しおりん、コンクールに出展する

しおりん、コンクールに出展する


こんにちは、皆さん。美坂栞です。
私は絵を書くことが好きです。人物、風景、空想。これまでいろんな絵を書いてきました。でも………。
「なははははは。栞。相変わらずお子ちゃまな絵だな?」
「そうね…。もう少し練習した方がいいんじゃない? 今なら相沢君がモデルになってくれるそうだから…」
「なっ? 香里!! 俺を栞の“四次元絵?”のモデルにさせようと思って呼んだのか?」
失礼です…。私の絵は“四次元絵?”なんかじゃありません! だいたい何ですか? その”四次元絵?”というのは?! これはれっきとしたアートなんですよ?
私は二人を睨みつけます。そう、ここは私の家の私の部屋…。そして失礼なことばかり言ってくる人は私のお姉ちゃんである美坂香里と、私の大好きな人である相沢祐一さんです。
「私の書く絵はアートなんです!! 凡人には分かりませんよ〜だ。ぷんぷん!!」
私は頬をぷぅ〜っと膨らませます。私が怒っていることを察知したのかお姉ちゃんたちは…。
「し、栞? ほっ、ほら…。そんなに怒らないで。ねっ? 相沢君がアイスクリーム買ってきてくれるって…」
「か、香里!! いつ俺がそんなことを言ったんだ?」
そんなこと言って、私を物で釣るつもりなんですね? お姉ちゃん…。そんなこと考えるお姉ちゃん、嫌いですっ!!!! うううっ…。私は泣きべそをかきました。
涙を我慢して、ふと、足元を見ると新聞の広告欄が…。何か書かれてあるようですね。え〜っ、なになに……。

      ”○○新聞、美術コンクール。
         *対象……、6歳〜65歳までなら誰でも応募受け付けます。
         *絵画の用法は問いません。自分の好きな用法で描いてください。
         *自薦・他薦は問いません…。奮ってご参加ください。

こっ、これだっ!!!! ふふっ。ふふふふふふふふふ………。私はその新聞の広告欄を取り上げて、不敵な笑みを零します。お姉ちゃんたちの顔を虚ろな瞳で見つめました。お姉ちゃんたちは……。
「相沢君!! どうしてくれるのよ?! 栞がおかしくなっちゃったじゃないのよっ!!」
「なにっ? 俺のせいだって言うのか?」
口喧嘩をしていました。そう言い合ってる二人を前にして私は新聞の例の広告欄を指差して………。
「祐一さん!!! お姉ちゃん!!! 私、これに応募します!!!!」
高らかに、こう宣言しました。それを読んだお姉ちゃんたちは途端にびっくりしたような顔になって…、そして…。
「「ええーっ?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
そう絶叫すると、ムンクの叫びのような顔になっていました…。しばらくして、ムンク状態から脱した祐一さんは、一言、私の肩をパンパンと叩いて…。
「無理、無理、絶対無理、超無理、激無理…」
そんなことを言っています。ふっ、とお姉ちゃんを見るとまだムンク状態を続けていました。お、お姉ちゃん、いつまで続けてるんですか?
失礼です! 失礼すぎます!! 祐一さんもお姉ちゃんも…。うううっ…。
こうなったら……、絶対、ぜったい、ずえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ったい、優勝してやるんだから!! 優勝して二人を見返してやるんだから!! 覚えておいて下さいよ!!! ぐぐぐっ…。
私はまだ見えない一番星に向かって、そう誓いました…。


そうして私は題材を求めてあちこち放浪しました…。書いた作品は数十点。
嫌がる祐一さんやお姉ちゃんを涙で脅して、書いた作品もあります…。祐一さんたちは、私の涙には弱いんですよ……。さすがは妹属性ですよね?…。うふふっ。
今、私の手にはその傑作たちがあります。
う〜ん、どれがいいかな? あれもいいし…、こっちも捨てがたいし…。あれなんかもいいよね……。……悩んだ挙句…。結局、私は祐一さんの顔に決めました。やっぱり大好きな人の顔が一番ですもんね?…。
早速、用意していた大きな封筒に、作品と参加応募の紙を入れ、切手を貼ると郵便局まで行きました。


一ヵ月後…。
いよいよ、新聞紙面に結果が載る日。朝早くに私は祐一さんを呼びつけました。お姉ちゃんと一緒に畳の上に正座をさせます。祐一さんは、私の顔を恐恐と見つめて…。
「なあ…。しっ、栞……。あのことだったら謝るからさぁ…。だから許してくれ〜(泣)」
土下座して、顔を畳に擦り付けて謝る祐一さん。ふふふ。いい気分ですね。
「そうよ。しっ、栞…。相沢君も反省してるんだから、許してあげてもいいんじゃないの?」
そう言ってくるのはお姉ちゃん。お姉ちゃんは反省してるんですか? そう思い、私は無言のままお姉ちゃんを睨みます。お姉ちゃんは私の無言の圧力に……。
「あ、あ、あたしも反省しています(泣)。え、えぅ〜……………」
お、お姉ちゃん!! “えぅ〜”は私の専売特許なんですよ!!! そんな人の専売特許を言うお姉ちゃん、大嫌いですっ!!! ふんっ! 私はぷぅ〜っと頬を膨らませながら新聞の美術コンクールの欄を開きました。
と…、一番大きい見出しのところに私の書いた絵があるではありませんか?!!!! しかも、大賞という字がでかでかと……。
「「うっ、嘘?」」
祐一さんたちは顔を見合わせて、夢でも見ているかのように私が書いた絵を見ていました。失礼です…。…まあ、細かいことは気にしません。
これが私の実力なんですからね!!! …ふっふ〜ん。どうですか? 祐一さん、お姉ちゃん…。これからは“画伯”と呼びなさい! です!! さあ…、二人には罰として、名古屋に行って“エベレスト”でも買ってきて貰いましょうかねえ? ふふふっ…。
私は勝ち誇ったように二人を見つめます…。
と、途端に今まで驚いて私の絵を見ていた二人が大笑いし出しました。何でしょうか? あまりに私の絵が素晴らしくて気でも違ったのでしょうか? 私の心配をよそに大笑いしつづける二人…。
私は心配になって………、
「祐一さん? お姉ちゃん? 大丈夫ですか?」
「ひぃ、ひぃ、ひぃ…。は、腹が…。腹がよじれるぅぅぅ。ぷぷぷっ………」
「あはははははは。し、し、栞。あなた…。こ、これ…。あはははははは…………」
ふっと新聞を見た私…。そこには……………。

“○○新聞、美術コンクール・大賞 みさかしおりちゃん 6歳 『わたしのすきなひと』”


6歳? 私は16歳のはず…。何で? もう一度見てみます。住所はここだ…。絵も、私が書いた祐一さんの顔…。と言うことは……。
たしかに16歳と書きました。書きました…、書き……。って、ああっ!!!! 締め切りに近くて急いで書いたものだから、16の1が区切り線の縦線と同じところに来てたんですね…。うううっ…。美坂栞、一生の不覚ですっ!!! でも、編集の人もちゃんと見てくださいよ!!! 私は目に涙を溜めてそう思いました。
「栞。おめでとう。って、おっ!! 寸評が載ってるぞ。よし、聞かせてやろう。え〜っとなになに…。『この絵は6歳にしては上手すぎる絵です。このまま上達すればもっともっとうまくなるでしょう。しおりちゃん、がんばってくださいね』だってよ〜。よかったなぁ〜。栞〜」
いかにも小馬鹿にしたような態度の祐一さん。うううっ…。く、悔しいです…。お姉ちゃんからも何か言ってやってくださいっ!!
「そうよねぇ……。ぷぷっ…。まあ、よかったじゃない。栞。お父さんたちも大喜びよ。きっと…。ぷぷっ…」
それを言うなら、大喜びじゃなくて、大笑いなんですっ!! 酷いです。お姉ちゃん…。そんなこと言うお姉ちゃん嫌い、いいえ、大嫌い、いやいや、超嫌いですっ!!!!
「ううううっ………………」
私は滂沱の涙を流し、悔しそうに私の絵を楽しそうに見入るお姉ちゃんたちを見つめているのでした…。


予断ですがそれを見たお父さんたちも…………、
「うん、6歳にしては上手だなぁ…。栞?」
「そうねぇ………。作品が返ってきたら玄関の所にでも飾っておきましょうか…。ねえ、栞ちゃん…」
と言って、いたずらっぽく私のほうを見つめて微笑んでいました……。
え、え、えぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!

                                                        END

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