「ここで停めて」とあたしが言うと、彼は怪訝そうな表情を浮かべてから、路肩に車を寄せた。

 ここには何もない。強いて言えば、向こうに学校のようなものが見えるだけ。
 でも、今度のお話は、舞台も登場人物も要らないのだ。
 訝る彼にあたしは、たったいま手の中に出現した数枚のレポート用紙を手渡した。
 そこに、全てが書かれている。


第5位 「30KBで格ゲーを作らないか?」 エルラさん   61.16 pts


 読み終わってから顔を上げた彼の最初の言葉は、まあ大体想像がついたけど。
「お前、ハマると怖いのな……」
「ある意味、あなたの発想の鋭さにも感服するけどね。普通PC-6001のゲームみたいに、単色でも凸型とか、せめて"大"とかのフォントにしようとか考えると思うわよ」
「そんなん考え付かんって。ってか古っ!」
 まあ、ここではドット=単色四角形で決まってしまったのだから仕方ない。
 この場合、要は格闘ゲームのテイストが盛り込まれているかどうかだったわけだ。
 ……それで、いいんだろうか……。
「しかし、寝てない人間に受けないギャグを言うとは、流石は相沢」
「らしい、といえば彼らしいわね」
 まあ、これは相沢君が書いてるわけだから、全部が全部事実とは言いきれない面もあるけど。彼だったらこの手の話は脚色してもおかしくないし。
 でも相沢君ならこういう元手の掛ったパフォーマンスをやりかねないし、多分実際にやったんでしょうね……。
「どうした美坂。額なんか押さえて」
「なんでもないわ。ただちょっと、名雪、苦労してそうだなって」
 彼はゆっくり、真顔で大きく頷いた。
「相沢のお守りは、このオレでさえ大変なんだからな」
 それは、ちょっと違うんじゃないかしら。

 車のエンジンをかけ直すと、レポート用紙は消えていった。
 彼はちょっと寂しそうにそれを眺めてから、ウインカーを出して車道に戻る。車は再び走り始めた。
「そうそう、流石に美坂も、レポートでは『あたし』じゃないんだな」
「当たり前でしょう!」

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