車は見慣れない場所で止まった。何か、事務所か何処かのような場所だ。

 あたしがドアを開けると、彼は意外そうに目をぱちくりした。
「降りるのか?」
「あなたもね」
「そっかぁ。んじゃまぁ、ひとつ……」
 さっきとは違って、今一つ冴えない顔つきで、彼は車を降りた。


第7位 「出演依頼」 電光刑事バンさん   60.66 pts


「でもまあ、主役はまだ良いよな」
「そうだなー。オレなんかいっつもバカ役で引き立て役ばっかりだもんな。扱いがゴミに近いものがあるし」
「所詮、脇役は主役に勝てないのさ……悲しいけどこれ、元々の配役なのよね」
 彼は、どういうわけかこの世界の彼にすっかり感情移入してしまったらしい。
 いや、同じ人物なのだから、むしろ当然かもしれない。
 ……なんだか、頭痛がしてきた。
「ただまあ、なんつーか。オレにも役得はないでもない」
「な、なんだって我が分身!」
 彼は椅子を鳴らして立ち上がった。この世界の彼は、それに不敵な笑顔で答える。
「それは、いったい何なんだオレ!」
「それはな……」
「お、応」
「この、異様なまでの打たれ強さと、ゴキブリ顔負けの生命力、そしてプラナリアより強力な再生能力だ!」
 それは余りにも予期された受け答えだったので、あたしはお約束のとおりに二人の頭をはたかなくてはならなかった。

 事務所の前で何人かの人に見送られて、あたしたちはその場所を後にした。
 車を発進させると、彼は大きな溜め息を吐いてしみじみと言った。
「苦労してるんだなぁ」
「みんな、ね」
「大変だなぁ」
「そうね……」
 あたしたちは何度も似たような遣り取りを繰り返しながら、車を走らせた。

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