「またこの空かぁ」
ボクはつぶやきながら上を眺める。
ボクの上はとても厚い雲に覆われていて
そして、とても暗かった。

Harmony


ボクはいろいろな世界を旅している。
お花ばっかりの世界や、一面が真っ青な海の世界
荒れ果てた大地ばかりの世界や、一面が真っ黒な海の世界
とてもきれいな世界からとても怖い世界
いろいろな世界を旅している。
世界を移動するのは自分の意思では出来ない。
というか、世界を移動するときはボクの意識はないのだと思う。
いつも気がついたら世界が変わってるから。
でもボクは世界を旅することは嫌いじゃない。
怖い世界にも行くこともあるけど、
それでも新しい場所に進むのは嫌いじゃない。
いつからこうしてきたかは分からないけど、
これからもこうしていければと思う。
だってここは、とても暖かい場所だから。

でも、最近はちょっと怖いんだ。
前まではお花がいっぱいの世界とか、とてもきれいな石がある世界にいけてたけど
最近は全然そんなとこにいけないんだ。
暗い海や枯れ果てた大地とても厳しそうな山ばかりの世界ばっかなんだ
それに、そんな場所も前とは違って
全然暖かくない。
前はこういうような世界でも、とても暖かかった。
だからボクはこんな世界に来ても
全然怖くなかったんだ。
でもここは違う。
とっても寒い。
このまま動けなくなってしまうんじゃないかと思うほど寒いんだ。
いったいボクはどうしちゃったんだろ。

ボクはまだ旅を続けていた。
相変わらず暗くて寒い場所ばかりだけど、
それでもボクは旅はやめれないんだ。
自分の意思でやってるものじゃないから、
やめようと思ってもやめれないんだけど。
それでもボクはこの旅が好きだから。

最近また暖かい場所に行けるようになってきた。
でも、最近の暖かい場所はちょっと変なんだ。
今までは僕一人だったのに、
最近じゃあいろいろな動物にあえるんだ。
とても真っ白なうさぎや、
とてもきれいな毛並みのきつね。
いろんないろんな物や動物にあえるんだ。
僕は今はそれが楽しみだったりする。
なかでも一番会うのが楽しみなのが、
かわいいかわいい人形。
その子はとっても暖かいんだ。
ふれることは出来ないけれど、
とっても暖かいんだ。
ボクはその子に会うのが楽しみで仕方ないんだ。

最近世界を飛ぶ時間がとっても長くなってる気がする。
飛んでるときは意思がないから本当は長さなんて分からないんだけど
それでもなんとなくそう感じるんだ。
またおかしくなっちゃったのかなぁ?

最近この世界にもお友達が出来た。
今まではボク一人だったけど、
はじめてお友達が出来ました。
といっても、彼は前からいたんだけどね。
お友達の彼はあの天使の人形さん。
今までは彼と話すことは出来なかったんだけれど、
最近はよくお話するんだ。
今もこうして、お話してるんだ。
「ねぇねぇ、天使君はいつからここにいるの?」
「ずっとずっと昔からだよ。」
「へぇ〜。じゃあ天使君もいろいろな世界を旅したの?」
「いや、僕は旅はしてないよ。
 そもそも、僕は旅が出来ないんだ。」
「どうして?」
「どうしてだろうね。
 僕も君みたいに世界を回りたいんだけど、許してくれないのさ。」
「え〜。ひどいなぁ。いったい誰が許してくれないの?」
「だれなんだろうね」
「???」
「実は僕にも分からないんだよ。
 ただ『あなたはそこで待っていてください』って誰かに言われるんだ。」
「へぇ〜。その人って誰なの?」
「誰なんだろうね。僕にもわからないんだ。」
「そっか〜。ボクがその人にあったら、
『天使君に旅をさせてあげてください』ってお願いしてみるよ。」
「あはは。姿が分からないのに、誰にお願いするの?」
「そっか〜。でも、必ず見つけてお願いしてみるよ。」
「うんお願いね。」

今度の世界は今までとはちょっと違ってる。
今まではとっても幻想的な世界ばっかだったけど、
この世界はとっても現実感がある。
いろいろな人が歩いてる町のようだ、
でも、誰もボクのことには気がついてないみたい。
さっき、おじさんにぶつかったのに、
おじさんはボクには全然気がついてなかった。
どうしたんだろう?
でも、僕はこの世界をずっと前から知っていた気がする。
そう、ずっと昔にここに来たことがあるはずなんだ。
でも、いつきたんだろう。
他の世界は全部覚えてるのにここは思い出せないや。
ボクにとってとっても大切な場所だったはずなのに・・・

また天使君と会った。
「天使君天使君。」
「どうしたの?」
「ボクね、この前初めて行った世界があったんだ。」
「へぇ〜。どんな世界だったの?」
「んとねぇ。いっぱい人がいたの。
 そして、いろいろなお店があったよ。」
「へぇ〜。それは町っていうところだね。」
「へぇ〜。町って言うんだ。
 でね、ボクその世界に昔行ったことがある気がしたんだ。」
「そうなんだ。」
「でも、今まで行った世界は、
 全部覚えてるのに、その世界のことだけはっきり思い出せないんだ。」
「へぇ〜。なるほど。」
「どうしてなんだろ?」
「どうしてだろうね。」

また、あの世界に行った。
天使君が言っていた『町』に来た。
でも、前行ったところとはちょっと違ってる。
前のところとは違って、大きな建物が一個ある。
いろんな人がその中から出たり入ったりしている。
あの動いてる長いのはなんだろ?

また天使君と会った。
「天使君。」
「どうしたの?」
「この前またあの世界に行ったよ」
「あの世界って町?」
「うん。でもね、前行ったところとは違う場所みたいなんだ。」
「へぇ〜。どんな場所だったの?」
「うんとね、おっきな建物があって人が入ったり出てきたりしてたよ。
 あと、とっても長いものがその間を走ってたよ。」
「う〜ん、多分それは駅だと思うよ。」
「駅?町とはちがうの?」
「駅は町の中にあるんだ。
 そして、長い走ってたものは電車って言うんだよ。」
「電車?駅じゃないの?」
「電車って言うのは人を乗せる乗り物なんだ。」
「へぇ〜。町にはいろいろあるんだね〜」
「そうだね。いろいろあるよ。」
「あ・・・そろそろまた違う世界に行くのかも。
 最近なんとなく分かってきたんだ。」
「そっか。残念だね。」
「うん。でもまた会おうね。」
「うん、またね。」

「本当は君は、その町を確かに知ってるんだよ」
天使君が何か言ってるけど、聞き取れないや・・・

また、あの町に来ていた。
最近ここにしか来ていない気がする。
また新しいところだ。
ここは人が少ない。
真ん中から大きな水しぶきがあがってるだけで、
他には何もない。
ここはいったいどこなんだろう、
天使君なら知ってるかな。

「天使君。また新しいところに行ったよ。」
「へぇ〜。今度はどこだい?」
「えっとねぇ。今度は人は全然いなかったよ。
 その代わりにおっきな水しぶきがあがってた。
 天子君分かる?」
「多分そこは公園じゃないかな。」
「公園かぁ〜。どんなところなの?」
「公園って言うのはね、みんなが遊んだりするところなんだ。」
「でも誰もいなかったよ?」
「そこは、みんなのための公園じゃないのかもしれないね。」
「どういうこと?」
「誰か大切な人のための公園てことだよ。」
「う〜んよく分からないなぁ。」
「うん。僕もよく分からないや。」
「そうなんだ。」
「あ、そろそろ行くみたい。」
「そっか、またね。」
「うん、またね〜。」

「次あうときが多分、最後なんだろうな・・・」

新しい世界に来た。
でも、ここは今までとは違う。
人も全然いないし、建物も何もない。
ただ真っ白な雪原が広がってるだけ。
それになんだかここは寒いや。
早くまた違う世界に行かないかな。

おかしい。
しばらく待っても全然他の世界に行かないや。
最近はすぐいろんな場所にいけたのに。
う〜、寒いよ〜。
どうしたらいいのかなぁ。

『まっすぐ歩いて行きなさい。』
いきなり雪が降る空から、声が聞こえてきた。
「だれ?」
『あなたの知らないものです。』
それは僕の声が聞こえてるようだった。
「歩いてっていっても僕歩けないよ。
 今までの世界も自分の意思じゃあ歩けなかったもん。」
『大丈夫。この世界ではあなたには歩ける足があります。』
そういわれて僕は足を動かしてみた。
ザクッ、ザクッ
「うわぁ、本当だ。ボク歩けるよ〜。」
『その足でまっすぐ歩きなさい。』
「まっすぐ行ったらなにかあるの?」
『行けば分かります』
「うん、分かった。僕頑張るよ。」
その声は、ボクには答えなくなった。

ザクッザクッザクッ
ザクッザクッザクッ
ザクッザクッザクッ

う〜、進んでも進んでも、雪ばっかだよう。
はぁだんだん辛くなってきちゃったよ。
おまけにだんだん寒くなっていくし、
本当にこの先に何かあるのかなぁ、
ぼく、からかわれたのかなぁ。
『がんばって。』
天使君?
周りを見渡しても天使君はいなかった。
けど、確かにあの声は天使君だった。
もしかしてこの先に天使君がいるのかな。
よーし、じゃあがんばるぞ〜。
ボクは力強く足を前へと動かしていった。

ザクッザクッザクッ
ザクッザクッザクッ
ザクッザクッザクッ

歩いていくと大きな樹が見えてきた。
あれ・・・
あの樹のこと僕知ってる気がする。
いつだったかあの樹に登ったことが・・・
なんなんだろう、あの樹に向かっていくたびに
僕の忘れてたことが
いろいろ思いだされてくる。
この前行った町
ボクは確かにあそこを覚えている。
昔ボクはあそこにすんでいた。
昔?
昔っていつのことだろう、
生まれてからずっとこの世界にいたはずなのに。
あの駅
ボクはあそこを知っている。
あそこで誰かと遊んだ。
誰?
ボクはここでずっと一人だったはずなのに。
あの公園
ボクはあそこを知っている。
大切な人といっしょにあそこで鯛焼きを食べた。
大切な人?
ボク以外の人は知らないはずなのに。
あの樹のことも僕は知っている・・・
そうあの樹は・・・
大切な『学校』だ。

ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ

ボクは『学校』に向かって走り出した。
あそこはとっても大切な場所なんだ。
ボクと彼の二人だけの秘密の場所。
ボクと彼だけの学校。
テストも授業もない。
宿題もないし先生もいない。
あるのは二人の自由な楽しい時間だけ、
二人のかけがえのない時間だけなんだ。

ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ

はぁ・・はぁ・・・
やっとついた。
やっぱりあの樹だ。
ボクと彼の大切な『学校』だ。
でも、どうしてここにこの樹があるんだろう。
「それはね、もう目覚めるときが来たからだよ。」
「天使くんっ!」
樹の枝には天使君ともう一人誰かが乗っていた。
誰だろう彼は。
「彼はもう一人の僕、
 君の願いをかなえるために一緒に頑張ったんだよ。」
そういうと彼は天使君を持ちながら枝から降りてきた。
「はじめまして。
 といっても、君には何度もあってるんだけどね。」
「え?ボクは君の事知らないよ。」
「う〜ん。
 俺があってるのは、君が知ってるキミじゃないからね。」
「ボクが知ってるボクじゃない?」
「まぁ、その話はいろいろややこしいから、
 戻ってからあいつに聞きな。」
「うん、分かったよ。」
「あいつって言うのが誰かは分かってるのか。」
「うん、さっき思い出したよ。
 でも、何で今まで忘れてたんだろうね。」
「なんでってそれは・・・」
そういったきり彼は黙り込んじゃった。
いけないことを聞いちゃったのかな。

「それについては僕が話すよ。」
そんな沈黙を破ったのは天使君だった。
「実は君はあの木の枝から落ちてしまったんだよ。」
え・・・どういうこと?
「昔、君はとても大切な男の子とここで遊んでいたんだ、
 そしてその日も彼と遊ぶ日だった。
 でも、その日はちょっと事情が違っていた。
 彼が遠いところに行ってしまう前日。
 つまり、あの学校で遊ぶ最後の日だったんだ。」
うん、そこまでは思い出せた。
さっきこの樹を見たときに思い出せたんだ。
そこから先は思い出せないのだけれど。
「そしてその日に事故は起こった。」
「事故?」
ドクン!ドクン!
いきなり胸が苦しくなってきた。
「その日に君はその樹にのぼり
 そして・・・そこからおちた・・・」
「やっぱり・・・そうだったんだ・・・」
「思い出したのか!?」
いきなりもう一人の天使君が大きな声を出した。
「うん。今話を聞いていて思い出したよ。
 ないている彼の顔もね。」
「そうか・・・辛いこと思い出させちまったな」
「ううん。これは思い出さないといけないんだよきっと。」
「うん。そうだね。」
全部思い出したところで、ひとつの疑問が浮かんだ。
「それで・・・僕は死んじゃったの?」
天使君が口を開く
「いや。幸い命は取り留めたんだ。
 ただ、分かってると思うが君は目覚めてない。
 ただ命があるだけなんだ。」
「そうなんだ・・・」
じゃあ、ボクはもう彼に会えないのかな・・・
「おいおい。落ち込むなよ。
 そのために俺たちがいるんだろうが。」
???
「どういうこと?」
「さっき言っただろ、
 俺とこいつは君の願いをかなえるためにここにいるんだって。」
「そう、僕たちは君のためにここにいるんだ。」
「それじゃあ!」
「そうさ。またあわせてやるよアイツに。」
「ええ!本当に?」
「ああ、それが俺とこいつの願いでもあるからな。」
「うん。僕たちはそのために頑張ってきたんだ。」
『じゃあ、君の願いを聞かせてくれ』

ボク・・ボクの願いは・・・・・
















                               あゆ!



                               祐一君!





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