全俺が泣いた、というフレーズで思いついて、今日はそういう日にしてしまえ、とビン
タかましてコタツの魔力を打ち破って映画を見に行くことにした。
 見るのは、小説から始まり、映画が今上映されている




1位



僕と、シオリと、スケッチブックと。(作者:えりくらさん)


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「……」
「……」
 見終わっても数分声が出なかった。
 それくらいヤバイ出来だった。
 ふたりしてゆっくりと席を立ち、映画館を出たところにある喫茶店に入った。とりあえ
ず、どこかで落ち着かねばならなかった。 
 髪を切り、黒く染めて、ガラリと印象の変わった女優が出てきた時にも驚かされたがそ
れどころの話じゃなかった。
 終盤に入ってからの展開はもう息をつくのも憚られるほどだった。
 ミステリーにしては弱かった。などと言った声が他の客から聞こえたが、ここいること
自体、少なからず俺たちと同じなんだろう。言わなかったけど。
 彼等がなんと言おうと、頭を使うことの不得意な俺にはただただ感服するばかりで、思
い出される伏線にただただ感服するばかりだった。
 人間ってすげぇ。作者すげぇ。
 その様なことを俺は言った。
「でも、少し怖かったです」
「怖い?」
「私には、少し偶然が目立つように思いました。時間の余裕のない予備校生に資料室まで
プリントを運ばせたり、親友だった女の人を街中で見つけたり……。もし、もっと自然
に、もし何も起こらなかったら、あの子はずっと妹の振りをして絵を描いていたかもしれ
ないじゃないですか」
 確かに、そう考えると怖いものがある。
「大切な人を亡くしてそうなってしまうなら、私だってそうなっていたかもしれないんで
すよ? 偶然相沢さん…祐一さんに会ったから、今は、その、こうですけど」
「俺だってそうさ。美汐に会ってなかったら、大学なんていかずにブラブラしてたかもし
れない」
 でも、全部仮定の話だ。
 仮定と言えば、この作品だってそうだ。もしかしたら、このあと何かあって本当に心か
ら良かったと思えるハッピーエンドじゃないかもしれない。きっと彼女は持ち直してそし
て立ち直れたと思うけれど、一抹の不安は残る。そういう意味では、迷惑な話だろうけ
ど、そういう結末も見てみたい。
「次は、そっちの街で待ち合わせしようか」
「ええ」
「待ち合わせは」
「ものみの丘で」


 誰かが入ってきて、ドアベルがからんころん、と音をたてた。いつの頃からか、俺には
それがちゃんとドアベルに聞こえている。鈴の音に聞こえた俺の過去は今もうまん丸に削
られているんだろうか。


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