さいごのにんむ
むかしむかし、ちきゅうにはいきものがいませんでした。
そこで、かみさまは、ひとつのかたまりからなる、たんじゅんないきものをつくりました。
そして、ながいじかんをかけて、いろいろないきものもつくっていきました。
さいごに、かみさまは、いちばんのじしんさくとして、にんげんをつくりました。
だけど、にんげんは、じぶんのちからをうまくつかうことができませんでした。
やがて、にんげんは、ちきゅうをしはいするようになりました。
きにくわないどうぶつ、しょくぶつ、だいち、はてはどうほうであるにんげんでさえもは、とことんころしていきました。
かみさまは、そのことにたいして、いつもあたまをいためていました。
あるひ、かみさまは、しもべである2000ひきのきつねたちをよびました。
「きつねたちよ、わしは、もうこのさきながくはない。そこで、さいごのにんむをやろうとおもう。だけど、それはわしだけではむりだ。だから、おまえたちのちからをかしてくれないか?」
きつねたちは、リーダーのきつねのほうをむきました。
そして、リーダーのきつねはこういいました。
「かみさまのためなら、わたしたちはどんなことでもします。」
「ありがとう。では。」
かみさまはそういうと、さいごのちからをふりしぼって、なんじゅう、なんびゃくにもぶんれつしました。
ずぼ、ずぼ、ずぼ。
そして、きつねとおなじかずになったかみさまは、しもべであるきつねたちのなかにはいっていきました。
しかし、きつねたちには、なんのへんかもありません。
リーダーのきつねがききました。
「かみさま、われわれはなにをすればいいんですか?」
すると、もうすがたがみえないかみさまがいいました。
「おまえらはなにもしなくてよい。わしがひつようなときにだけ、おまえたちのにくたいをかしてほしいだけだ。」
「では、かみさまのためにも、このからだはだいじにしなければいけませんね。」
「そのしんぱいはない。わしのにんむがおわるまで、おまえたちはえいえんにいきつづけるようにした。つまり、おまえたちのじゅみょうは、わしのにんむがおわったときだ。」
きつねたちは、すこしだけおそろしいきぶんになりました。
だけど、そのにんむをやることにたいして、とてもほこりにもおもってました。
「そういえば、かみさま、さいごのにんむってなんですか?」
いちばんかしこいきつねがたずねました。
「わしはいまいるすべてのせいぶつをつくり、そして、せいちょうさせてきた。ただ、わしのさいこうけっさくであるにんげんだけが、まだせいちょうをおえていないのだ。だから、にんげんのせいちょうをおわらせることが、わしにのこされたさいごのにんむだ。」
いちばんわかいきつねがたずねました。
「そのために、われわれのにくたいをどうつかうのですか?」
「おまえたちには、じゆうにじぶんのすがたをかえるという、すばらしいのうりょくがある。これをりようするのだ。」
「でも、あれはとてもつかれるので、ながいじかんかえられません。」
「そうか、じゃあ、こののうりょくは、かんがえてつかわないとな。」
かみさまはざんねんそうなこえでそういいました。
あるひ、かみさまのしもべのうちの1ひきであるきつねが、やまのふもとにしかけてあったわなにかかっていました。
なかまがちかくにいないので、だれもたすけてくれません。
すると、ひとりのじょうじょが、いっぴきのきつねのまえにあらわれました。
そして、きつねのあしにあるわなをはずしました。
「ほら、おにげ。」
きつねは、しょうじょのほうをすこしみたあと、ふたたびもりのなかににげていきました。
すると、そのきつねのなかにいるかみさまは、きつねにこういいました。
「ときはきた。わしはこれからおまえのにくたいをかりるが、ひとつおねがいがある。」
「なんでしょうか?」
「にんげんのすがたになってほしい。わしは、やりかたをよくしらないのだ。」
「わかりました。」
きつねは、にほんあしでたち、りょうてをくみました。
どろん。
きつねが、あっというまににんげんのおんなのこになりました。
「じゃあ、あとはわしがすべてやる、ごくろうだった。」
こういうと、にんげんにばけたかみさまは、さっきのしょうじょのいるところへかけていきました。
そして、にどともどってきませんでした。
こうして、きつねたちは、かみさまのめいれいでにんげんにばけたあと、にんげんのもとにいくのでした。
そして、にどともどってこないのでした。
「かみさまはいったい、なにをやってらっしゃるんだろう?」
きつねたちは、だんだんとこういうぎもんをもつようになってきました。
かみさまも、きつねたちのそういうきもちをしっていましたが、なにもいいませんでした。
つきひはながれ、きつねのかずものこりすくなくなってきたころ、いっぴきのきつねがとつぜんめのまえにあらわれました。
「ただいま。」
このきつねは、いちどにんげんにばけて、かみさまのぶんしんとなった、かみさまのしもべたちのなかまでした。
「あたしね、もうみんなのまえにかえってこないとおもってたの。」
このひとことをきくことで、きつねたちはすべてをしりました。
そして、どうじに、とてもおどろきました。
「どうして、もどってくることができたんだい?」
あるきつねは、おもわずこうたずねました。
かえってきたきつねは、こたえました。
「わからない、きがついたら、おかのうえでたおれてたの。」
このきつねをふっかつさせたのが、『きせき』という、ふしぎなねがいのちからなんていうことは、どのきつねにとっても、しるよしもありませんでした。
『きせき』というちから。
きつねにも、にんげんにも、まったくりかいできないちからというものが、たしかにそんざいしたのです。
そして、それはかみをこしたちからだったのです。
「かみさまは、いったいなにをやってらっしゃったんだい?」
リーダーのきつねがそういうと、かえってきたきつねは、こういいました。
「それが、ほとんどおぼえてないの。だけど、あたしのまわりのにんげんが、とてもやさしかったことと、あたしがいなくなることをすごくかなしんでいたことだけはおぼえてる。」
きつねたちは、かみさまのこうどうに、おおきなぎもんをもちました。
すると、いちばんかしこいきつねが、こういいました。
「むかし、ぼくのおじいさまがにんげんにばけて、にんげんのもとにおりたとき、にんげんからこんなはなしをきいたらしいよ。」
そして、おおよそこういうことをいいました。
あいするものをうしなったとき、にんげんはじぶんのよわさをしる。
だけど、そのよわさをうけとめれば、にんげんはたちなおることができる。
そして、たちなおったとき、にんげんにだいじなものをおしえることができる、さいきょうのせんしとなる。
かれらこそ、「あいする」という、だいじなことを、みなにつたえられる。
「それがどうしたんだい?」
わかいきつねがいいました。
「たぶん、かみさまのおかんがえになっていることて、こんなことじゃないかな、ておもって。かみさま、そうですよね?」
「ああ、そうだ。」
あいかわらず、かみさまのすがたはきつねたちにはみえませんでしたが、かれらは、かみさまがいま、どんなひょうじょうをうかべているかということについては、てにとるようにわかっていました。
「とりあえず、にんげんは、わしがおもってたよりせいちょうしているようだ。なんせ、いちどじゅみょうがつきたきつねを、ふっかつさせるちからまであって、それをあいすることにつかったのだからな。」
かみさまは、かえってきたきつねが、『きせき』というおおきなちからでふっかつしていたことをしっていました。
『きせき』というちからを、かみさまはうとましくもおもいながらも、そののうりょくが「あいする」ということにつかわれていたことについては、かみさまはうれしくてたまりませんでした。
そして、かみさまは、さいごにこうつけくわえました。
「にんげんのせいちょうをおえたとき、せかいからすべてのみにくいあらそいはきえるだろう。そして、かみはきえ、あとはちきゅうじょうのすべてのきょうだいたちに、すべてをまかせることになるだろう。」
感想
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