地平線が遙か彼方に見える、雄大な大地
 そこは赤、黄色、紫……様々に彩られた地面はまるで豊かなる命を反映してるかの様
 そっと、大地に触れる為かがもうとして……気付く
 暖かく包まれる様な大きな手……それが優しく自分の手を包み込んでいる事に

「……あ」

 ゆっくりと目線をあげ手の主を確認した時、思わず声がこぼれる。

「岡…崎さん……」

 ぎこちなくその人物の名を呼ぶ。
 柄にもなく緊張してしまってるのだろうか、声はうわずってしまった……。

「どうした?」

 キラキラと白い歯を輝かせながら普段とは比べ物にならないほど甘い表情で微笑む朋也……思わず見とれてしまう。
 そして、そっと手を引かれその腕の中に抱きしめられる……いつもとは比べられないほど優しく、そして暖かい。

「相変わらずお前は世界で一番可愛いな。まるでこの世に舞い降りた天使か女神だ」

「そ、そんなこ……」

「しっ」

 唇にそっと人差し指をあてられ思わず黙る

「それ以上の言葉はいらない……。俺にとってはそれが紛れもない事実なんだから」

 普段とは比べられないぐらい気障な行動……だけど、それはどこか今の朋也にははまっていて、そして自分も……嫌じゃない。

「岡崎さん……」

 ゆっくりと近づいてくる朋也の顔。
 自分もそれに合わせて目を閉じていく。
 そして、優しくふれあう唇と唇……その美少女と美青年のキスはまるで上等なお菓子の様に幸福で甘く。
 いちめんのヒトデに覆われた大地は優しく二人を見守っている。
 その光景は一枚の絵画のみたいでまるでおとぎ話の様だった……








「なんて夢を見ましたっ」

 ほわ〜と幸せそうな顔をして嬉しそうに俺へと報告する風子。
 とりあえず色々とつっこみたいところはある。
 だが一言だけ、まずは彼氏としてどうしても聞いておかなければならない事を問いかける事にする。

「なぁ、そんなに普段の俺に不満か?」

「はい」

「……」

 ……とりあえず泣いた。






     
『なんとなく風子]』


  何となく続く、何となく平和な、何となく風子な日常
  そんな日々が今日も始まる……








「あの、岡崎さんっ」
「なんだ?」
「呼んだだけです」
「そうか」

 すっと顔をそらした風子の様子が気になったが、とりあえずほおっておく。

「あの、岡崎さんっ」
「なんだ?」
「いえ、何でもないです」
「そうか」

 何がしたいのか分からないがこいつの奇行はいつもの事だ……ほおっておく

「あの、岡崎さんっ」
「……なんだ?」
「やっぱり何でもありませんっ」
「……そうか」

 言いたい事でもあるのだろうか? まぁ、でもわざわざ相手をするのもめんどくさいのでほかっておく。

「あの、岡崎さんっ」
「お前さっきからなん……」
「横顔が凄く格好いいですねっ」

 そう叫ぶ様に言うと、だぁーと風子は走っていってしまう。

「……そうか」

 ほおっておく……ほおっておく……ほおっておく……
 
 なんてできるかぁぁぁぁぁぁ!
 

 ……とりあえず、捕まえた後たっぷりとお返しをしてやった。







「岡崎さんっ! ここはいりましょうっ!」

 帰り道、いきなり風子に手を引かれ、どこかの店に連れ込まれる。

「んーっ、可愛いですっ」

 一瞬のうちに横から風子の姿は消え、目の前のぬいぐるみに抱きついていた。
 ……ここはいわゆるファンシーショップか

「見てくださいっ。この巨大なぬいぐるみっ!」

 風子では抱えないともてないほどのでかい星形のぬいぐるみ。
 ……また例のごとくヒトデか。

「風子、あんまり売り物を抱きしめるな」
「大丈夫ですっ。今日で風子の物になりますからっ」
「なんだ、この店に来たのはそれを買いに来たのか」
「はい、おかざ」
「嫌だ」



「言い終わる前に即答ですかっ!?」

 とてつもなく不本意ですっ。
 そんな顔をする風子。

「全部、聞かなくても分かったからな」
「でも、岡崎さんっ。こんな可愛い彼女に贈り物なんて滅多に出来ないですよっ。機会は今回だけかもしれませんよっ。それでも良いんですかっ?」
「ああ」


「即答ですかっ!?」

 果てしなく不本意ですっ、という顔をしながらこちらを見つめてくる。

「……ホントに駄目ですか?」
「……う」

 ぺたんと耳を伏せてうなだれる子犬の様に、残念そうに顔を伏せる風子。
 ……でも、公子さんに甘やかさない様に言われてるんだよなぁ。

「……今回だけだぞ」

 結局、考えている事とは裏腹に口が先に答えてしまった。
 別に俺が風子に甘かったりするわけではない、あくまでも口が勝手に答えてしまったのだ。
 ……ホントだからな。

 とりあえず嬉しそうな風子を連れてレジに向かう。

「『お星様』人形一つで6000円になります」
「「……」」

 ……お星様?

「お客様?」

 固まっている俺たちに不思議そうに声をかける店員。
 それをあえて無視して風子に問いかける。

「風子……」
「なんですか?」
「まだ欲しいか?」
「やっぱりいらないです」
「……お前のそう言うところ好きだぞ」
「ありがとう御座います」

 ……最近の俺、いろんな意味で風子に染まりすぎかもしれない。








「んーっ、もう駄目ですっ」
「もう少しだけ……いいだろ?」

 何となく夕暮れ、珍しく色っぽい雰囲気になったおかげで、今、俺の腕の中に風子がいる。
 だからこの何週間ぶりかの感触をわざわざ手放すつもりはない。

「だってさっきから岡崎さんの手、なんかえっちですっ」
「……心外だな」

 そう言いながらも、実際は否定出来ない。
 いや、だって俺だって男だし、今日こそもう一度キスぐらいは……

「やっぱり、目がいやらしいですっ」
「……そんな事無いって」

 なんか警戒心が強くなってきてる。
 そんなに俺が嫌いなのか、風子。

「んーっやっぱり風子の魅力でえっちな気分になっちゃってますねっ?」
「……ああ、そうだよ」

 なんかもう、少々やけになって正直に答える。
 というか風子……状況を少しは理解してくれ……。
 
「マジですかっ!? 風子の魅力にメロメロですかっ!? んーっ、どうしましょうっ! 風子の魅力が岡崎さんを溺れさせてしまっていますっ! でも、しょうがないですねっ! 風子みたいな可愛い彼女を持ってしまった事が、岡崎さんの不運……いえ、幸運ですっ!」

 腕の中でぎゃーぎゃー喚き出す風子。
 見ていて少し楽しいが、男としては悲しい。
 結局今日も駄目か……。

「岡崎さんっ!」
「……なんだよ」

 心の中でさめざめと涙を流しながらもそれを悟られない様に、風子に問い返す。

「特別ですよっ!」
「な、んんっ!?」

 強引に襟を引っ張られ、風子に唇をふさがれる。

「んーっ、お終いですっ」

 ドンッ

 そんでもっていきなり俺を突き飛ばすと、風子はだぁーと走り去ってしまう。

「……奪われた」

 そんな独り言をこぼしながら、とりあえずゆっくりと風子の後を追う。
 ニヤニヤとゆるむ顔を押さえながら、

 ……それにしてもやっぱり色気はないのな








「お前ってホント子供だよな」
「いきなり失礼ですっ! 風子の何処が子供ですかっ!」
「……とりあえず、それをおけ」

 そういいながら風子が握っている物を指差す。
 風子は不服そうに赤いシャベルを置く。

「なぁ、風子。俺たちがここに何しに来たのか分かってるよな?」
「もちろんですっ。真夏の海のらぶらぶでーとですっ」

 ……凄まじく嫌な呼ばれ方だが間違ってないので訂正は止めておく。

「なら、他にする事があるだろう?」
「これじゃ駄目ですかっ?」

 真剣に聞き返される。

「俺にも一緒にやれと言うのか!」
「はいっ」

 即答だった。

「何が悲しくて、恋人と海に来て砂遊びなんてしなけりゃならない!」
「楽しいからですっ」
「俺は楽しくない」
「何故ですかっ!?」

 ……それは、こっちの台詞だ。

「ほら、もっと恋人同士が来たらやる事があるだろう?」
「……」

 俺の言葉に考え込む風子。

「分かりましたっ」
「分かってくれたか…」
「海辺で鬼ごっこですねっ!『あはは〜まて〜』、『捕まえてごらんなさ〜い』ですかっ! それで捕まえられたら夕日を背にして熱いキッスですかっ! やっぱり風子そんな恥ずかしい事嫌ですっ!」
「俺だって嫌だわっ!」

 そんな三流ドラマみたいな事を誰がするか。

「じゃあ、何がしたいんですかっ?」
「なにがってそりゃ……」

 ……俺の人生を振り返ってみるが、全く経験がない為何も思いつかない

「お、泳ぐとか?」
「風子、かなづちなんですっ」
「ボートとか…」
「小さい船は波が高くて酔っちゃいますっ」
「ビーチバレー…」
「二人でやっても楽しくないですっ」
「……砂遊び」
「ほら、やっぱり岡崎さんも砂遊びが良いんじゃないですかっ!」

 結局その日は一日中砂遊びをした。
 ……何しに来たんだろ、俺。








 なんとなくこんな日常が、なんとなく風子と共に、なんとなくまだまだ、

 つ づ く






「はぁ……」
感想  home