トンネルを抜けると海が目の前に広がった。真夏の海。青い空。彼が思わず口笛を吹いたくらい。

 そして、彼のご希望どおり、あたし達は海辺の道路で一旦停まった。
「ここか? 誰もいないけど……」
「ええ。今はね」
 バックミラーに一台の車が映ったかと思うと、それはたちまちのうちにあたし達を追い越していく。
「あの車を追いかけて!」
 そう、あの車に、この世界のあたし達が乗っているのだ。


第4位 「Sound of the OSEAN [20XX]」 Ryo-Tさん   62.20 pts


 並んで走っていた車は、僅かにスピードを上げていた。去っていくテールランプを眺めながら、あたし達はなんとなく顔を見合わせた。
 少し、顔が火照っているような気がするのは、多分全部さっきまでの陽射しのせい。
「何気ない夏の一日でも、いいお話になるのね」
「何気ない、か?」
 彼は意外そうに言ってから、ぼそっと言った。
「……オレ、なんか照れくさい」
「そう?」
「すっげー照れくさいって!」
 そうは言うけど、彼はひどく嬉しそうに見えた。
「あたしは、いろいろ考えさせられたわ」
「そうか?」
「ええ。まず、多分この世界では、栞はもうこの世にいないのよ。そしてあたし達は──あたしだけじゃなくて、みんな、そのことを知ってるけど、口に出さないで暮らしてる。そんな風にも思えない?」
 彼は軽く首を捻ってから、頷いた。
「もし美坂の言うとおりだとしても、永遠に昔のことに拘ってるわけには行かないよな。もしそうだとしたら栞ちゃんには悪いけど、オレはさぁ──」
 なぜかそこで口篭もる。そのまま、なんとなくあたし達は黙り込んだ。

 車は夜の海岸を離れて、また別の場所に向かい始める。
 そこで漸く彼は呟くように言った。
「後ろばっかり向いてる奴よりは、前向きの方が好きだな」
 そんなものかしら、とあたしが首を傾げると、そうさ、と少し強い調子で言ってから、小さな声で付け加える。
「そういう奴のためなら、多分この世界のオレはどこまでも優しくなれるんだと思う」
 そう言った彼の横顔は、さっきの言葉どおり、確かに照れくさそうに見えた。

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