると思いますよ?」

「そうですか…ではゆっくりとしていて下さいね。」


どこか秋子さんの表情がほっとしたように見えた気がした…

…まあ気のせいということにしておくか。


「それじゃ秋子さん、いただきます。」

「どうぞ。」


頬に手を当てて微笑んでいるな…いつもの秋子さんだな。

やはりさっきのは気のせいだったんだろう、そう思って朝食を食べることにした。



朝食を食べ始めてしばらくすると、なんと名雪一人で起きて降りてきた!(ちなみにいまは9時過ぎ)


「うにゅ…おはようございま…す〜。」


…ちゃんと起きているかは微妙だがな。


「ど、どうした名雪?こんな時間に、しかも一人で起きて…」


…名雪がこんな時間に起きたから雨が降ったんだったりして。


「うにゅ〜…今日は部活の朝練があるんだよ〜。」


なるほど、部活か。だからこんな時間に一人で起きたのか。

しかしなあ…


「こんな雨の中で練習なんてできるのか?」

「…え、雨?」


俺がそう尋ねると名雪は慌てて外の様子を確かめた。


「わ、ホントに雨が降ってる…」


どうやら雨が降っているのに気づいていなかったようだ。

普通あれだけ降っていたら気がつくものなんだが…まあ気づかないのが名雪らしいといえば名雪らしいな。

そんなことを考えていると名雪がどこかしょんぼりとした足取りで戻ってきた。

そんなに部活が楽しみだったのか?…俺にはよく分からないな。


「で、名雪はこの雨の中濡れ鼠のようになりながらも部活の練習をするのか?」

「う〜、さすがにそれは無理だよ〜。」

「ふむ…なら今日は室内練習でもするのか?」

「だめなんだよ〜、今日は室内は他の部活が使っているからできないんだよ〜。」


なるほどなあ…ということは


「名雪も今日は一日家の中ってことか。」

「うん……あれ?私もっていうことは、祐一も?」

「ん?そうだぞ。」

「でも…今日は祐一動物園に行くんじゃなかったの?」

「あのなあ、こんな雨の日に行くと思うか?今日は中止にしたんだよ。」


そう言うと名雪は落ち込んでいた表情を少し明るくして


「ほんと?じゃあ今日はずっと祐一と一緒なんだね?」


勢いよくそう聞いてきた。


「ま、まあそういうことになるな。」


勢いに押されて思わずどもってしまった。


「そうなんだ〜…よかった」


そういうと名雪は秋子さんの用意した朝食を嬉しそうに食べ始めた。

なんだっていうんだいったい?

…まあ考えても仕方がないか。

さて、今日は一日家にいるんだ

何をするか色々考えなきゃいけないな。

…たまには何もせずゆっくりするっていうのもいいかもな。






<名雪>

今日は部活の朝練があるから眠たいけど一人で朝起きたんだよ〜。

でも祐一が雨が降っているって言って、外を見てみたらほんとに雨が降っていた…今日は晴れのはずだったのに〜。

しかたがないから今日は部活は中止にしないと…私走るのは大好きだけど雨にぬれながら走るのはさすがに嫌から…

後で皆にも中止って言わなきゃね。

…私は雨ってあんまり好きじゃなかったんだよね。

だって雨が降ったら外に出れなくなっちゃうし、思いっきり走れなくなるから。

でも…今は雨に感謝したいな。

だって今日一日祐一と一緒にすごす時間をくれたから。

最近祐一は休みの日になったらいつもどこかにでかけてしまっていた。

たしか…私達の先輩の川澄さんと倉田さんっていう人と一緒にどこかに行ってたんだと思う。

今日も祐一はその人たちと一緒に出かける予定だったけど…この雨でそれができなくなってしまったんだよ。

祐一と一緒にいるっていうのがすごく久しぶりのことだから、私とっても嬉しいんだよ。

祐一が前にぽつりと言ってたけれど、卒業をしたらこの家を出て行って先輩達と一緒に同居するらしいんだよ…

でも私はこの家から出て行って欲しくないな…

だって私は…今でも祐一のことが…大好きだから。

…雨がまだ止みそうにないね…祐一といろんなことが話せれるよ…








<秋子>

今日は朝から雨が降っていました。

予報では降らないといっていたんですが…予報は予報ですからね。

この雨のせいで祐一さんも名雪も予定がなくなってしまいました。

祐一さんは川澄さんと倉田さんとで動物園に行く予定でしたが、雨の中行ってもつまらないですから、今日は中止にしたそうです。

名雪も部活があったんですが、雨のせいでできなくなっちゃいましたね…せっかくひとりでおきてきたんですけれど、仕方がないですよね。

名雪は祐一さんと一緒にいられるということで喜んでいますね…やっぱり名雪はまだ祐一さんのことが…

ふふ、がんばってほしいものです。

それにしても…あのときと同じですね…

あの人がいなくなってしまった時と…

あの時もその年初めての雨が降った日でした。

予報では降らないといわれていた雨が降った日でした。

その日は家族三人で動物園に行く予定を立てていました。

でもあいにくの雨でその予定が潰れてしまい、しかたがなく家ですごす事になったんですよね…

そして私は、今日の夕飯のための材料がないことに気づきました。

その日は外食をする予定だったので、材料を買っていなかったんです。

あの人はそれを聞くと自分が何か買ってくる、と言い雨の中出掛けていきました。

そして…あの人は帰ってくることがありませんでした。

買い物を済ませた帰りだったそうです

雨でタイヤがスリップした車に撥ねられて……そのまま帰らぬ人となってしまったんです…

それ以来私は雨の日というのが苦手になりました。

どうしてもあの日のことを思い出してしまうからです。

祐一さんに今日どこかに出掛けるのかと聞いたのもそのことを思い出してしまったので聞いてみたんですが…たぶん少し不安な顔をしていたんでしょうね。

祐一さんが少し不審そうな顔をしていましたから。

だめですね…あの日のことを乗り越えたと思っていても乗り越えれていませんね。

けれどいつか乗り越える日は来ると思います。

乗り越えることは忘れることではありませんから。

…雨はまだ降り続いています。

しとしとしとしと降り続いています。

そして…私の心の中でも雨は降り続いています。

あの日のことを思い出して…涙の雨が降り続いてしまっています。

じわり、と涙がにじんできました。

心の雨が外にまで流れてきたみたいです…

外には今でも雨が降る。

けれどいつかは晴れる日が来る。

私の心も雨が降る。

いつ晴れるかも分からない雨が降る。

どちらの雨も早く止んで、そして虹の架け橋が出てほしい。そう思っています。

雨はまだまだ降り続いている。


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