その昔。人々が神の元で生活を営んでいた時代。ある時、世は壊滅の危機に直面した。
 突如魔より生じた異形の生物。そのチカラは凄まじく、とても人間には抗えないものだった。魔物達が生じてから一週間、たったそれだけの期間で、付近の地域はほぼ壊滅状態に陥っていた。
 しかし神は人々を見捨てなかった。神は人々にそのチカラを分け与えることにした。
 神は勇敢な若者四人を選び出した。その4人の身体は目も眩むような光に包まれ、やがて光が収まると、彼らは特殊な材質の衣服を身に纏った姿で現れた。
 彼らは魔物にも劣らぬチカラを発揮し、一週間でその全てを駆逐した。
 僅か二週の出来事。それゆえに、この事件は歴史に残ることすらなかった。

 そしてここに収められているのは、その光の戦士たちが使用したとされる衣服である。




「……だってさ、兄ぃ」

 千夏が手にしている古びた書物、そこに書かれている内容を要約するとそんな感じになった。

「じゃあ、これがその、光の戦士? が着ていた衣服、なのかな?」

 彩ちゃんが、その書物と一緒に収められていたモノを見て言う。ななるちゃんも一緒になって見入っている。

 ここは所謂地下倉庫である。どうしてウチの庭にそんなものがあるのかはわからないが、偶然にもななるちゃんが発見したのだ。全くこの娘はどうしてこう特殊な場所を見つけるのが得意なのだろうか。使われていない体育倉庫とか。
 とある休日の昼下がり、神原家にてまったりしていた俺たちは、ななるちゃんに連れられここに来た。そしてその一室で、うっすらと光り輝く木箱を発見したのだ。仕組みはわからないが木製の箱がなんか発光しているのだ。ナチュラルに不気味である。
 しかしよくよく観察してみると、どうやら木箱自体が発光しているのではなく、光源はその木箱の中身にあるようだった。恐る恐るその中身を調べてみると、一冊の古びた書物と、発光する不気味な布が見つかった。布は取り敢えず思考から外すとして、書物のほうを確認してみると、幸い読める字で書かれていた。その内容が、先ほど千夏が述べた文章であった。

「ねぇお兄たん、これ、なんか凄いものなの?」

 ななるちゃんが指すのは、箱に入っている光り輝く布切れ。彼女はそれを指で摘み上げると、両手で広げて見せた。
 暗闇に浮かび上がるそのシルエットは、とても見慣れた形状で、

「ってちょっと待て! おかしいだろ絶対! これどう見てもブルマだ!?」

 見慣れているという点に関する追求は却下するとして、その布は明らかにブルマだった。そしてまばゆく光っている。

「でも、この本には『これは、その光の戦士たちが使用したとされる衣服である』って……」
「んなわけないだろ! どこの世界にブルマ穿いて戦う光の戦士がいるんだよ! 有り得ないって! そんな変態じみた戦士嫌だろ!」

 力限り叫ぶ。発光するブルマ、なんて非常識なモノを認めたくない一心が俺にそうさせるのだ。


「どうやら、刻は満ちたようだな……」
「うぁっ!?」

 突如響き渡る不気味な声。男の俺でさえ思わず悲鳴を上げてしまうほどだった。ななるちゃんなどは手に持っていたブルマを落とし、既に泣き顔を浮かべている。

「って親父かよ! アンタ何子供ビビらせてるんだよ!」

 手に持っていた懐中電灯をその声の元へ向けると、そこに現れたのは見知った親父の顔が。

「その書物が読めたのだな……いや、その光を見れば、言わずともわかる」

 しかしこのクソ親父は人の話など聴かずになお喋り続ける。まさか義理の娘の可愛さにとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか。このロリコンめ。寧ろペドい。

「勇! そして千夏! 彩! ななるたん!」

 うわ今最後たん付けたよこのペド親父。急に叫ばれ驚いたせいで、何より先にそんなことが頭に浮かぶ。

「お前たちは、このブルマに選ばれし四人の戦士なのだ!」
「待て」

 なんでこの親父がそんなことを言い出すのかとか、光の戦士ってお前流石にベタ過ぎるだろとか、つうかそれ本に書いてあった内容のことなのかよとか、そもなんでブルマなのかとか、ななるたんちっちゃくてかーいーなーとかなんか色々と頭に浮かんだが取り敢えずどうすればいいんだ。

「その書物にある魔物……それが再び現世に現れてしまう刻が来てしまったのだ。そのブルマが光り輝いているのがその証左。そしてそれを食い止められるのは、ブルマに選ばれしお前たちのみなのだ」

 俺が混乱して言葉に詰まったのを良いことに、ペド親父は喋り続ける。重々しい口調・台詞に対しブルマという単語が実に浮いている。

「さぁ、お前たち! 今こそその伝説のブルマを身に着けるのだ!」

 びし、と指を差す。俺に向かって。

「って待て! 俺もかよ!」

 千夏とか彩ちゃんとかななるちゃんとかがブルマを穿くのは良い。多少光ってようがそれはブルマに違いないのであり、ゆえにそれ自体は全然否定しない。寧ろ推奨したいくらいだ。
 しかし何ゆえ男であるこの俺まで穿かなきゃならんのだ。

「急げ、時間が無いぞ! 魔のチカラは、もうそこまで迫っている」
「いやつーかわけわかんねぇよマジで。なぁ千夏、この親父どうし」

 振り向いた先にいた千夏は光っていた。
 もう少し位置を特定すると下半身が。

「何で千夏お前そのブルマ穿いてるんだよ! つか何時の間に穿いた!?」
「え、だって義父さんそうしろって。スカートの下から」

 なんだ俺のすぐ傍で生着替えが行われていたわけではなかったのか。まぁスカートの下からブルマを穿くというのも中々に萌えるシチュエーションではあるが、今見逃しても頼めばやってもらえるだろう。ただ千夏の場合ビンタの十発や二十発飛んでくるかもしれないが或いはそれもまた良し。
 ではなくて。

「ねぇ、お兄ちゃんもそれ、……穿くの、やっぱり?」

 遠慮がちに話しかけてきた彩ちゃんも、やはり光り輝くブルマを身に纏っていた。あぁ、君だけはこの妙なノリに巻き込まれないだろうと信じていたのに……。何か大切なものが失われたような気がした。

「お兄たんなら、ブルマもきっと似合うよ?」
「いやそんな心にも無いこと言わなくていいからななるちゃん。それは絶対無理無茶無謀」

 そしてブルマを手渡そうとしないでくれるかな。でも受け取ってしまう俺。

「むっ!」

 突然親父が短くうなり、次の瞬間、大地が揺れた。

「おわっ、地震!?」
「勇がもたついている間に……魔が出現してしまった」
「まさか! 『そこまで迫っている』って、そんなギリギリだったのかよ!?」

 揺れはしかしその規模に比べ短く、俺が喋り終わるころにはすでに止んでいた。

「ここではまずい。すぐに地上に戻るのだ」
「え、ちょっと待てよ」

 言うが早いか、親父はさっさと階段を登っていってしまった。残された俺たちは、しばし呆然として、

「兄ぃ、取り敢えずボクたちも戻ろう。なんかイヤな予感がする」
「あ、ああ」

 真剣な千夏の表情に気圧され、四人とも慌てて地上へと戻った。



「あれ、親父はどこいった?」

 地上に出てすぐに辺りを見回してみたが、親父の姿はどこにもない。まさかあれだけ盛り上げたにも関わらずどこかへ消えてしまったのだろうか。それは流石に自分勝手過ぎる。


「兄ぃ、後ろ!」
「は?」

 千夏の叫びに振り返る。そこにいたのは、

 人のカタチをした、明らかにヒトではないモノ。

「うわぁああっ!?」

 身の丈は俺より僅かに高い程度、しかしその体積は恐らく俺の倍以上。その身体から放たれる威圧感に、情けなくも悲鳴を上げてしまった。
 これはヤバイ。シャレになってない。
 生まれて初めての感覚。しかしその正体は恐らく本能的にわかっている。
 殺気。そして死の恐怖。

 慌てて逃げようとして、
 足が動かず、身体だけが重力に引き寄せられ地に付いた。

 視線は依然として眼前の恐怖を捉えたまま、逸らしたくても首はおろか瞼すらも動かせない。

「危ない、兄ぃっ!」

 永遠とも思われた凍り付いた時間は、そんな声によって動き出した。
 視界に千夏の姿が映る。ヤツへ向かって駆け出す。やめろ無茶だ、そう叫ぼうとするも、喉が上手く機能してくれない。
 ヤツが千夏にその丸太と見紛うような豪腕を振り下ろす。

 目の前で行われた一連の動作は、スローモーションのように写った。

 千夏を叩き潰す軌道だったはずの腕はしかし、人一人分横の地面で爆音を轟かせた。

「ふッ!」

 爆音とほぼ同時にヤツの巨躯が僅かに浮き上がる。千夏のアッパー気味のボディブローが胴体にめり込んでいた。
 次の瞬間、千夏は地を蹴り、開いた腕をヤツの顔面へと突き出す。掌打が直撃しその体がぐらりと傾く。
 そして千夏は身体を丸め込み、中空で前転し、

「はぁッ!!」

 その踵が顔面へとめり込んだ。何かが砕けるような音が響き渡り、そのままヤツの身体は地面に叩きつけられ、轟音とともに大地が揺れた。

 全ては、ほんの数秒の出来事だった。


「っち、ちちち」

 千夏、と呼ぼうとして、しかし上手く喋ることができない。
 今、何が起こった?
 目の前で繰り広げられたはずの事態が飲み込めない。これは一体どういうことだ。どうして千夏にあんなことが出来るのか。これはギャグ的なノリじゃなかったのか。

「うむ、これこそがブルマに宿りし、神より授かったちから」

 いつの間に現れたのか、すぐ傍にいた親父の口から、そんな言葉が放たれる。

「そのブルマは、身に着けた者に望むチカラを与えてくれるのだ」
「ボク、兄ぃを助けようと思って、それで……」

 ということは何か。今の千夏の有り得ない動きは、そのブルマのせいだと言うのか。
 非現実にも程があるがしかし、たった今目の前で行われた現実がその言葉を肯定する。

「まさか、さっきまでの話、全部本当だったのか……?」

 愕然とする俺に、親父は重々しく頷き、なおも言葉を続ける。

「ちなみに、望むチカラは、ファンタジーっぽいものでなければならない」
「いや待てなんだファンタジー『っぽい』って!? アバウトだなオイ!」

 最早何が冗談で何がそうでないのか全然わからない。脱力し、地面に倒れこもうとして、

「お兄ちゃん危ないっ!」

 背筋が凍りつく。彩ちゃんのその声に振り返る。
 視界には、先ほどと全く同じ、あの巨躯が。
 再びあのどうしようもない恐怖が蘇り、

「メラゾーマ!」

 彩ちゃんの叫び声が響き渡った。
 俺の目の前で、ヤツの体が燃え上がった。

「って、そんなのアリなのか!? 確かにファンタジーっぽいけど!」

 なんだか全て茶番のようにも思えてきたが、しかし眼前で燃え盛る炎は見事なまでにリアルである。

「大丈夫、お兄ちゃん!?」
「あ、ああ。取り敢えずありがとう」

 彩ちゃんが放った炎は、しかしすぐに消えてしまった。跡には何も残っていない。気付けば先程千夏がボコったアレの姿も見当たらなかった。
 或いはどこかに移動したのかもしれないと漠然と考え、何気なく辺りを見回し、
 それが視界に入った。

「ななるちゃん!」

 一歩離れたところにいたななるちゃんに、今までと同じヤツが今まさに襲いかかろうとしていた。
 俺の声に、ななるちゃんがその事態に気付く。
 しかし遅すぎる。
 ヤツの腕は既に振り下ろされ、

 ななるちゃんは地を蹴り、その脇をすり抜けた。

 すれ違いざま、ヤツの身体で何かが煌き、

 バラバラになった体の破片が当たりに飛び散った。

 軽やかに地面に着地したななるちゃんの手には、小振りのナイフ。

 そしてくるりとこちらへ向き直り、

「お兄たーんっ、怖かったよぉーっ!!」
「ていうかななるちゃん君争いごと嫌いじゃなかったの!? なに完膚なきまでに殺しちゃってるのさ!」

 ななるちゃんは涙目で駆け寄り、そして俺の元へと飛び込んできた。取り敢えず来る物は拒まない主義なので抱きとめる。

「って、ちょっと待ってななるちゃん! 抱きつくのは良いけどその手に持ってるもの捨ててからにして! って痛!? いたい痛いななるちゃん背中痛い! ナイフ刺さってる多分! それ早く捨てて!!」
「あ、ごめんなさいお兄たんっ」

 慌てて離れるななるちゃん。幸い刺さったとはいえ恐らくは先っぽのほうだけだったので、大事には至らなかった。
 そしてその傷は彩ちゃんが治してくれた。呪文で。

「ふ……早くそのブルマを穿かないからだ」
「いやだから、何で男の俺が……」

 呆れつつも親父のほうを振り返り、
 違和感。

「親父……?」

 そこにいる人物は、姿こそ親父のそれと同じ。しかしなんというか、感じる雰囲気が全然違う。
 というか、目が光っている。

「それにしても、そのチカラ――流石だ。嘗てと比べ遜色は無い」
「な……誰だお前は!?」

 今目の前にいるのは、いつもの変態ペド親父ではない。それが感覚でわかった。

「ふふ……今こそ復讐の刻ッ! あの日私は、この世界を手に入れるだけのチカラを持っていた。なのに、なのにッ!」

 狂気に打ち震えるその姿は、最早親父には見えない。
 ヤツの台詞から察するに、どうやらこいつは、あの古い書物に書かれていた魔とやららしい。何故親父の姿をしているのかは不明だが、中身は間違いなく別のモノだとわかる。
 ヤツは積年の恨みを俺たちにぶつけるかの如く叫び続ける。

「わかるか、貴様らに、この屈辱がッ!
 ブルマを穿いた男どもに我が兵が全滅し、そのブルマを穿いたッ! 男どもにッ! 封印されたこの私の屈辱がッ!!」

 あぁ、ごめん。わかる。それは非常にわかる。
 つうか伝説のブルマって男が穿いてたんかい。

「だが、その屈辱もここまでだ。あのときと同じブルマを装着した貴様らを倒すことこそ我が願い! さぁ、ブルマを穿けッ!」

 怒号とともに、大地が揺れた。ヤツは、本当に俺たちを倒そうとしている。それが感じられた。
 くそ……どうしてこんな目に合わなきゃならないんだ。なんかブルマの呪いとかでもかかってるんじゃないか。

「貴様が穿かないのなら、穿いている者から順に倒すだけ。はッ!」
「きゃっ!?」

 ヤツがその腕を振ると、一番近くにいた彩ちゃんがしりもちをついた。目には見えなかったが、何かの攻撃だったようだ。

「大丈夫、彩ちゃん!?」

 ここに来て、気付く。
 さっきの有り得ない動きとか呪文とかがあったとはいえ、彼女たちはあくまで女の子なのだ。女の子が戦うことになろうとしてるにも拘らず、それを黙って見ているというのか。男として、そんなことはできない。
 ならば、こうなったら、腹を括るしかない。

「あぁいいさ、穿いてやるよ伝説のブルマをな! だからその娘たちには手を出すな!」

 時は一刻を争う。羞恥など気にしている場合ではない。その場でズボンを脱ぎ捨て、そして光り輝くブルマを穿き、

 そのの瞬間、
 俺は人として、男として大切なモノを失った。

「もうヤケだ! さぁ、覚悟しろこの野郎!」

「えいっ!」

 がごん。
 リアルでそんな音を立て、そして親父の身体が前方に吹っ飛んだ。
 そのままごろごろと約八回転半転がり、そこでようやく止まった。仰向けに倒れた親父の身体は、ぴくぴくと数秒痙攣した後、動かなくなった。
 唖然として親父が元立っていた場所に目を向けると、ひとつの影。それは親父よりもずいぶんと小さい、
 ハンマーを手にした、ななるちゃんの姿。

「……」

 呆然とななるちゃんを見つめる。
 そのとき突如として、その変化は起こった。
 今まで発光していたブルマが、徐々にその光を失っていったのだ。
 そこで我に返り、

「っていうかななるちゃん君また何やってんの!? そんなに親父に恨みあったの!?」

 しかし確かにななるちゃんならそれくらいの恨みは持っていても不思議ではないかもしれない。何しろ親父はペドいのである。
 いやそれはこの際どうでも良い。
 それよりブルマの光が消えたということは即ち、この事件は幕を下ろしたということになるのだろうか。釈然としないが、親父も倒れて動かないことだし、そう考えても良いのかもしれない。気付けばななるちゃんの持っていたハンマーも消えていた。


「……終わった、のか」

 正直、初めからずっとわけのわからないことばかりだった。
 謎の地下倉庫。そもそも何時の間に、ウチにこんなものが出来たんだ。
 古びた書物、発光ブルマ。なんでこんなものが存在していたのか。
 突然現れた怪物。そしてブルマのチカラ、親父の豹変――。

 だがもう全ては終わったのだ。普段の生活が帰ってくるのだ。

「兄ぃ!」

 千夏たちが、俺の元へと駆け寄ってくる。
 ともに、この訪れた平和を分かち合うために。

 三人はしかし、俺から一歩だけ離れたところで立ち止まり、

「……ホントに、穿いたんだね。兄ぃ」

 何か汚らわしいモノでも見るかのように。

「ってうぁそうだった! 俺なんでブルマ穿いてるんだよ! つうか俺ブルマ穿く意味無かったよ!? 何もしてないよ!? 折角めっちゃ覚悟決めたのに!」

 慌ててブルマを脱ごうとして、

 しかし、脱げなかった。

「何で!? うわこれなんか張り付いてる!? 肌に張り付いてるよ! ってちょっと待ってコレマジで脱げないんだけど!? おいちょっと!」

 どんなに引っ張ってみても、ブルマはその生地が伸びるだけで、その位置は固定されたままだった。

「お、お兄たん……。もしかして、ずっとそのまま……なの?」
「いやそんな絶望的なコト悲しそうに言わないでくれる!? なんかマジでそんな気になっちゃうから!」

 しかしななるちゃんの言葉を肯定するかの如く、どれだけ力を入れようともブルマが脱げることはない。
 次第に俺の頭から血の気が失せていく。

「で、でも大丈夫だよ兄ぃ。例え外見が変態に見えてもさ、中身は兄ぃのままだから……」
「変態に見えたらダメだろ! つうか今の姿のまま評価すんな!」

 落ち着け。冷静になれ。例えブルマが脱げなくても、そうだズボンを穿いていれば問題ないはずだ。少なくとも外見上は。

「そ、それじゃお兄ちゃん、……えっと、あれのときも、もしかしてそのままで……」

 顔を赤らめ物凄く恥ずかしそうに彩ちゃんがつぶやく。
 アレノトキ。ぐるぐると思考が回転し、そしてひとつの結論を導く。他人が傍にいるときに衣服を脱ぐ必要がある事例。即ち、ぶっちゃけえっちのとき。

「ぅぉあ、どうしようコレ!?」

 しかし幸い、生地は伸びる。だからモノが外気に触れられない、という最悪の事態は避けられそうではある。
 確かに俺はブルマ穿いたままプレイは好きである。だがそれはあくまで女の子が穿いている場合であって、自分が穿いているプレイなどは前代未聞である。

 そこでふと気付く。

「もしかして、皆もブルマ脱げないんじゃ?」

 だとしたらアレだ。不幸中の幸いというか寧ろ得したというか、体育祭も終了しそろそろブルマとおさらばしなければならないこれからの時期、どうしようかと頭を悩ませていたところだったのだ。どうやらこの事態も捨てたモンじゃないらしい。これからは俺がお願いしなくても、彼女らはブルマを穿き続けてくれるのだ。ひゃっほう!

「あ、ボクは脱げるけど」
「私も、そうみたい」
「もしかして、脱げないのお兄たんだけ?」
「何でだよ! どんな不公平だよコレは!」



 歴史の狭間に封じられていた事件は現世において姿を現し、そして再びその幕は下ろされた。

 俺の身体に、絶望的な爪痕を残して。

感想  home