自分の名前、まだ覚えてる?
















祐一「あー暇だ。何か面白いことないのか」
名雪「祐一、さっきからそればっかり」
香里「本当に暇ね。ここで愚痴を言っていても何の進展もないけど」
祐一「これだけ暇だと、暇つぶしをする気力すら無くなるな」
香里「無気力と無謀からは、何も生まれないわよ」
祐一「ああ、もう何でもいいから、世界がひっくり返るような事件が起きないものか」
名雪「そんなこと言ってると、きっと何かとんでもない事が起きるよ」
北川「いよう、御三方。あいかわらず暇してるかね」
祐一「おっと、暇つぶしのネタがやってきた」
名雪「わ、北川君。何そのおっきな荷物?」
北川「ふふふ。近所のリサイクルショップで面白い物を見つけてきたんだ。なあ相沢、これが何だか分かるか?」
祐一「あいかわらず唐突だな。何だよその怪しげな機械は」
名雪「変なボタンとかアンテナがいっぱい付いてるね」
香里「また何か、くだらない機械じゃない?」
祐一「いったい何なんだよそれは」
北川「ああ。これはな、相沢。お前の存在をこの世から抹消する機械だ」


北川「おいコラ、何も言わずに立ち去ろうとするな」
祐一「俺は忙しいんだ」
北川「暇つぶしする気力も無いほど暇なんじゃなかったのか?」
祐一「いつから聴いてたんだお前は」
北川「あー暇だ。何か面白いことないのか、の辺りからだ」
祐一「最初からかよっ」
名雪「祐一の存在を抹消するって、どうやるの?」
祐一「お前も、そんなものに興味を示すなっ」
香里「とりあえず、スイッチを入れてみましょ」
祐一「ああっ。くだらない機械って言ってたのにっ」

北川「というわけで相沢、お前には消えてもらう」
祐一「ちょっと待て、展開が急すぎるぞ。ここは冷静になって話し合おうじゃないか」
名雪「祐一、信じてるの?」
祐一「いつもなら冗談と一蹴できるかもしれないが、この流れはやばい。きっと何か良くない事が起こる」
香里「決議に入ります。『相沢祐一の存在を抹消する』に賛成の人、挙手をお願いします」
祐一「早いって! それにそんな恐ろしげな事、多数決で決めようとするなっ」
名雪「はい」
祐一「真っ先に挙手するなっ! お前は俺のいとこだろうがっ」
名雪「えー。面白そうなのに」
祐一「面白くないっ」
香里「満場一致で可決されました」
祐一「ちょっと待て。俺は反対だ。反対意見も聴けっ」
北川「というわけで、さらば、相沢祐一」
祐一「ちょ、ちょっと待て。話せばわかるっ」
北川「問答無用」
祐一「う、うわーっ!」


ヘナチョコ太郎「ん……? な、何だ? 何ともないな」
名雪「わ、わっ」
香里「あらら」
北川「ばかめ。自分の存在が消されていることに気付いていないのか?」
ヘナチョコ太郎「そんなこと言われたってなあ。俺は全くの無傷なんだが」
名雪「祐一……名前、名前」
ヘナチョコ太郎「名前? ――う、うわっ、なんじゃこりゃーっ!」
北川「うわはははは。思い知ったか」
ヘナチョコ太郎「お前かっ、お前がやったのかっ」
北川「そうだ。KANONでは主人公の名前を任意に変更できることは知っているだろう。この機械はな、『主人公相沢祐一の名前を変更する装置』なのだ!」
ヘナチョコ太郎「なんだとーっ!」

名雪「香里の言うとおり、すっごくくだらなかったね」
香里「北川君がすることなんて、その程度よ」
北川「わはは、どんどんいくぞ。そりゃ」

スケベ大王「こら、やめろ」
北川「そらっ」

ハナクソ大将「戻せ」
北川「ほれ」

インキン伯爵「ぐはっ」
北川「お前は今日から相沢祐一改め『相沢インキン伯爵』だ」
インキン伯爵「うああ。これじゃもう、ナンパもできないっ」


北川「ああ、つまんないなあ。どこか遊びにいきたいけど、女の子一人じゃなあ」
インキン伯爵「あれっ、君、ひょっとして渚ちゃんじゃない?」

名雪「いきなりコント始めちゃったよ」
香里「どうしようもない連中ね……無視するのもかわいそうだから、見ててあげましょ」

北川「え? いえ、私は違いますけど……」
インキン伯爵「あれっ、人違い? ……ゴメン。君、俺の初恋の人に似てたもんだから」

名雪「ナンパの手口が古くさいよ」
香里「黙って見てなさい」

北川「そうなんですか?」
インキン伯爵「まあ、ここで俺たちが出会ったのも何かの運命じゃないかな。これから時間ある?」
北川「少しだけだったら」
インキン伯爵「そうこなくっちゃ。俺の名前はインキン伯爵。『サー・インキン』と呼んでもいいぞ」

北川「……ヘンタイ」


インキン公爵「嫌だーっ! そんなのイヤだーっ!」
名雪「長いボケだったね」
香里「ツッコむ気も起きないわ」
インキン公爵「戻せ。今すぐ戻せ。俺のナンパライフのためにもっ」
香里「ナンパ以外に困ること、無いのかしら」
インキン公爵「って俺、知らないうちに出世してるし」
北川「戻して欲しいか?」
インキン公爵「当たり前だ」
北川「ならばオレ様に永遠の忠誠を誓え」
インキン公爵「……地獄へ落ちろ、このクセ毛ウジ虫」

香里「ねえ北川君。あたしたちにもやらせてくれない?」
北川「ああ、いいぞ」
名雪「わあ。面白そう」
インキン公爵「お前ら、人の名前で遊ぶなっ」
北川「ここをこうやって……」
香里「ふんふん」
インキン公爵「人の話を聞けっ」
香里「大体わかったわ。ここを……こうね」

裕香「……」
祐雪「……」
皇也「……」

香里「名前が変わると、結構イメージ変わるわね」
皇也「香里……これは完全にアウトじゃないのか?」
名雪「えっと……祐一の昔の名前?」
皇也「勘弁してくれ。ホントに色々とやばいから」
香里「せっかくだから名雪もやってみる?」
名雪「うん。えっと、こうかな?」

銀眼の魔術師(シルバーアイズ・ウィザード)「……」
黒き風の魔王(サタン・オブ・ザ・ブラックウインド)「……」
紅の死神(デス・クリムゾン)「……」

名雪「かっこいいね」
紅の死神(デス・クリムゾン)「……こういう趣味なのか」
名雪「自分の名前、まだ覚えてる?」
紅の死神(デス・クリムゾン)「ああ、なんとかな……」

北川「ま、このへんで勘弁してやるか」
香里「暇つぶしにはなったしね」
紅の死神(デス・クリムゾン)「お前らな……」
名雪「わ。デスクリムゾン、すごく怒ってるよ」
紅の死神(デス・クリムゾン)「俺をその名前で呼ぶなーっ!」
北川「よし、お詫びのしるしだ。お前が欲しがってた洋モノのあれ、ダビングさせてやるよ」

紅の死神(デス・クリムゾン)「ずっと信じていたぞ、親友っ(1秒)」
北川「相沢っ(1秒)」

香里「美しいわね」
名雪「そうかな……?」
香里「『男の一言、金鉄の如し』と言ってね。男同士で交わした言葉は鉄のように重いっていう意味なの。男の友情っていいものよね」
名雪「でもさっき、ウジ虫とか言ってたよね」

北川「よし、これで元通りだ。よかったな、相沢」
相沢「北川君、ちょっと」
北川「なんだ? ……あいたたたたた」
相沢「『相沢』って何だよ、『相沢』って」
北川「自分の名前を忘れたのか? それと、オレのトレードマークのクセ毛を掴むな」
相沢「俺はずっと『祐一』で通しているんだ。苗字だけじゃ脇役っぽいだろうが」
北川「さりげなく失礼なこと言ってるぞ」
相沢「いいから直せ」

北川「これでいいだろ」
裕一「北川君、あのね」
北川「なんだ? ……あだだだだだだ」
裕一「漢字が違うっ」
北川「そうだったか? それと、オレのトレードマークを引っ張り上げるな」
裕一「俺の名前の『ゆう』は『しめすへんにみぎ』だ。間違えるなよ」
北川「へいへーい」
裕一「たのむぜ」

北川「完璧」
しめすへんにみぎ「北川君……」
北川「どうした?」
しめすへんにみぎ「さすがにワザと、だよな?」
北川「当たり前だ」
しめすへんにみぎ「死に晒せっ」
北川「古典的ギャグの分からん奴だな。それとオレのトレードマークを三つ編みにしながら、うなじに息を吹きかけるな」
しめすへんにみぎ「するか、そんなことっ!」

尿道カテーテル「よく分かったよ。戻すつもりなんて無いんだな?」
北川「いや、そんな事はないぞ……あれ?」
尿道カテーテル「もう俺は尿道カテーテルとして、カテーテルな人生を送るよ」
北川「すねるなって……おかしいな」

かわかむり「いっそ殺してください」
北川「あ、あのな相沢。言いにくいんだが……」
かわかむり「殺してください」
北川「実は、な……」
かわかむり「殺して」
北川「その……戻しかた、忘れちゃった。てへ♪」

かわかむり「てへ♪ じゃねえッ! このクサレウジ虫! 殺させろっ! テメエを今すぐ殺させろッ!」
北川「きゃーっ」

香里「醜いわね」
名雪「そうだね」
香里「『男の一言、近鉄の如し』と言ってね。男同士で交わした言葉なんて、近鉄バファローズのようにあっさり消え去ってしまうものなの。男の友情なんてその程度よね」
名雪「香里の一言も近鉄並みだよね」

かわかむり「もういいっ! 自分で直す!」
北川「わわっ。こら、無闇にいじるな」
かわかむり「これか、このボタンかっ。それともこっちかっ」
北川「でたらめに押すなーっ!」

あゆ「どうだ。これで直っただろう」
久瀬「相変わらずムチャクチャな奴だな」
あゆ「……」
久瀬「……」
あゆ「誰だ、お前は」
久瀬「それはこっちの台詞だ」
あゆ「おい北川、いったい何が起こったんだっ!」
久瀬「分かってるんじゃないか……どうやら相沢のやった適当な操作が原因だな。オレまで一緒に、KANONの登場人物の名前に変更されてしまったようだ」
あゆ「元はと言えば、お前のせいだろうが」
舞「二人とも、たいへんっ、たいへんだよっ。わたしたちの名前がっ」
あゆ「……」
久瀬「……」
舞「……誰?」
あゆ「そのボケはもういい」
久瀬「そもそも顔は変わってないんだから、誰かは分かるだろ」
舞「そういえばそうだね」
あゆ「その口調で舞ってのも新鮮だよなあ」
久瀬「人のこと言えるか」
舞「それよりたいへんっ。香里が、かおりがっ」

佐祐理「香里はちょっと頭の良い普通の女の子ですから。あははーっ」
久瀬「だめだ。錯乱している」
あゆ「秀才って、突発的なアクシデントに弱いからなあ」
佐祐理「あたしの名前がっ、あたしの名前がっ! あははーっ」
舞「うわーん! 香里ーっ」
久瀬「こうなったら一刻も早く全員の名前を元に戻すしかないぜ」
あゆ「戻す当てはあるのかよ」
久瀬「この機械で名前の変更ができたんだ。当然、戻す操作方法だってあるはずだろ」
あゆ「結局当ては無いのかよ……まあ、少しずつでも前に進むしかないか」
久瀬「そういうことだ。さあ、やるぞ」

栞「少しは前進してるのか? これ」
石橋「多分な」
栞「あまり事態は変わってないように見えるんだが」
石橋「オレに聞かれても困る」
名雪「ねこーねこー」
栞「名雪。遊んでるなよ」
秋子「それは香里だよ……」

斉藤「なあ、相沢。オレたちの名前、どんどんランクダウンしてないか?」
ぴろ「気のせいだろ」
天野「空からお菓子が降ってきたりすれば、素敵だと思いませんか?」
斉藤「美坂、ヤバイな……あっちの世界へ逝きかけてる」
けろぴー「かおりーっ、しっかりーっ」
ぴろ「急ごう。いろんな意味で苦しくなってきた」
斉藤「身も蓋もないな」

山犬「ここは一旦様子を見て、他の方法を試してみるのはどうだろう」
エロ本「何をいまさら」
保育所の児童(幼女)「かおりぃ」
真琴「春がきて……ずっと春だったらいいのに」
エロ本「……香里はもうダメだ。あきらめろ」
保育所の児童(幼女)「えーん」
山犬「こんな方法を続けていても、混乱するばかりだぞ」
エロ本「すでにドグラマグラになってるだろ……」

山犬「……もうこうなったら仕方が無い。最後の手段を使うぞ」
エロ本「そんなものがあるのか?」
山犬「できれば、これだけは使いたくなかった」
保育所の児童(幼女)「危ないの?」
山犬「危なくないと言えば嘘になるな」
エロ本「北川……俺たちもできる限りの協力はするぜ」
保育所の児童(幼女)「うん。わたしも香里が元に戻るんだったら、何でもするよ」
山犬「ありがとな、二人とも。でもこれはオレ一人でやるべきことだから……美坂のためにもな」
エロ本「山犬……」
保育所の児童(幼女)「山犬くん……」
山犬「そこで小ネタ挟むなよ……それじゃ、行ってくるよ」
エロ本「待て。どこへ行くんだ」
山犬「オレの家だ。この機械の取扱説明書をとってくる」
エロ本「……」
保育所の児童(幼女)「……」
山犬「オレの家さ、ここから歩いて二十分くらいかかるんだよ。往復で四十分だろ? 遠いよな」
エロ本「……」
保育所の児童(幼女)「……」
山犬「途中に車の多い道があって危ないし、歩くの嫌だからできるだけ帰らずに済ませ……」

エロ本「歩くのが嫌なら走って行けっ! このクサレウジ虫クセ毛ワキ役がッ!」
保育所の児童(幼女)「この二人、やっぱり近鉄並みだね……」



ということで、無事に直ったわけだが「北川」
こら。ちょっと待て「祐一」
一時はどうなることかと思ったわ「香里」
正気に戻ってよかったね、香里「名雪」
君たち、今の状況に疑問はないか「祐一」
全員、名前も元に戻ったしな「北川」
戻ってない。戻ってないぞ「祐一」
あたしも今回の事件で、自分の心の弱さを思い知らされたわ「香里」
おーい「祐一」
すっごく心配したんだよ。このまま香里が変になっちゃったらどうしようって「名雪」
いや、この状況が変だろ「祐一」
北川「でも名前が変わるだけでこんなに混乱するとは思わなかったな」
いきなり素に戻るな!「祐一」
名雪「大切なものほど、失って初めてありがたみに気付くんだよね」
お前らな……「祐一」
香里「こうして無事に直ったから言えることだけどね」
直ってない、俺だけ直ってないっ「祐一」
北川「当たり前すぎて誰も気にも留めないものにだって、大切な役割があるって事だよな」
しみじみ語るな「祐一」
香里「たかが名前、されど名前ってことね」
まとめに入るな「祐一」
名雪「めでたしめでたし」
締めるなっ「祐一」
北川「オレたちの戦いは、まだ始まったばかりだ」
打ち切るなーっ!「祐一」

名雪「わ。なんかキレたよ」
こんな機械っ! こんな機械っ!「祐一」
北川「よせ、相沢。壊れるぞっ」

コンニャク「砕けろっ! 砕けろっ!」
焼きそば「まずいぞ、名前が暴走している」
牛丼「名前が、名前が……あははーっ」
肉まん「ま、また香里が」

あの子「相沢を止めろっ!」
この子「ゆういち、やめてっ、やめてっ」
すずき「壊れろーッ!」
その子「あははーっ」

生徒会役員(幼女)「やばい、爆発する!」
陸上部員(幼女)「きゃーっ!」
保育所の先生(幼女)「あははーっ」
たい焼き屋のオヤジ(幼女)「燃え尽きろーっ!」



肥山溜五郎「あいたたた……みんな、大丈夫?」
叶姉妹の姉のほう「なんとか大丈夫ですわ」
肥山溜五郎「あ、香里。ほんとに大丈夫なの? 名前が……」
叶姉妹の姉のほう「あまり違和感が無いでございますわ」
肥山溜五郎「そんな。口調まで変わって」
叶姉妹の姉のほう「冗談よ」
肥山溜五郎「うー」
叶姉妹の姉のほう「でも違和感ないのは本当よ。あたしってほら、ゴージャスだから」
肥山溜五郎「なんでそんなに余裕なのかな」
叶姉妹の姉のほう「それにしてもあなたこそ、酷い名前で固まっちゃったわね」
肥山溜五郎「うー。もうお嫁にいけないよ」
叶姉妹の姉のほう「もうこうなったら、相沢君に責任とってもらっちゃったら?」
肥山溜五郎「え……えーっ! せ、責任って、責任って」
叶姉妹の姉のほう「結局、相沢君の暴走のせいでこうなっちゃったんだし。うふふ。鏡、見たら? 顔が真っ赤よ」
肥山溜五郎「わ、わ。香里のいじわるーっ」

逶ク豐「逾蝉ク「お前ら、こんな状態でよく女子高生トークできるな……」
肥山溜五郎「わっ。祐一、どうしたのそれ」
叶姉妹の姉のほう「文字化けしちゃったみたいね。人間には発音できない名前になってるわ」
逶ク豐「逾蝉ク「俺は一体、誰なんだっ」
叶姉妹の姉のほう「自業自得でしょ。でも名前が読めない主人公っていうのも斬新でいいかもね」
逶ク豐「逾蝉ク「そんな事言っても、そもそも繧ョ繝」繧ー縺」縺ヲ繝帙Φ繝医↓縺、繧峨>」
肥山溜五郎「わあ。とうとう台詞まで」
逶ク豐「逾蝉ク「蜿ー譛ャ蠖「蠑上・蝠冗ュ皮┌逕ィ縺ァ繝繝。縺ィ縺・≧鬚ィ貎ョ縺ォ逍大撫縺後≠繧翫∪縺励※」
肥山溜五郎「何言ってるのか全然わからないよ」
叶姉妹の姉のほう「台詞が読めない主人公っていうのも斬新でいいかもね」
逶ク豐「逾蝉ク「縺ゅ∴縺ヲ縺薙・蜿ー譛ャ蠖「蠑上〒荳贋ス榊・雉槭↓謖第姶縺励◆縺、繧ゅj縺ァ縺励◆縺」
肥山溜五郎「これはさすがに駄目だと思うよ」
逶ク豐「逾蝉ク「縺九↑繧企剞逡」

叶姉妹の姉のほう「そんな事より、北川君はどうしたのかしら」
肥山溜五郎「そんな事って……」
逶ク豐「逾蝉ク「繧ョ繝」繧ー縺」縺ヲ縲・ュゅr蜑翫i繧後∪縺吶h窶ヲ窶ヲ」

寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚水行末雲来末風来末食う寝る所に住む所やぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助「オレならここにいるぞ」
逶ク豐「逾蝉ク「うわっ。このバカ、やりやがった」
肥山溜五郎「あ。台詞だけは戻ったよ」
叶姉妹の姉のほう「頭の痛い状況になったわね」
寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚水行末雲来末風来末食う寝る所に住む所やぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助「いやあ、オレもこんな状態だからしゃべり辛くって」
逶ク豐「逾蝉ク「名前に二行も三行も使うな。非常識だぞ」
寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚、水行末、えーっと、パイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイのポンポコナーの長久命の長助「お前に非常識とか言われたくない」

肥山溜五郎「今、えーっとって言ったよね……」
叶姉妹の姉のほう「しかも相当はしょってたわ」
寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚……長久命の長助「問題はこの先どうするかだな」
肥山溜五郎「ごまかしたよ。名前の人も大変なんだね」
逶ク豐「逾蝉ク「誰だよ、名前の人って……」
叶姉妹の姉のほう「これはちょっと怠慢だわね」
寿限無(略)長助「お前ら、ちゃんと俺の話聞いてるか?」
肥山溜五郎「やる気ゼロだね」
逶ク豐「逾蝉ク「むしろこの方がいいと思うが」
叶姉妹の姉のほう「ちょっと、あなた……そんな事で本当にいいと思ってるの?」
え……何?「おーい、聞こえますかー」
叶姉妹の姉のほう「仕事がつらいってのは理解できるわ。でもね、だからといっていいかげんな仕事をしてもいいってことにはならないでしょう?」

逶ク豐「逾蝉ク「何だ? 急に説教始めたぞ」
肥山溜五郎「香里、すごい努力家だから……手抜きとかが大嫌いなんだよ」

叶姉妹の姉のほう「自分の仕事も満足にこなせないんだったら、名前なんて今すぐ辞めてしまいなさいっ!」
ひっ……で、でも私……こんな長い名前なんて覚えきれないし……「誰も聞いてないね?」

逶ク豐「逾蝉ク「言ってることはまともだが、言ってる内容がムチャクチャだ」
肥山溜五郎「名前の人も、すっかり怯えちゃって」
逶ク豐「逾蝉ク「それより、名前の人と普通に会話するなよ」
肥山溜五郎「本当にいたんだね。名前の人」

叶姉妹の姉のほう「最初のうちはできてたでしょう?」
最初の一、二回くらいなら何とかなるけど、連続だとちょっと……「美坂ーっ、好きだーっ」
叶姉妹の姉のほう「継続は力、反復は勝利よ。努力することを放棄したら何も成し遂げられないわ」
でも私、できない……才能なんてないし「ヤラせてくれーっ」
叶姉妹の姉のほう「やればできるっ!」
ひ、ひいっ!「わあっ、すみませんっ! ……き、聴こえてたのか」
叶姉妹の姉のほう「やってみなけりゃ分からないなんて、臆病者の言うことよ。やれば必ずできるっ!」
は、はいっ……!「き、危険な日ですか?」
叶姉妹の姉のほう「さ。分かったら、すぐに練習よ」
練習……?「え……ここで? ほんとに?」
叶姉妹の姉のほう「落ち着いて、ゆっくり少しずつ繰り返してゆけばきっとうまくいくわ」
はい……やってみます。カンニングペーパーとかは無しですよね?「えっと……一人で、ですか?」
叶姉妹の姉のほう「当たり前でしょ」
分かりました……頑張ってみます「分かりました……頑張ってみます」

肥山溜五郎「うまくできるといいね。名前の人」
逶ク豐「逾蝉ク「俺はむしろ裏の展開が気になる……」

寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚……水行末?「えー、具体的にどうすれば……」
叶姉妹の姉のほう「びくびくしないっ」
はいっ! 寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚水行末雲来末風来末……「は、はい……」

肥山溜五郎「がんばれ名前の人っ、ふぁいとっ、だよ」
逶ク豐「逾蝉ク「あいつ、本当にやるつもりか?」

寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚……水行末雲来末……風来末……食う寝る所に……「ズボンは……やっぱり脱ぐのか?」
叶姉妹の姉のほう「躊躇しないでスパッといく!」
寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚水行末雲来末風来末食う寝る所に住む所やぶらこうじのぶらこうじ!「ス、スパッと!」

肥山溜五郎「ふぁいとっ、ふぁいとっ、名前の人っ」
逶ク豐「逾蝉ク「あわっ。やっちまいやんの」

叶姉妹の姉のほう「残り半分も、一気にいくわよ!」
はいっ!「ええっ!?」

寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚水行末雲来末風来末食う寝る所に住む所やぶらこうじのぶらこうじ生まれも育ちも葛飾柴又愉快なロンドン楽しいロンドンクルクルバビンチョパペッピポウヒヤヒヤドキッチョの長久命の長助っ!「え……えーいっ!」

肥山溜五郎「やったーっ!」
逶ク豐「逾蝉ク「やっちまったーっ!」
叶姉妹の姉のほう「よくがんばったわね。名前の人」
は……はいっ! ありがとうございます!「もう、お婿にいけない。しくしく」
叶姉妹の姉のほう「人間、努力次第で何でもできるってことよね」
逶ク豐「逾蝉ク「後半、明らかにおかしかったけどな」
肥山溜五郎「感動したよ。うえーん」

皆さん、ありがとうございました。おかげで自分の仕事に自信が持てるようになりました「ぐっすん、しくしく」
肥山溜五郎「よかったね、名前の人」
逶ク豐「逾蝉ク「後半、明らかにおかしかったけどな」
肥山溜五郎「でも『名前の人』ってのも味気ないよね。ね、みんなで名前の人に名前をつけてあげようよ。どうかな?」
逶ク豐「逾蝉ク「どうしてそう、ややこしい事しようとするかな……」
で、でも私はただの名前ですし……「誰もオレのこと、気にかけてくれない」
叶姉妹の姉のほう「いい考えじゃない。あたしたちもう、友達でしょ?」
は……はいっ!「しくしくしくしく」
肥山溜五郎「それじゃあね……『北川潤』の『名前』だから、『潤名』。じゅんなちゃんでどう?」
叶姉妹の姉のほう「異議なし」
じゅんな「あ……ありがとうございます」「グッバイ、オレの存在意義!」
逶ク豐「逾蝉ク「乗っ取られたか……哀れな」
肥山溜五郎「ね、じゅんなちゃん。これからどうするの?」
じゅんな「ええ、私は名前として生を受けたものですから、やはり名前としての使命を全うしたいと思います」「ハロー、陽の当らない人生!」
叶姉妹の姉のほう「がんばりなさいね」
じゅんな「はいっ! あ、それとですね、皆さんの名前、元に戻せるかもしれませんよ」「生きてるって、なんだろう」
逶ク豐「逾蝉ク「ほ、本当か?」
じゅんな「はい。私の上司にこういうトラブルを専門に扱ってる人がいますので、相談してみます。たぶん何とかなると思いますよ」「あ。パンツ穿かなきゃ」
叶姉妹の姉のほう「それじゃ早速、その上司に会いに行きましょ。ともかく、これで万事解決。めでたしめでたしね。……ほら、じゅんな、潤っ。行くわよ」
じゅんな「では失礼します。二人とも、ありがとうございました」「ちょ、ちょっと待ってくれよ。美坂ー」
肥山溜五郎「バイバイ、じゅんなちゃん。また会おうね」
逶ク豐「逾蝉ク「またな」
じゅんな「はいっ!」「美坂ーっ」


肥山溜五郎「……行っちゃったね」
逶ク豐「逾蝉ク「ああ。それにしても、散々な一日だったな」
肥山溜五郎「わたしたちの名前も元に戻りそうだし、結果オーライだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「元に戻るのか……」
肥山溜五郎「あれ、祐一、嬉しくないの?」
逶ク豐「逾蝉ク「そりゃ嬉しいさ。でもな、なんて言うかその……こんな変な名前だけど、不思議と嫌じゃなかったなって思ってさ」
肥山溜五郎「……それはきっと、それが『名前』ってものだからだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「?」
肥山溜五郎「物でも人でも、生まれたばかりの時には名前なんてついてないでしょ? 人が付けて、それが他の人に伝わって、初めて名前は名前になるんだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「どういう事だ……?」
肥山溜五郎「こんな変な名前でも、みんなはわたしたちが誰かって分かってたよね? それはほんの少しの間だったけど、この名前がわたしたちの名前になってたっていうことなんだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「そんなもんか? でも、ずっとこのままは嫌だぞ。俺には『相沢祐一』という立派な名前がある」
肥山溜五郎「それはそうだけど……でもそう考えると、そんなに悪い一日でもなかったよね?」
逶ク豐「逾蝉ク「たしかそうかもな。まあ、北川にとっちゃ、最悪の一日だっただろうけどな」
肥山溜五郎「え。何言ってるの、祐一。今日一番いいことがあったのは北川君だよ?」
逶ク豐「逾蝉ク「はあ? あれのどこが『いいことあった』んだよ」
肥山溜五郎「……名前って、不思議だよね。人が名前を呼ぶ言葉を聞くと、その人のことをどう思っているのかが分かっちゃうことだってあるんだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「……?」
肥山溜五郎「ねえ、祐一。気づいてた? さっき香里ね――『北川君』じゃなくて、『潤』って呼んでたんだよ?」
逶ク豐「逾蝉ク「え、それって……そういう、ことなのか?」
肥山溜五郎「うん……そういうことだよ」


肥山溜五郎「なまえっ、なまえっ」
逶ク豐「逾蝉ク「そんなにはしゃぐなよ」
肥山溜五郎「だって、嬉しくって。北川君、想いが通じてよかったよ」
逶ク豐「逾蝉ク「まあ、気づいてないのは当の香里だけ、って様子だったからな」
肥山溜五郎「いつか北川君も『香里』って呼ぶ日が来るよね?」
逶ク豐「逾蝉ク「香里は嫌がりそうだぞ」

肥山溜五郎「――そんなこと、ないよ」

逶ク豐「逾蝉ク「え?」

肥山溜五郎「女の子が好きな男の子に名前を呼ばれて、嫌だなんてことないよ。祐一、覚えてる? わたしたちが再会した、あの日のこと」
逶ク豐「逾蝉ク「あ、ああ……」
肥山溜五郎「わたしね、不安だったんだよ。七年も会ってなくて、祐一はわたしのこと覚えててくれてるのかなって。だから祐一が名前を呼んでくれたとき、わたし、本当に嬉しかった」
逶ク豐「逾蝉ク「……」
肥山溜五郎「好きな男の子に名前を呼んでもらえるだけでも、女の子は幸せを感じることができるんだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「そうか……」

肥山溜五郎「えへへ〜」
逶ク豐「逾蝉ク「な、なんだよ急に」
肥山溜五郎「ねえ祐一。わたしの名前、呼んでみて」
逶ク豐「逾蝉ク「いきなり何を」
肥山溜五郎「好きな男の子に名前を呼んでもらえるだけでも、女の子は幸せを感じることができるんだよ」
逶ク豐「逾蝉ク「ば、ばかっ」
肥山溜五郎「呼んでくれないの?」
逶ク豐「逾蝉ク「分かったよ……」
肥山溜五郎「うふふっ」
逶ク豐「逾蝉ク「えーっと」
肥山溜五郎「……」
逶ク豐「逾蝉ク「……」
肥山溜五郎「……」
逶ク豐「逾蝉ク「あはははは」
肥山溜五郎「……」
逶ク豐「逾蝉ク「……」
肥山溜五郎「……ねえ、祐一」
逶ク豐「逾蝉ク「な、何だ」
肥山溜五郎「まさかとは思うんだけど……わたしの名前、ちゃんと覚えてるよね?」
逶ク豐「逾蝉ク「そ、そう言うお前こそ、自分の名前覚えてるか?」
肥山溜五郎「……」
逶ク豐「逾蝉ク「……」
肥山溜五郎「…………あれ?」

逶ク豐「逾蝉ク「行くぞ、溜五郎」
肥山溜五郎「ふえーんっ!」



―――― 自分の名前、まだ覚えてる? 了 ――――

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