人が他人を気に掛ける事で絆が結ばれていく
心が噛み合えば友となり気心の知れた親友となる
異性であり
相手を想う心があれば恋へ
互いを想い合えばそれは愛となる
育まれた愛は何時しか実るものであり
実りを迎える前に腐り落ちてしまうものもある
まさに実るか腐るかの二択
この二択の選択を突きつけられたカップルが今………
「――――結婚しよう」
「ぅぅぅぅーーーーーバカァァッ」
破局を迎えつつあった
きっと……恐らく………そうだとおもわれる
結婚談義、ある一夜
時刻は太陽が顔を隠し月が姿を現す頃。
家に帰れば夕飯が待っているであろうその時刻、街は様相を変え騒がしさを増してゆく。
酔っ払いの企業戦士達が彩るビアガーデン………と同じビルの地下。そこに、薄明かりを灯すバーが一軒。
夜の男と女の事情がリアルで繰り広げられる店内で、二人の女性がカウンター席に座り美しい彩りのカクテルを口にしながら語り合っていた。
「ぅーーおかわりっ」
「カクテルは果物ジュースみたいに飲む物じゃないわよ」
修正――――酔っ払いとそれを諌める友人の図がそこにあった
友人のカクテルの飲み方に眉を潜め、大人の雰囲気を宿した女性の名は美坂 香里。
味わう様子も無く、安物のジュースの様にカクテルを飲み干しカウンターに上半身を預ける女性の名は水瀬 名雪。
かつて高校時代に持ち合わせていた幼さは既に鳴りを潜め、歳に見合った大人の色香を宿した女性へと変貌を遂げ様としている二人がそこにいた。
「折角マスターが作ってくれたカクテルを……アンタってば」
製作者に対する敬意に、費用を加えれば……香里の口が閉ざされる理由など一つも有りはしない。
「だって……だって………なんだもん………うーーもう一杯」
喉を鳴らしながらカクテルを飲み干す名雪が口にした言葉は酔っ払い特有の意味が把握しにくいものであり、他者に聞かせる事を意識した物ではなかった。
意味のある言葉にしようと文章を組み立て……る最中に憤りが再燃したのか、結局心中は語られぬままカクテルと共に再び飲み込まれていく。
お世辞にもアルコールに強くない体質の名雪が躊躇も無くカクテルを一気飲みしているのだ。アルコール分の低いカクテルとは言え酔わない訳がない。
更に追加注文をしようとする親友の姿に溜息を一つ零し、香里は口を開く。
「――――まぁ、最初に言った様に今日は最後まで付き合うけど」
友として優しい言葉―――
「だけど、無様な姿を見せたら………裏路地に放置するわよ」
朝の路地裏は冷えるから風邪を引くかもねぇー。と、付け加えた彼女の表情は透き通った笑顔であった。淀みの欠片も無いサラリとした物言いは何処までも優しく…
「………………おつまみ…頼もうよ。うん」
親友の頬に流れ伝う汗と引き攣った唇の端に、香里は満足そうに笑みを浮べるのであった。
それでこそ名雪ね……と。
そんな二人やり取りに、若者特有の青臭さを感じ取った初老のマスターは表情を変える事無く胸中で笑みを浮べる………夜の街は更に輝きを増そうとしている――
一方―――
「あーーーっ、おかわりおかわり!」
ガヤガヤと騒がしい他の客に負けず劣らずの大声で注文をする。
大声に比例する様にその表情は『ケッ! やってられっかよぉ〜』と言う心情を物語っていた。酔いも回っているのか赤く染まった顔色は威圧感さえあった。それ以上の情けなさも含まれているが…。
「………はぁー酔っ払いに付き合うと言う偉業を進んで引き受けた自分は何と偉大なのだろうか」
紙面に書かれた文字を朗読するような棒読み。そしてその手に握られているのは焼き鳥の串………滑稽にも程がある。ついでに表情は笑顔。どこまでも楽しそうだ。
月給のほぼ全てを人生の相方に掌握されている企業戦士のお父さん方憩いの場、居酒屋。
騒がしい喧騒響き渡る店内で、二人の男がカウンター席に腰を降ろし各々注文した物を口にしている。
酒を飲み干す男の名は相沢 祐一。彼の前にあるのはアルコールを基本としたラインナップ。ビールと日本酒…ちゃんぽんも平気で飲み干している。それに比例して赤みは増していくのだが、意識は確りしている様で………ザルなのかもしれない。
自称酔っ払いの保護者を名乗るのは北川 潤。安いガラス製のコップに注がれた日本酒は、祐一がガブ飲みしている物よりも4〜5倍高い物であり、落ち着いた動作でその味を楽しんでいる。
この二人は、まるで酒を覚えたての大学生と、酒の何たるかを理解した熟練の飲酒者が飲んでいるような構図を作り出していた。店主の親父は楽しそうに口の端を吊り上げ、ぁぁ、若さとは青いものなのだと感傷に浸りながら…追加の注文に応えていく。
まさか親父がその様な感傷に浸っているなど気付く筈も無く、
「くっそぉーーもっと強い酒だぁ酒を寄越せぇ」
「相沢よ……無理やり酔っ払った親父のフリをするな。本気の奴に絡まれるのは嫌だゾ、俺」
「……ちぇ」
祐一の言動がワザとである事を見切っていた北川は、さらリと釘を刺しその行為を自制させた。
酔っ払いは酔っ払いを呼ぶ。例え祐一の行為が゛ふり゛であろうとも、本物の酔っ払いには関係ない。妙に意気投合され絡まれ問題を起こされては溜まったものではない。
似非酔っ払いの祐一も、流石にそれは嫌だったのか残念そうに舌打ちをすると、グビリと注がれた日本酒を飲み干す。
その時点で既に彼の顔色は戻っており素面である事が窺えた。
「やっぱ酔っ払ったふりだったか……顔色まで変えるとは、拘りか?」
「おうッ」
満足げに頷く親友を一瞥し、北川は胸中で呟く。
おもろい奴……と。
店主の親父は二人のやり取りに、ガハハと笑い声を上げ注文された酒肴を調理していく………街の喧騒は闇夜と同じく増そうとしている――
―――うちの売り物はカクテルと店の雰囲気で御座います
マスターが常々そう語っている店内には、ピアノを基調としたBGMが流れており喧騒とは無縁の雰囲気を宿している。
香里は自分好みの雰囲気、口にしたカクテルのを味に満足し、軽くグラスを掲げマスターに気持ちを伝える。
それに軽く一礼する事で返すマスターの態度につい笑みを浮べてしまう。
親友の付き合いとして訪れたとしても、自分が楽しんではいけないという道理は無い。隣でおつまみを遅々と口にしている親友を横目で一瞥しつつ、彼女はこの時間を堪能している。
親友が、話の切っ掛けを探している事は承知の上だ。
「う〜〜〜」
呻き声と共に、チラチラと視線を投げ掛けてきているのは承知している。それでも香里は動きを見せない、反応してなどやらない。
色々と忙しい時期にある自分を突然電話で呼び出したのだ。まだやるべき事が残っていた自分からすれば、この程度の意地悪は許されて当然だろう。表情には決して出さないが、胸中では小さく舌を出して笑う……呼び出した理由も、何となくだが想像がついていた事だし。
歳を重ね多少は食べ物の好みに変化が表れたのか、辛味のキツイ物を食べている名雪。イチゴ好きと言う部分は変わりはしないが、母である秋子に近しい大人としての雰囲気を宿しつつあった。
だが、今日の彼女はまるで高校時代に戻ったかのように落ち着きの欠片も無い。
理由を察している香里からすれば面白い事でしかないのだが、本人とって堪った物ではない。
名雪にとっては歯痒く、香里にとっては充実した時が流れ……短針が時計を一回りした後に、彼女は相手が待ち望んでいるであろう言葉を口にした。
「で、何の話があってあたしを呼んだのかしら?」
―――うちの売りは酒肴の美味さと騒がしさなんですよ
店主が楽しげに客に説明する姿がよく目撃される店内には、今日も客たちが馬鹿騒ぎを繰り広げていた。静寂とは程遠い世界が形成されている。
馬鹿騒ぎが嫌いではない北川にとって、意味不明なまでのこの熱気は嫌いではなかった。
多少困惑している部分もあるが、慣れるのも時間の問題だろう。
今、口にしている日本酒も味は悪くない。多少払う値と釣り合っていない気もしたが。
酒飲みにあった味付けの濃い酒肴は親父の言うとおり美味く、酒の不満を帳消しする程で……
「……美味い」
ポツリと洩らした彼が口にしたのは、帆立のバター焼き。確りとしたバターの味わいは酒の手を進ませるのに充分であった。
彼は、喧騒を好む性質ではあるが静寂を好まないわけでもない。美味い物を口にしているときは、静かに堪能したいと思うのは当然の事だろう。
なので…
「「あっはっはっはっは」」
酒を飲みながら――何時の間に意気投合したらしい――店主と馬鹿笑いをしている友人は見なかったことにしておく。
例え、相手がこちらの言葉を待っていたとしても。
例え、こちらから声を掛けなければ進展が無いとしてもだ。
彼には彼の生活があり予定がある。
それを放棄してまで突然の誘いに付き合っているのだ。多少、楽しんでも罰は当りはしないだろう。
北川としては、何時まで友人が馬鹿騒ぎに興じ、内心に燻っている物から目を誤魔化せていられるか興味がある。意地が悪いと言う無かれ。
それぐらいの楽しみを提供してもらわなければやっていられないのだから。
結局、酒肴を堪能しつつ二杯目を注文しても祐一は態度を崩す様子も無く……。
意地を張り続ける友人に敬意を評し、こちらから折れてやる事にした。残念ながら明日からも朝は早いのだ。社会人の悲しい現実である。
それに、これから語られるであろう相談事の内容を考えれば溜息を抑えられぬだろうが、意地比べをしているのも馬鹿らしかった。
「で、お前は何の話があって俺を呼んだんだ?」
「……あの…ね」
人はいざ悩み事を語るとなると、恥ずかしさ故に躊躇してしまうものだ。
名雪もそれは例外ではなく、胸中に渦巻く葛藤を曝け出していいものなのかと悩む。改まって考えてみれば、自分が香里に話そうとしていたことって……物凄く恥ずかしい事なのでは?
フっと思い当たったその考えは、外れているとは思い難く彼女は決心は萎む一方。
名雪当人の葛藤は続いているのだが、当人を除いた外野からすれば、
「……へぇー話したい事があるって呼び出しておいて………そんな態度を取るのね」
妖艶な笑みは異性を惹き付け放さず、同性を底なしの恐怖へと沈めるに充分すぎる効果を秘めていた。
ちなみに、惹き付けられた異性がどうなるかは……黙祷を捧げる結果にならぬ事を祈るばかりだ。
何よりも香里の性格を熟知している名雪からすれば、その笑みに逆らえるはずも無く、名雪は白旗を掲げるしかなかった。
「昨日……………祐一にね、結婚しようって言われたの」
「……とうとう覚悟を決めたのか……そりゃ偉いぞ相沢!」
予想通りの友人の告白であったがしっかりと賞賛の言葉は贈る。
高校時代より付き合ってきた友人達。月日が経ち、親元を離れ独り立ちしてもやっていける様になった。
新しい家庭を築いても良いんじゃないか? と、前々から祐一に言い聞かせていたのだ。だが、今までは祐一が躊躇し事態が進行する様子がなかった。
奥手の恋人を見守る気持ちで気に掛けていた彼としては『やっとか』と言う気持ちで一杯ではあったが、めでたいと思う気持ちに嘘偽りは無い。
だが、北川は気付いていた。それでこの話しが終わらないであろう事を。
これで終わったのならばめでたしめでたし。友人二人が幸せになるだけの話し……だとしたら、何故友の表情が優れないのか。
それは、友人達に何かあったのだと考えるのが自然では無いだろうか?
もしそうでなければ、告白した後に後悔すると言うパターンだが………。
一世一代の愛の告白の了承を頂いて喜ばぬ輩がいるならば俺が殴る、と心に強く誓う北川を置き去りに祐一は本題を語り始めた。
「――――――断わられた」
「は………はぁ!? こ、断わったの?」
香里の予想を軽く斜め上に行った現実に、素っ頓狂な声を上げてしまう。
今回の呼び出しは相談事。そして、それは親友の恋人であるかつての級友についてだろうとは思っていたが……、
「(まさか……ここまで切迫した内容だとはね)」
軽い頭痛を覚える額を片手で抑えつつ、口にしていたカクテルを置く。これから思い悩まなければならぬ内容にはアルコールなど邪魔でしかない。
マスターには悪いとは思ったが、今は余所の事に意識を割いている場合ではなかった。
胸中で幾度か親友の恋人に悪態を吐く。相手に全ての原因があるとは思えないが、これから自分が背負うであろう疲労を思えば当然の権利だろう。文句は吐くだけ吐き出しておく
そうして構える。目の前に立ちふさがった問題を片付ける為に。
真面目に――そこに妥協など一切無い真剣な面持ちで、自らが口にした言葉に沈む親友を見据える。
友として、親友として、二人の大切な理解者として………向き合わなければならない問題だ。
「…………断わられるとはな」
北川としては意外の一言でしかなかった。想像すらしていなかった事態は重く圧し掛かってくる。
傍目から見ても破局を迎える雰囲気など欠片も無かったのだ。二人の友人として、まず無いと想定していた結果に北川も掛けるべき言葉を失ってしまっていた。
閉じるのを忘れた半開きの口に、いまだ言われた意味を理解しきれない思考。衝撃の告白を済ませた祐一は俯き言葉を発する様子も無い。
二人の様子に何かを感じ取った店主が、無言で日本酒を取り出しそれをぬる燗にしてから二人に差し出す。飲め、と言う事らしい。
親父の気遣いに感謝しつつ、二人は一口飲み……思わず目を丸くしてしまう。安物では決して味わえぬ上品な味わい。親父の手に握られたビンに張られたラベルには『吟醸酒』と言う文字とにんまりとした笑顔を見せる親父、そしてその口から語られた酒の名。
「「ブッ!!」」
思わず二人は口内の液体を吹きだしそうになる。安月給の二人が月末近くで払える品物では決して無い……払えば給料日まで無一文で過ごさなければならない。
先ほどの衝撃の告白に優るとも劣らない事態に狼狽える二人を一瞥し、親父は大声で笑う。金の事は気にするな、と一言告げ親父は再び豪快に笑い出すのであった。
「………ったく、趣味悪いぞおやっさん」
祐一の言うとおりだと北川も頷く。
しかし、店主のお陰で先程の雰囲気が多少だが払拭されていた。そこに感謝し、北川は今を逃してどうしようもないと、躊躇しながらも疑問を投げ掛けた。
「なぁ……相沢には辛い話しかもしれないが、その時の事を詳しく話してくれないか?」
祐一には辛い事だと分かっているが、今のままでは『はいそうですか』で済ます事は出来ない。だからと言って、今語られた内容で話しを進める事など出来はしない。
北川の真剣な面持ちに、祐一は幾度か戸惑った様子を見せながら……ポツリポツリと語り始める。
時々ぬる燗に手を出し話を続ける祐一に習い、北川もぬる燗を口にしながら耳を傾ける。
真面目一色の雰囲気の中、話しは続き………それは突然破られる事となった。
「ブハッ!!!」
北川が吹き出した事によって―――
――――香里は力なくカウンターに突っ伏していた
「あっっの馬鹿がぁぁぁ」
呻き声は地獄の怨嗟の声の如く………。余りに静かな激情の篭ったその声に、沈み込んでいた名雪の両肩が震える。
極限まで下げられた声質は低く小さい物であったが、店内が一瞬沈黙に支配される。人が発する雰囲気と言うモノは下手な大音量よりも優るモノだという証明の様な光景であった。
一瞬の完全な静寂を演出して見せた当人は、何であたしがこんなに心を荒立てないといけなのよ。と、自問自答しつつ、心を落ち着かせようと努力の真っ最中。
気を利かせ水を差し出してくれたマスターに感謝しながら、一気に飲み干し内に溜まった熱気を放出させる。
心地よい静寂をぶち壊した事に難色を示す客もいるが、今は一々謝罪をしている余裕も無い。
「だ………だいじょう、ぶ?」
激昂する親友に脅えつつも心配する名雪。大丈夫だと手振りで知らせ、香里は先程の失態の原因となった事について尋ねる。
「―――ラーメン屋で結婚の申し込みって……ほんと?」
「お前は馬鹿だ。ああ、度し難い大馬鹿モンだ」
「うっ…………」
「何処かの漫画やドラマならまだいいが……ふつー一世一代の告白、結婚の申し込みを」
すぅーはぁー。
大きく吸い込み、深く深く吐き出し……
「街角のラーメン屋で申し込む馬鹿が何処にいるかっっ!!!!」
説教をする者と、説教をされる者。
正しい者と、正しくない者。
圧倒する者と、圧倒される者。
周りの観客と化した酔っ払い連中からすれば、二人の関係はその様な構図に見えるに違いない。
酔っていない筈の北川の顔は赤く染まり、祐一の顔は限りなく青褪めている。だと言うのに、心のどこかでは『なら、蕎麦屋なら良かったのか?』等というふざけた事を考えているのだから大したものだ。
「だ……だけどさ」
「だけどもも無い! あるのは、相沢っ! お前が愚かだってだけの話だ」
ピシャリと祐一の言葉を叩き落し抵抗を阻止する。
「普通、結婚を申し込むって言ったらある程度は雰囲気を考える物だろうが。何も高級なレストランでしろと言ってる訳じゃないぞ…分かるよな?」
小さく頷く友人を確認し、言葉を続ける。
「結婚の申し込みともなれば、一生に一度の記念日だ。なのにお前ときたら……雰囲気すら考えず、まるで今日あった事を話すみたいに何気なく申し込むとは……そりゃ、女性の中にはそれでもOKだと思う人もいるだろうが、大多数の人は違うんだ。お前の方が水瀬さんについて詳しいだろうが…………どうなんだ、お前の中の水瀬さんはそんな状況で喜ぶ人だったか?」
答えなど最初から分かっていた。沈んだ表情で横に首を振るう友人の姿に溜息が零れた。
説教が進むたび、祐一は縮こまる一方で………それでも北川は口撃を緩めようとはしない。
だが、本気で彼を馬鹿者だと考えての行為ではない。北川は察していたのだ。
友人も悪意があってラーメン屋で告白をしたわけではない事を。
祐一は祐一になりに真剣に悩んだのだろう。何せ、結婚ともなれば簡単に決めて良い事柄では決して無い。
だからこそ、本気で考えていたからこそ、今回の事態を招いてしまったのだと北川は考えていた。
人は深く考え込めば込むほど視野が狭くなり、他の物が見えなくなってしまうものだ。
その為、最初にあったであろう『どの様に結婚を申し込むか?』と言う悩みが、『結婚を申し込むべきなのか?』と言うモノに形を変えてしまったのだろう。
「(こいつなりに悩んだ末に出した結論なんだろうが………もう少し反省させておくべきだろうな)」
今後の事を思えばそれが一番有効に思え、北川の口が再び開かれた―――
「相沢君も悪気があってやったんじゃないと思うわよ」
何も考える余裕が無かっただけでしょうし。胸中の呟きは言葉にはしない……一応、友人の面子を立てておこうという友としての気配りだ。考えに囚われるあまり基本を疎かにした祐一に対する情けである。
直接顔を会わせ話したわけでもないと言うのに、心中の葛藤を見破られた事の方が祐一には辛いだろうが、香里としては今自分が優先すべきなのは、
「…………うん」
力なく頷く親友の方だ。
思い悩んでいるのかその瞳は何処か虚ろだ。自分の中に渦巻く想いに迷っているのだろう。
香里は親友の心中を支配している葛藤を大体把握していた。
何も名雪は祐一のデリカシーの無さに怒りを覚え結婚を断わったのではない。多少、思う所はあっただろうが、その様な事で駄目になってしまう想いを育んできてはいない筈。それを一歩離れた位置から見守ってきた香里だからこそ、名雪の内心を察する事が出来た。
「(怖かったんでしょうね)」
従兄弟と言う関係から恋人へと変わり、一番喜んだの名雪……彼女だろう。長年に及ぶ想いが成就したのだから喜ばぬ筈が無い。
恋人として過ごす日常を満喫し満足していた。そう、結婚の申し込みをされるまでは。
祐一を深く愛するが故に、名雪も彼との結婚を幾度も考え夢見た事だろう。
しかし、いざそれがただの夢想ではなく現実の物として突きつけられた時、彼女はそれに恐怖した。
頭の中で幸せな家庭を思い描く行為とは根本から違う。現実の物として築いていく家庭。
即座に、自分の今の家庭が思い浮かんだ彼女の脳裏には母の姿があった。自分とは違う、完璧な女(ひと)。
母が築き上げてきた物を……果たして、自分が築く事が出来るのだろうか? 出来るわけが無いっ……出来る筈が無い。
名雪の悩みは、誰に示唆される訳でもない自分と相手だけで考えていかなければならない。
それが名雪を悩ませ惑わしている。そう、名雪は惑わされていた、結婚と言う言葉に、その道に。
「名雪……これからあたしが口にする事は所詮、まだ20とちょっとしか生きていないあたしの言葉だから戯言に聞こえるかもしれない…。でも、あたしにとって嘘偽りの無い本心」
手の中でグラスを遊ばせながら、香里は透明な笑みを浮かべ親友に自分の言葉を伝えようとしていた。
「な…ぁ、相沢……結婚をどう考えてる?」
「……どうって」
北川の問いは単純な様で、酷く難しい物に思えた。
「今まで全くの他人が同じ姓を名乗り、これからの人生を共に歩んでいく……言葉にすればこんな所だ。だが、それを実際に体験する物として見据えて見たら………相沢、お前の目にはどう映る?」
「…………怖いな」
言葉通り、その声は硬い。その内に秘められた想いに裏づけされるように。
「ああ…………俺も怖い。この歳になってくるとさ、少しぐらい前を見据えていようと思うようになってさ……そんで、考えてみたらとてつもなく困難なことに思えて、途方も無い事を自分たちは課せられてるんじゃないかって、そう思った」
「………………俺も、いざ名雪との結婚を考えた時から、ずっとずっと…怖かった」
「そんで、それから逃避する様に目先の事しか見えなくなって……この結果…か」
「はは……面目ない」
「気にするな。結婚とか…そんな事で恐怖するのは男だけじゃないってだけの話さ」
何処か疲れた表情の北川の姿に、自分には感じられない疲弊を感じ取った祐一は言葉を噤む。
その姿に、自分が掛けるべき言葉が思い浮かばない。高校時代よりの友人が自分よりも大人に見えたのが少し悔しい祐一であった。
「誰だって怖いものよ。今まで――自分ひとりが歩んできた人生と言う道に全くの他人が突然現れて、共に歩いていくんだもの。その道は狭いかもしれないし、広いかもしれない。でも、そこには必ず誰にだって恐怖が付き纏うんじゃないかしら……押し出されてしまうかもしれない、押し出してしまうかもしれないと言う恐怖が」
香里も真剣に思い悩んだのだろう。その時の事を思い返す表情は硬く暗い。
「………香里…も、なの?」
「えぇ。あたしだってそろそろ結婚を考える頃合だしね。一人で勝手に想像して、自分で考えたことに恐怖して……ふふ、馬鹿よね?」
「ううん……わたし、わたしもね、一人で考えて震えちゃった」
同意してみせる名雪に笑みを浮べる香里。嬉しかったから、笑った。
「そう…………でも、それでいいとあたしは思うの」
「…どうして?」
「それだけ名雪が真剣に結婚について考えているって事だからよ。曖昧に考えている人が多くいるこの世の中でね」
「……曖昧に?」
曖昧に考えるとはどういうことだろうか。名雪はその意味が分からずに聞き返す。
「そ。結婚しよう、結婚しましょう。その言葉を悩み無く応える人が多いって事よ。と言っても、悩まずに上手くいく人たちもいる、悩んでも上手くいかなかった人たちがいるのも確かだけど」
「なら、どうして…」
「良いじゃない。一生に一度の結婚の申し込みなんだから、悩めるだけ悩んでみても損は無いわ。悩めるって事は幸せなことなのよ、きっと…ね」
他愛も無い事の様に語る香里ではあったが、名雪にはそうは思えなかった。
かつて深く悩み、答えを出して尚、苦しみ悩んだ香里の言葉の内に秘められた想いは名雪でも察する事は出来なかった。
だから、
「……まだ、私には分からない事だらけだけど………ありがとう、香里」
「あら、まだ話しは終わってないんだから礼はいらないわよ」
「名雪も……怖かったって、ことか」
言葉にしてみれば酷く単純だった。何と単純な答えだったのだろうか。
「当然だろうが、男性と女性に分かれていたとしても、結婚については同じ様な物だろうしな」
「じゃぁ、やっぱり俺の言うタイミングが」
「悪かったと言えば悪いがな」
「……ぅ」
フォローを求める気はなかったが、容赦なく切り捨てられると悲しい。悲壮感が漂い始めた友人の姿に苦笑い一つ浮かべ、北川は友人に一つ指摘する。
「それ以上に運が無かった。水瀬さんも最近悩んでたんじゃないかな、結婚について。そんな様子は無かったのか?」
「……………」
「あった、って顔だな。本当に運が無かったな相沢」
北川の言うとおり、祐一の運が無かった。しかし、祐一にはそれだけが今回の原因ではない事を痛感している。
「……いや、あいつの気持ちを察してやれなかった俺が悪いんだ…運じゃないさ」
「その気持ちを忘れなきゃ良いんじゃないかな? 偉そうに説教してる俺だって、お前みたいに馬鹿をやる可能性があるんだからさ」
「お前は……そんな事無いんじゃないか?」
「いやいや、実際に経験してみないと分からない事は多いって、高校を出た辺りから痛感している」
「ガッハッハ!! そっちの金髪の兄ちゃんの言うとおりだ、何事も経験してみんと分からん事ばかりなのが人生ってもんだ」
軽快に豪快に。店主の親父の声が店内に響き渡る。
「話しが終わってないって……何が?」
「――――名雪、あなたが一つ思い違いをしているってこと」
香里に言われてみても、思い当たる節が無い名雪は首を傾げる。
「思い違いって、何を? わたしが何を」
「間違ってたらごめんなさいね。名雪、あなたは秋子さんと自分を比較して考えてない?」
「ぇ………え!?」
分かりやすい反応の典型例の様だ。親友の反応に自然と苦笑いが浮かんだ。
「その反応で充分だわ………なら、ハッキリと言うけどそれは間違い」
「………でも」
「いい。あなたと秋子さんは別人、同じ存在じゃないの…親子だからと言って、比較するべき対象でもない」
「…そんな事、ないよ」
「いいえ、あるのよ。何故なら」
「駄目だよ……駄目。お母さんはわたしにとって」
「――――親と言うものは難儀なモノですね。子が思うよりもずっと…ずっとね」
静かでよく通る声。マスターの静かな声が二人の耳に届く。
「恥ずかしい話だが、オイラと母ちゃん――奥さんとはよく喧嘩をしてなぁー。ご近所からはいつ離婚するのか、何て話しの種にされるぐらいでな」
「……原因は?」
訊ねる祐一に店主は即答してみせる。
「オイラが女心を理解できんのが理由らしいなぁ」
男性には永遠の命題となる問題が原因らしい。
「理由らしいなぁって……そんなんで良いのかよ、おやっさん」
「ガッハッハ、良いに決まってるじゃねぇか」
「豪快な親父さんだな」
二人のやり取りに、疲れた様子を見せる北川に店主は可笑しそうに声を張り上げて笑い出す。
「兄ちゃん達が固く考えすぎなのさ。まだ結婚もしてない段階で先の事なんて考えて何になるってんだ?」
「でもさ」
「でももデモも無いのが人生だぁ! ぉ、今のは中々の会心作だったんだがな…うけなかったか」
寒い沈黙が答えだったが、店主は堪えた様子も見せない。強者である。
「おやっさん……すまないんだが、今は真面目な話しの最中だから」
「だから言ってるだろうが、真面目に考えても何にもならんって。大体、兄ちゃん達が考えてる事なんてその時になってみんと分からん事ばかりだろうが?」
「まぁ…ね」
「だろ? 確かに結婚っていやー不安にもなるだろうよ。だがよ、問題の起きない家庭ってのもどうだよ? 平穏無事で済む人生ってのをどう思う? オイラはそんなモンはつまらないって思うがね」
二人はその問い掛けに口を噤んだ。店主の言うとおり、それはつまらない物に思えたからだ。
「喧嘩もするだろうし、こんな世の中だ。面白くも無い事もあれば辛い事もあって当然さ……だからこそじゃないかぃ? お互いに良い感情だけじゃなく面白くない感情を持ちつ持たれつつ、それでも共にあろうとするのが夫婦って言うんじゃないかねぇ?」
自分達が見えぬからと恐怖を抱いた場所にこの人はいる。だと言うのに豪快に笑っている。それが酷く心強い。
「なってみなけりゃ分からない。そんな関係が夫婦ってもんだ。よくオイラみたいな親父が言う台詞だが、兄ちゃん達はまだ若いんだ……そうやって、ひとつの型に嵌ろうとするもんじゃない。やり直しが効かないなんて言葉は無いんだし、失敗するって言う確証があるわけでも無い。今必要なのは、これからをどうしようと悩む事じゃなく、こうしてやるんだっていう意志と行動だろう、違うかぃ?」
二ッと親父に妙に似合う笑みを浮かべコップを二つ差出し彼は言う。
「とまぁ、年取った親父の意見で悪いんだがねぇ……兄ちゃん達の参考の一つぐらいにはしてくれるとありがたいさ」
「親と言うものは、子から見れば高い壁なのですよ……いつまで経っても」
「あの…それって」
「ええ。私も、恥ずかしながら親の背中を高く感じていたものです」
にこやかにマスターは言葉にしていく。
「幼い頃より共にあるからこそ、他の誰よりも多くの事を学び取る。親としての立場、それも高い壁として見えてしまう原因の一端でしょうが、やはりそれ以上の理由があると私は考えているのです」
「……生活、ですか?」
「貴女はお分かりのようで。そうです、自分が成長し一つの家庭を築こうとする時、親と同じ立場に立つその時こそ最も大きく見える時なのでしょうね」
香里の答えに満足そうな笑みを浮かべ一つ頷く。
手はグラスを拭きながらも、その瞳は二人へと向けられている。
「自分達が、いざ家庭を持とうとする時感じる苦労や葛藤。それを親は事も無げにこなしていた。何と親は偉大なものなのだろうか、当時の私はお恥ずかしいお話しながら、少々の恐怖を抱いたものです」
照れ笑いを浮べつつも、その表情には晴れ晴れとしていた。
「勿論、この世の中には尊敬に値しない親も数多くいらっしゃる事は存じています。それでも、やはり何処か敵わない部分はあるのではないかと、私は思うのですよ」
それは名雪にも香里にも分からない事だった。彼女達の親は、世間が定める親としての義務を充分過ぎるほどに果してくれたのだから。
「申し訳ありません、この話題の答えは今は出せませんね」
「すみません…」
いえ、と頭を下げるマスター。
「――――お名前を窺っても宜しいですか?」
「…水瀬、水瀬 名雪です」
「美坂 香里です」
「そうですか、水瀬様と美坂様で……それでは水瀬様、貴女のお母様について少々で宜しいのですかお聞かせ頂けますかな?」
少し戸惑いつつも、名雪はぽつりぽつりと母について話し始める―――
「……素晴らしいお母様なのですね」
「はい。尊敬する母です」
「…だからこそなのでしょうね。水瀬様が勘違いなさっているのは」
勘違い? と返す名雪にマスターはええ、と返す。
「水瀬様の抱いているお母様像は、私には水瀬様がお作りになった理想のお母様に思え仕方がないのです」
「そんな事……」
「完璧な人など初めから存在しないのですよ……人が成長する生き物である限り」
不服そうに、言葉を口にしようとする名雪を香里が止める。黙って話しを聞いていようと。
「生活力の無い子供時代より庇護され、子供は親に過剰な眼差しを向けるもの……本来ならば、親の不甲斐ない部分も数多く見ることになるのでしょうが、水瀬様のお母様は素晴らしい方なのですね。しかし、だからこそ水瀬様の勘違いは深い」
どうぞ、とアルコールの低いカクテルを二人に差出し言葉を続ける。
「完璧な人などこの世には誰一人おりません。多くの失敗を経験し、苦難を乗り越え成長していくものなのですから。人生には近道など無いという言葉は偽りではないのです。それをまず理解しなければなりません……水瀬様のお母様が素晴らしいのは、初めからではない事を。今のお母様が在られるのも、苦労を乗り越えようと言う努力があればこそではありませんか?」
私も多くの失敗を、失態を重ねて此処まで来る事が出来ました。そう告げるマスターの言葉は深い。
「そして、貴女は完璧であるお母様と言う巨大な壁を恐れ、結婚を拒む理由となさっている。美坂様もそれついてお話しなさろうとしていた、違いますかな?」
マスターの言葉に香里は頷く
「水瀬様……貴女の勘違いはそこなのです。貴女の中のお母様は失敗のない完璧な人である。それが、貴女の勘違いなのですよ」
「それは違うよ。お母さんは……本当に凄い人だから」
「素晴らしい方であるのは確かなのでしょう。しかし、そう思われてはお母様がお困りになられるのではないでしょうか?」
「どうしてお母さんが?」
「完璧な人などと思われては、その人が背負っている苦労が小さく感じられてしまいます。幾つも困難を乗り越えてきた、それはお母様の努力の賜物であり、支えになった貴女があってこそではないでしょうか? 最愛の方を失っても直向に頑張って来られたお母様を完璧の一言で括ってしまうのは、私には可哀想に思えて仕方がないのです」
そう。名雪の母、秋子は最愛の人を失っている。
「私も同じ経験があるからこそ……その苦しみの程が想像する事ができます。分かる、とは言うつもりはありませんがね」
「マスターも…」
「えぇ。妻を失って随分と経ちますが、その苦しみは今も消えてはおりません。今も時折、昔を懐かしみ足を止めてしまう事がありますので…。きっと、お母様も同じなのではないでしょうか? もしそうならば、お母様は今もお悩みになっている」
それは名雪にも思い当たる事であった。母が時々辛そうな表情を浮かべ想いに耽っている姿を目撃した事がある。
彼女は考える。母について……果たして自分の思い描いていた母は正しかったのかと。
どれほど時が経っただろう。いや、ほんの数秒だったかもしれない。答えは……出た。だからこそ、余計に不安を抱いてしまう。
母は完璧ではない。だからこそ、今も必死に努力し続けている母が大きく見えて仕方が無かったのだ。
「水瀬様、貴女が不安に思う事は当然の事だと私は思います。だからこそ、不安を抱く心にもう一つの想いを抱きなさい。お母様を追い越してやると言う気概を抱くのです」
「追い越してやるって……お母さんを!?」
「そうです。親とは子に抜かれていくもの、抜くべき目標なのですから。貴女のお母様はとてつもなく大きな壁でしょう。だからといって、親を理由に卑屈になってはならない、貴女はその壁を超える努力をしていかなければならないのですから。きっと、貴女のお母様が今もそうあろうとしているように」
え? と不思議そうな顔をする名雪に、
「そう言うものみたいですよ。なぜなら、私もいまだに親を超えられずに足掻いている一人なのですから」
子供の様な笑みを浮かべマスターが朗らかに笑う。二人に乾杯と告げマスターはカクテルを口にした。
「また来てくれなぁーー」
背後から掛る声に「おーう」と返事を返しつつ、男二人が夜の街を行く。
「随分と飲まされたなぁー」
「だなぁ。だが悪い気分じゃない」
「おう」
明確な答えを得たわけではない。ただ、それ――明確な答えが――存在しないと言う事を朧げに理解しだけ。
先の見えぬ恐怖は変わりはしない。それでも、躊躇する気持ちは随分と軽くなっている。
「明日さ……名雪と会ってみようと思う」
「……そっか」
「で、もし断わられても諦める気はない」
「頑張れよ」
「おう! 諦めてたまるかっての。俺は……アイツが好きなんだからな」
「好きかっ!」
「ああ、大好きだっ!!」
夜の街に響きわたる飾り気の無い愛の言葉。
それと同時に同じ様な言葉が響き渡り―――――――
「家庭の事情、そして貴女のお心に土足で踏み入る様な真似をしてしまい大変申し訳ありませんでした」
深く頭を下げ謝罪するマスターの姿に、名雪は慌てながらも気にしていないと、逆に感謝していると告げる。
「再びいらしてください。その時はご馳走いたしますので」
マスターに礼と再び訪れる事を告げ、女二人が夜の街を行く。
「――飲んだね」
「そうね。でも悪い気分じゃないわ」
「うん」
まだ整理のつかない部分はある。母の事や、これからの自分の事など。
いまだって恐怖は変わりなく心の中に住み着いている。それでも、その重さは微かに軽くなった気がした。
「マスターに言いたい事を全部言われちゃったわ」
「香里も…本当にありがとうね」
「いいわよ……それで、心は決まったの?」
「ちょっと悩んでる。でもね、一つだけ確かな物があったことを思い出したの」
「なら、今ここであたしに教えてよ。それを」
「ぇ……でも」
しかし、親友の真剣な瞳が名雪の拒絶を許そうとはしない。
「不安なのよ。それに、また飲みに誘われても応じられるか分からないしね」
「ぅぅ…………わ、わかったよ」
酔っているのか、それとも今の状況を利用し想いを再確認しようと言う想いゆえか。
「わたしは……」
「わたしは?」
「祐一のことが…」
「相沢君の事が?」
大きく一呼吸―――
「大好きなのっ!!!」
夜の街に響きわたる飾り気の無い愛の言葉。
それと同時に同じ様な言葉が響き渡り―――――――
「「え…?」」
「名雪…」
「祐一…」
付き添っていた友は既に姿を消していた
彼が、彼女が意図して作り出した状況なのかそれは分からない
どちらであろうとも、今の二人には関係のないことだ
残された二人はただお互いを見詰め合う
夜の街で出会った二人がどの様な言葉を紡ぎ応えるのか
それは
感想
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