料理


水瀬家のいつのも食卓。
真琴がまず先に茶碗にご飯を盛られ、続いて祐一、名雪、秋子と続く。
真琴は、ご飯が盛られると一目散に自分の分の料理に手を伸ばして行く。
そこに祐一の一喝が飛んできた。

「こら! 真琴、まだ食べるんじゃない! 皆で、一緒に食べるぞ」
「いいじゃない! どうせ食べるだからいいじゃない! 祐一のケチ!」

「なら、皆で一緒に食べたほうがいいだろう?」
名雪も諭す。
「そうだよ〜。 真琴。 一緒に食べたほうが楽しいよ」
「あう〜 わかったわよ。 一緒に食べるわよ」
渋々納得する、真琴。

「ふふ。 じゃあ、いただきましょうか」
「「「「いただきます」」」」


食事中祐一が話題を切り出した。
「なあ、真琴お前、料理出来るのか?」
「出来ないわよ! そう言う祐一はどうなのよ?」
「出来るぞ。 というか、前オレが作った焼きソバ食べただろうが」
「自分の好物ぐらい自分で作ったらどうだ?」
「それに、自分で肉まんを作れるようになれば、漫画を買う量も多くなるぞ。 どうだ?」
「あと、上手く出来れば、オレも食べてやるぞ」
「ふふ。 それはいい提案ですね祐一さん。 真琴、作り方は私が教えるから、大丈夫よ」
「あう〜 わかった」
「じゃあ、明日から一緒に頑張りましょうね真琴」
「うん」



次の日の昼から真琴は、秋子に付いてもらいながら、肉まん作りを始めた。
「真琴、幾つ作りたいですか?」
「あう〜 たくさん…」
「ふふふ。 わかりました。 真琴、一緒にたくさん作りましょうね」
「うん」
嬉々した、表情で答えた真琴。
「じゃあ、皮を作りましょうね」
「では、真琴。 薄力粉を200g出して頂戴」
「薄力粉???」
「ええ。 その白い粉が入っている入れ物のことよ。 真琴」
テーブルに載せてある、薄力粉の入った入れ物を指さした。
「これ? 秋子さん?」
「ええそうよ。 真琴。 じぁあ、それをここに出して頂戴」
はかりを指さす秋子。
「うん。 でも、どの位出せばいいの秋子さん?」
「私が、いいと言ったら、出すのをやめるのよ? 真琴」
「うん」
「真琴、もういいわよ」
「それじゃあ、これを入れるわね」
秋子は、小さじ3杯のベーキングパウダーを入れた。
「じゃあ、次は砂糖よ」  
「そのスプーンで一さじすくってね」
大き目のスプーンを真琴に渡した。
「うん」


「では、真琴ぬるま湯を用意しましょう」
「その間に、具を作りますよ」
「真琴、しいたけとねぎをみじん切りにして、豚のひき肉と混ぜますよ」
「私が切った、しいたけとねぎを真琴は混ぜていって頂戴ね」
「真琴がそれをしている間に、私が味付けをするわ」
「うん」
「それと、粘りが出るまでこねてね。 真琴」
「それって、どのくらい? 秋子さん」
「わからないわ。 それは、真琴の感覚でこれでいいと思ったら、言って頂戴」
「う…ん…」
「ふふ。 大丈夫よ真琴不安にならないで。 ちゃんと出来るから」
「うん!」


しばらく、すると真琴が秋子のそばにやって来た。
「どうしたの真琴?」
「秋子さん、これくらいでいいの?」
と、ボールに入った具を真琴は秋子に見せた。
「ふふ。 それで、いいですよ。 真琴」
「ホント!」
「ええ」
秋子は微笑んだ。


「真琴次は皮を作りますよ」
「うん」
「じゃあ、これに薄力粉と砂糖を入れて頂戴。 それで、私が徐々にぬるま湯を入れます。 それを混ぜていって頂戴」
「うん。 でも、どの位すればいいの?」
秋子は、真琴の耳に手を伸ばした。
「この、真琴の耳たぶぐらいの柔らかさぐらいですね」
「真琴、触ってみて、自分の耳たぶぐらいの柔らかさ、確認してみて」
「…うん」
「どう?」
「う〜ん… わからないよ〜」
「なら、私が見るわよ? 真琴」
「うん。 そうして」
「ふふ」
秋子は、ボールに入った皮を摘んだ。
「これでいいですよ」
「はい。 真琴、あと五分位、シッカリこねてね」
「え! もう、終わりじゃあないの〜?」
「まだまだですよ。 真琴」
「あう〜」
「表面がなめらかになるまでこねてね。 真琴」
「あう〜 わかった」

〜五分後〜
 
「秋子さん、これでいいの?」
「見せてみて、真琴」
「うん。 はい」
と、真琴は皮の入った別のボールを秋子に渡した。
「これでいいですね。 真琴よくったわね」
「本当!? 秋子さん!?」
「ええ。 これを六等分しますよ」 
「え〜 それで一個じゃあないの〜?」
「真琴、これで一個だったら大きいでしょ? それに、真琴はたくさん食べたいでしょ?」
「うん!」
「じゃあ、六等分しましょうね」
「うん!」

「六個に分けたかしら? 真琴」
「うん。 したよ。 秋子さん」
「では、一個をこの上に載せて頂戴。 真琴」
「え! 何をするの? 秋子さん」
「載せてみてからの、お楽しみよ。 真琴」
「わかった。 はい。 秋子さん」
真琴は、一つ秋子に渡した。
「見てて頂戴ね、真琴」
「え! 何で? 秋子さん?」
「ふふ」
秋子の前には新聞広告の上に薄力粉をまかれたのが置いてあった。
その上に、生地を載せ、めんぼうでのばしていってた。
「こんな感じかしら。 どう? 真琴もやってみる?」
「うん!」

「あう〜 上手く出来ないよ〜」
「あらら〜 なら、私が代わりましょうか?」
「ううん。 自分でやる」
「その意気よ。 真琴」

〜五分後〜
「秋子さん、見て見て〜 全部出来たよ〜」
「まあ、よく出来ましたね。 真琴」
真琴の頭をやさしく撫でた。
「あう〜 気持ち良いよ〜 秋子さん〜」
「ふふ。 そうですか? なら、もう少ししましょうか? 真琴」
「あう〜 でも、今は早く肉まん食べたいから、後で撫でてくれる? 秋子さん?」
「ええ。 いいですよ。 なら、頑張りましょうね、真琴。」
「うん」

「そろそろ、出来上がりは近いですよ。 真琴。 頑張りましょう」
「えっ! 本当!? 秋子さん!」
「ええ。 でも、気を抜かないようにね」
「へへ〜ん 真琴はそんなにドジじゃあないもんね〜」
「そうね。 でも、油断は禁物よ真琴。 それで怪我したら嫌でしょ?」
「あう〜 嫌だよ〜」
「じゃあ、油断せずに、しっかりとやりましょね」
「うん」 

「真琴、具の入ったボールを取ってきて」
「うん」
「はい。 秋子さん」
「ありがとう。 真琴。 じゃあ、私のやってること、よく見ててね」
「…うん」
秋子は具を適度に取って、真琴の伸ばした皮に載せ手際よく、皮を寄せてひだを作っていってた。
そして、ひだを一つにまとめて、ねじり一つの肉まんが出来た。
「どう? 真琴? 出来そう?」
「う〜ん わかんない」
「でも、やってみる」
「その意気よ。 真琴」
「うん」
「ねえ、秋子さん」
「何、真琴?」
「具って、これ以外入れちゃあ駄目なの?」
「別に構わないわよ真琴。 他に何か入れたい具でもあるの?」
「うん!!」
嬉しそうに答える真琴
「何かしら、真琴」
遠慮がちに答えようとする真琴
「秋子さんの、オレンジ色のジャムを入れてみたい。 駄目?」
「いいえ。 駄目じゃあありませんよ。 むしろいいですよ」
「やったー!!」
「じゃあ、早速入れましょうか」
「うん」
「この位でいい? 秋子さん」
「ええ。 いいですよ。 真琴」
その量は、皮がなんとか保ってられるような限界まで詰めていた。
「じゃあ、今から蒸すので離れててね」
「えー。近くに居ちゃ駄目なの?」
「居てもいいけど、熱いわよ?」
「あう〜 なら、離れてる」
「どの位、掛かるの?」
「20分位よ」
「なら、部屋に戻って漫画読んでていい?」
「ええ。 良いわよ。 出来たら、呼んであげるから」
「やった!」


〜20分後〜

「真琴〜 時間ですよ〜」
下から、秋子の呼び声が聞こえてくる。
「えっ! 本当!!」
「ええ。 本当ですよ。 ふたを取ってみて」
「うん…」
「うわ〜 本当に出来てる〜 ねえ、これ本当に真琴が作ったの?」
「ええ。 これは、真琴が作ったんですよ。 私が生きた証拠ですよ」
「自信を持ってね」
「うん!」
「じゃあ、一つ食べてみましょう」
「はい。 真琴。 熱いですから気をつけてね」
蒸し器の中から、一つ出し、真琴に手渡した。
「どう? おいしい?」
「おいしい。 早く、祐一と名雪に食べさてやりたい」
「そうね。 でも、二人が帰ってくるのはまだ時間があるわね」
「うん」
時計はまだ、午後1時38分を指していた。
「じゃあ、残りは蒸し器に入れて保温しておきましょう」
「うん」


〜夕方 4時48分〜

「ただいま〜」
玄関から、祐一の声がこだました。
二階から、ドタドタドタと言う音が玄関に向かってくる。
「おかえり〜 祐一〜」
と、真琴は祐一に飛びついた。 
しかし、祐一は右に飛びののいた。
「いたい〜 何で避けるのよ〜」
「あゆと、同じ事をするから、つい条件反射でな」
「あゆって誰よ!? もう、真琴が作った肉まん食べさせてやらないんだから」
「何! もう、肉まんを作ったのか?」
「そうよ! 文句ある?」
「いやない。 むしろ、奨励するぞ」
「じゃあ、全部食べなさいよ」
「ああ。 肉まんくらいなら全部食べてやる」
「なら、早く来なさいよ」
「はいはい」

祐一は部屋に一度戻り制服から私服に着替え、リビングに下りた。
そして、テーブルに載っていたのは、普通の肉まんだった。
「おっ! うまそうな、肉まんだな。 真琴が全部作ったのか?」
「私が、手伝いながらですけど、真琴がやりましたよ。 祐一さん」
「へ〜 すごいな真琴」
「へへ〜ん どうよ祐一」
「ああ。 すごいぞ。 なら、食べてみるか」
そう言って、祐一は一つ口に運んだ。
「うっ! これは…」
「真琴、何入れたんだ…」
「秋子さんのジャム」
「何…色だ」
「オレンジ色〜」
「何!」
「それよりも、全部食べなさいよね〜 全部食べてやるって言ったんだから〜」
「うっ!」


その後、祐一は全部食べたが、一週間寝込んだ。
その間は、真琴が看病していた。
それを期に、真琴は料理を覚え、水瀬家の食卓に真琴の料理がテーブルの上に並ぶようになった。
祐一は、うれしいとは諸手を上げて喜べなかった。
祐一の分に真琴がいたずらし、困らせている。


「オイ真琴。 また、違うの入れたな」
「何よ、真琴を疑うの? 祐一は何もしてなのに、偉そうに言うんじゃあないわよ」
「うっ!」

こうして、水瀬家の一日は過ぎていく。


 
終わり

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