「あれ……誰からだろう。この番号に見覚えは無いんだけど……。う〜んちょっと怖い。
 はい、もしもし…………えっ、祐一さん!?
 わーっ、お久しぶりです。はい、三年ぶりぐらいですよね? 私が卒業した時に会って以来ですから……。えー、どうして私の番号知ってたんですか? あ、おに―――いえ、北川さんに聞いたんですね。

 え? こっちですか? はい元気に女子大学生やらさせて頂いてます。
 そうですね。それなりに楽しんでます。天野さんも学年が一つ違いますが同じ大学ですし……。
 それよりも聞いてください。祐一さん。この間、その天野さんを連れて合コンに行ったんです。
 そしたら自己紹介のとき、天野さんたら、自己紹介のところで趣味はお茶とか言うんですよ。
 きゃっ。ゆ、祐一さんそんな大声で笑わないでください。耳がキーンってなりましたよ。
 確かに私もあの時は噴出すのこらえるのに必死でしたけど……。
 まさかあれを素で言うとは思いませんでした。まぁかっこいい人あの時に居なかったんで良かったんですけど。
 

 ―――え? 彼氏ですか?

 ……また嫌な事聞きますね。あー、酷いです祐一さん。私だって彼氏くらい作りましたよ。
 そんな子どもじゃないんですから。えっ! 今ですか……いや、あの、その……。
 もーっ! それくらい察してください! そうですよ、別れましたよ! 
 酷いのはむこうなんですから。なんで男の人ってこう無神経なんでしょう! 
 今度作る時にはそこら辺しっかり出来る人にしたいです。
 そう。人生前向きですよ前向き。いちいち別れたくらいでくよくよしていたらこの先やっていけませんから。

 それはそうとそちらはどうですか? 確か去年あたりからあゆさんと一緒に生活始めてますよね。都会の暮らしには……
 え? 喧嘩?
 なんで、また……あー、もしかしてまた祐一さん、あゆさんをからかったんですね。ダメですよ、女性はみんな繊細で傷つきやすいんですから。
 違う? じゃあ、何が?
 あー……またそれは難儀な事ですね……。
 でも、それはお二人の問題です。私が口を出せませんよ。
 そうですね。私から言える事は、あの時私を含め、祐一さんに向けられていたたくさんの好意の中から、あゆさんを選んだんです。
 ですから祐一さん。私はそのお二人が幸せにならないなんてことがあったら絶対に許しません。
 私から言える事はそれだけです。後はお二人の問題ですから。
 ふぁいとっ、です、祐一さん。祐一さんとあゆさんの絆ならきっと元に戻れますよ!

 え? それ名雪さんみたいだ? それはだって名雪さんからの譲り受けですから。名雪さんはもう社会人ですから中々会えないですけど、仲良くして貰ってますよ。
 ……そうですね。最初の頃は結構空元気な明るさでしたけど、今では今までどおりの明るさ―――と言っても、名雪さんの本来の明るさを知っているのはお姉ちゃんなんですけど。
 というより髪をショートにしてから名雪さん、たぶん吹っ切れたんだと思います。
 あれ、どうしてそんなに驚いてるんですか? もしかして祐一さんも会ってないとか……ショートになった名雪さんに。もう数年も前の事なんですけど。
 ……なるほど。あれから会ってないんですね。
 そう言えば私の卒業式の時もあえて避けていたような……。―――やっぱりそうですか。
 まだ、会えませんか? 名雪さんはもう大丈夫だと思うんですけど。あゆさんが……。そうですもんね、簡単に出来ればお二人が喧嘩なんてする事もないでしょうから。
 まぁでもお二人がいずれ通らなければいけない問題だというのはあゆさんだって判っていますからね。大丈夫です。さっきもいいましたが、お二人なら絶対に大丈夫です。それは私が保証します。
 え―――あ、私が保証したってあんまり力になれるとは思いませんけど……。もぅ、お礼言うくらいならちゃんと行動を起こしてくださいね。
 はい、頑張ってください。私は信じてますから二人を。


 え? お姉ちゃんですか?
 お姉ちゃんはもう、家を出て行きましたよ。学校がずっと遠いとかでココから通うのは難しいからって……。まぁ建前なんですけどね。
 はい、祐一さんの思ってるとおりだと思います。お姉ちゃん、北川さんと一緒に暮らしています。
 はい? あー。“おにいちゃん”発言ですか? 半分からかい気味でよく言うんです。
 そうすると本当に面白くて北川さんもそうなんですが、お姉ちゃんまで真っ赤になりますからね。
 “あたしたち、まだ結婚なんてしてないわよっ!”って。言うんですよ。
 もう、見てるほうとしては凄く楽しいのでもう、毎日からかって遊んでるんですけどね。
 おかげさまでさっきも言いかけたんですけど、すっかり北川さんの事をおにいちゃんと、呼ぶのに慣れてしまいましたから。
 はい。今では茶飯事ですよ。私が北川さんの事をおにいちゃん、って呼ぶの。
 実際に、おにいちゃんはいい人ですし。私の事を本当に妹みたいに接してくれていますから。
 私も存分に甘えちゃってます。何回かお姉ちゃんに怒られてますけど……。
 
 そうですよ〜。祐一さん、お姉ちゃんはああ見えて結構嫉妬深いんですから。妙に子どもというか……。恋愛経験がほとんどないのが原因なんですけど……。
 それが私のせいかといえば、それまでなんですけど……。
 だからお姉ちゃん色恋沙汰に掛けては少し臆病なんです。もうすこし積極的にしてくれればいいんですけど。
 まぁそれが可愛いといえば可愛いところなんですよ。おにいちゃんもそういうお姉ちゃんの部分大好きみたいですから。
 まぁあれですよ。端からみれば二人ともラヴラヴですよ。
 こっちが腹立ってくるくらいに。たまにお姉ちゃん帰ってきますけどそのときの表情を祐一さんに見せてあげたいくらいです。

 …………だからそれを言わないでください。
 そうですよ、羨ましいですよ。そらあんな彼氏いたら私だって羨ましいですよ。
 こっちはもう別れたんですから。余計に思ったり……って、もうこんな時間。

 え? あ、私明日は一限から講義なんです。
 はい、必修なんで。あ、いえこちらこそ。
 あれです、祐一さん。この件がうまくいったらこっちに帰ってきてください。あゆさんと一緒に。
 その時はみんなで集まりましょう。私も皆さんに声を掛けるんで。
 はい。きっと楽しい宴会になると思いますよ。
 じゃあ、祐一さん。そちらも頑張ってください。

 おやすみなさい―――」




 

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