無限に広がっているのではないかと思えるほどの地平線。

 荒れた大地。

 ・・・あの日、俺達が破れた日、世界は滅びた。

 共に戦ってきた同胞達は、俺一人を生かすために・・・死んだ。

 あいつ等は一体俺に何を期待したのかは分からない。

 ・・・あいつ等は俺の全てだった。

 あの戦いに出たときに世界を救うと掲げた言葉も、いつしか意味を変えあいつ等のためなら世界がどうなっても良いとさえ思っていた。

 だが、あいつ等はもういない。

 失う物を全て無くした俺は敵うはずも無い戦いに身を投げ出した。

 結果、俺は世界を、同朋達を皆殺しにした奴に完膚なきまでに叩き潰される事になる。

 死を覚悟したとき、その奇跡は起きた・・・。

『馬鹿な・・・お前が伝説の光の戦士だというのか!』

 俺に沸きあがる未知なるエネルギー。

 驚きはある。

『・・・ふ、光だか闇だか知らないが感謝しないとな』

 しかし、確かな事がある。

 この力は、お前を倒すために必要だって事だ。

 こいつを倒した所で世界がどうなるわけじゃあない。

 どこまで行っても、俺はただの復讐者でしかないのだから。

『くっ! しかしまだ覚醒間も無い貴様なら我が力を持ってすれば!』

『馬鹿が・・・分からないのか? 実力の差が』

 俺は無尽蔵にまで感じる秘められた力を解放する。

『ぐおおお!? バ、馬鹿な・・・力の解放だけでこのプレッシャーだと!?』

『・・・お前に殺られて行った同朋達の仇、今こそ討ってやる!』




§





 ──ドダダダダダ・・・!

 ・・・けたたましぃ。せっかくいい所だったのに。

 うるさい黙れ静かに暴れろ俺は動かんぞ地球がゆれようがコロニーが落ちようが火星が降って来ようがこのクソ暑いのに起きてたまるか。

 ──ドダダダダダ・・・!

 大体極寒の街の癖にこの夏の暑さは反則だろう亜寒帯なんて大っ嫌いだ日本の四季を地角変動を起こして変えてやる。

 ──ダァン!

 大体この家の何処にそんな慌しく走れるスペースが有るかもしれないが果たして必要あるのかと問い詰めたいのは俺だけなのか。

「起きろぉ、相沢!」

 その言葉と同時に中を浮く感覚。

 カッと見開く目。

 回転する世界。

 稀に映る、金髪アンテナ。

 加速する感覚。

 近づく地面。

 わきあがる恐怖・・・!

 ──ガスッ




 そして・・・確かな痛みが鼻を襲った。




ダウト






 突然広がる世界。

 まず目に映ったのは金髪アンテナ。

 何故かその顔には満面の笑みが浮かび何故か、ベットの上に敷いていた『敷布団』が握り締められていた。

 落下後に腰を撃った所を少し気にしならも、状況把握をする努力を行う。

「・・・で、何でお前がここにいるわけ?」

「でぇとの誘いだ」

「帰れ!」

「大体こんな陽気の日にダラダラダラダラ惰眠なんて貪ってるとろくな者にもならないぞ。
 ミミズでもその命張って土から出てくるってのに。お前はミミズ以下か」

 恐らく世界新タイは出たと思われるスピードで切り返すがさらっと流された上に不名誉な称号まで付け加えられかけていた。

 しかし微妙に正論だったりするので寝起きの俺の頭では論破出来そうに無い。

「いや、そりゃそうだな。こんな陽気の日だ、きっと何処かの金髪は毒電波にやられた上に太陽光にやられてヤバイ状況なんだろうさ」

「はぁ? 今日は降水確率午後から80%以上で全然晴れていないし、狂ったか相沢?」

「お前が寝起きの俺に陽気の日だって言ったんだろうが!」

「まぁそんな天気云々はとりあえず置いておけ。後で話題に持ち込むから丁重にな。よし相沢、とりあえず一泊の用意しろ」

 何ヲオッシャッテルノデスカコノアンテナハヤッパリ毒電波デヤラレテマスネ?

「早くしろ早く、皆待ってるぞ〜」

「・・・皆?」

 皆で思い浮かぶ顔は幾つもあった。恐らく北川の皆とは少しその範囲と同じと見て間違い無いはずである。

 がしかし、俺の記憶はなかなか当てにならないところはあるが約束だけは守っているつもりだ。

 記憶を検索するがそんな予定など無かったはずだ。

「ついでに言えば某トンネルの皆様」

 だれだよ。皆で一緒に肉体労働系のバイトか? それこそ記憶に有るはずが無い。

「皆には早朝連絡を入れた。そら行くぞやれ行くぞそれ行くぞ!」

「いや、状況もわからずにだな・・・まだ眠しい暑いし」

「なんだ? 眠い? 某環状動物に負けて──」

「分かった分かった。分かったからとりあえず下降りておいてくれ、着替えていくから」

「おう、それじゃあ待っとく」

 ──バタン

 ドアが閉まると共に時計を見てみる。

 ・・・11時。なるほど、確かに北川の言う事も一理ある。

 幾ら夏休みに入ったからってこれではダメだな。流石に名雪も起きてるだろう。

 仕方ない、さっさと着替えて話だけでも聞きに行ってやるか。

 少しシャワーを浴びたいという気持ちを押さえながら普通に私服に着替え、1階へと降りる。

 時間が時間なので既に昼食の準備をしている家の主の秋子さんの姿が見えたのでとりあえずおはようございますと声をかけておく。

 そのまま俺の視線はソファーにどっかりと座っている男に注がれる。

「早かったな」

「まぁ男の着替え何てそんなもんだ。で、いいかげん詳しく話せ」

 とりあえず北川の逆に位置するソファーにこしをかける。

「夏、暑い、曇り、雨、そしてみんなでやる事といったら何だと思う相沢」

「・・・さぁ」

 皆目検討がつかない。

 祭なら雨の日はやらないだろうし、皆でやるというより行く感じだ。

 雨という言葉からは屋内で何かをやるということかもしれないがそれは果たして夏に当てはまるのか。

 例えば人生ゲームなどというボードゲームをやるのは少なくとも季節は関係無いと俺は思っている。

「とりあえず皆には1時に駅前に集まるように行ってある。そのために秋子さんには予定より早く昼飯を作ってもらってたりする」

「秋子さん、コイツの戯言なんかに付き合わないでください」

 キッチンの方で『あらあら』と言う声が聞こえたような気がしないでもなかった。

「てことでオレもここで飯をくてすぐに出発するつもりだから」

「何処に? というか勝手にご馳走になること決めてんじゃねえよ」

「あらあら、良いじゃないですか。ハイどうぞ」

「あ、すみません」

「いただきます」

 ・・・まぁ秋子さんが良いというならば良いのだろう。

 その辺の決定権は悲しいかな俺には無いのだから。

「それより秋子さん、名雪の姿が見えないんですけどもしかしてまだ寝てたりするんですか?」

「名雪なら今日は部活があるって北川君とすれ違いに出ていったわよ」

「ってことで水瀬は残念ながら戦線離脱だ」

「・・・というかお前結局何をやるか言ってねぇし」

「やれやれ、そんな細かいことを気にしてたら立派な大人になれないぞ? それでもお前は相沢という名を継ぐものなのかい?
 お前は俺達が今から何をするかを聞けばそれで満足か? そうなのか? そうすればお前は全てを受け入れ俺と共に戦うと誓うのか?
 いいや誓わないな。お前は必ずオレ達が行おうとする事を聞けば真っ先に逃げるだろうさ。それこそ朝の水瀬のようにな。
 いいか、だからオレはあえてお前には何も言わない。どうだ、俺達が今から何をするか知りたいだろう? 知りたければ付いて来る事だな」

「・・・色々と聞き捨てなら無い発言が包み隠し無く大量に入っているのは気のせいか?」

「誤聴だ。隠蔽だ。捏造だ」

 ・・・。

 大体、『聞いたら逃げる』何て言っている話に乗る人間が世の中にいるのだろうか。

「なら俺も戦線離脱するかな」

「馬鹿な、戦士・相沢。お前はそれでも男か」

「少なくとも男だ。それに男=戦士などという考えはお前の脳内でしか適応されない」

「く・・・相手をその気にさせるためにはやはり少なからず情報提供が必要か」

「・・・はぁ、ようやく話す気になったか?」

 元々こいつの誘いはろくな事が無いが面白い事も事実である。

 故に、話だけは聞いておきたかった。

「まぁ、ぶっちゃけると肝試しだ」

「肝試しぃ?」

 どういう経緯かさっぱりだった。

 だいたいそういうのはキャンプとかのイベントにやるもんだろう。

「実はな、ある筋からの情報なんだがここから電車で結構行った所のあるトンネルがな、出るらしいんだよ」

「いかにも典型的な・・・大体何処の筋だって。どうせお前の電波だろ」

「インターネット」

 ・・・ほら電波だ。

 大体なんで急にこういう話が出てきたのか。いや、ただのこいつの思いつき以外の何物でもないのだ。

 どうせたまたま心霊サイトでも回ってて気が付いたときにははまって、一時的な興味が沸いてきて・・・。

 次の瞬間、こいつの脳には『よし行こう』という言葉が浮かんで。

 早朝から知り合いという知り合いに声をかけまくって最後に俺の家に直接乱入した。

 そんなところか・・・。

「はぁ・・・まぁ行ってやっても構わないが」

 実際、俺も興味が無いわけでもなかった。

「おお、マジか!」

「まぁな、それに久しぶりに皆で集まるにしてはいい機会だと思うし」

「おし、それならちゃっちゃと飯食って用意しようぜ。とりあえず宿はあっちで取るつもりだから一泊分」

「へいへい」

§


「・・・暑い、どうにかしろ」

「つってもなぁ、というかお前なんで待ち合わせに駅のベンチの前にしたよ。店の中だったら冷房効いてるのによ」

 『ああその通りだった』などと今ごろ気がついたのか北川は一人出納得していた。

 ぎらぎらと輝く太陽。

 さっきまで曇っていたのに、何故こんなにも太陽が出ているのか。

 降水確率80%は何処いった。マジで。

 といっても雲の動きからすると丁度雲と雲の間に入った感じで今だけ上手い具合に晴れているようだった。

 つまり、タイミングが悪い。

 このままでは30分としないうちに皮膚は黒くなっていくだろう。

 ふと腕時計を見る。1時5分。

 今到着しても既に5分の遅刻である。

「なー、誰もこないって事無いよな〜」

 俺の予想ではコイツは朝のうちに全員に声を掛け捲って今に至る。

 恐らくこの予想は間違っていないだろう。前例は腐るほどあった。

 それでも結構全員集まるし、少なくともこれないときは連絡が来るはずである。

 北川も来れないなら連絡来ないかなぁ、と携帯をパカパカ開けたり閉めたりしている。

「・・・お」

「ん? やっと来たか」

 北川が重い首を上げて俺の視線を追い、そちらを見遣る。

 アスファルトの上の蜃気楼。そこから上に体が2本伸びている。

 両方とも汗拭きタオルを片手に歩いて来ているのが現状をよく表していた。

「ゴメンね、ちょっと暑くて・・・時間丁度につく予定だったんだけど」

「全く・・・それで僕まで付き合わされる羽目になるとは」

 果たして暑いと人間は歩くスピードが遅くなるのか。

 確かめたい気もするが確かめないで良いような疑問が脳裏をよぎった。

 とりあえず俺達の隣に開いているベンチに到着した二人組、斎藤と久瀬は力尽きたように座り込んだ。

「・・・しっかし野郎どもばかりだな」

「まだ連絡来てないんだろ? もうすぐ来るって」

「うぐぅ、暑い・・・」

「・・・どっから湧き出た」

「湧き出てないよ」

 突然の出現への突っ込みはどうもお気に召さなかったらしい。

「それより皆から伝言・・・
 『ゴメンナサイ、栞がちょっと夏風邪を引いちゃって行けそうに無いわ』
 『・・・私は魔物を討つ者だから・・・幽霊さんは討てない・・・討てない討てない討てない討てない討てない討てない・・・』
 『あはは〜っ、舞がそう言ってるから佐祐理も少し行けそうにありません。皆さん楽しんできてくださいね〜』
 『べ、別に幽霊が怖いって訳じゃないのよ! 全く、イヤな予感がして昨日のうちに予定をいれて──、何でもないわよ、とりあえず無理!』
 『すみません、昨日から真琴が突然遊びに行こうと言うので今日はちょっと・・・』
 だって。
 それより・・・幽霊って? お祭に行くんじゃないの?」

 果たしてこの伝言の中のどれくらいの人間が『逃げ出した』のだろうか。

 大体、こんな伝言は北川が誘ったときに言える事だろう。

 それをあえて、誰かの『伝言』として情報を伝えると言う事は明らかに『迎え』を恐れている証拠である。

 いや、そんな事よりもあゆがどうも北川に嘘情報を噛まされて来たようだ。

 それはあゆがそういう話が嫌いなのは皆が知っているから取った処置なのだろう。

 だからといって北川の行動は流石にヒド過ぎるのではないだろうか。

 ・・・まて、その事を推測して全てをあゆに押しつけたやつらの方がひどいのかもしれない。

「あれ? 今日は皆で肝試しじゃなかったっけ?」

「ふんっ、下らん。そんな非科学的な存在、この僕がいないという事を証明してやる」

「・・・ボ、ボクそう言えば今日は予定があったんだよ! それじゃあね皆!」

 状況を察したのか、あゆは食い逃げの時と変わらない──いや、それ以上の速さで──加速する。

 ──ガシィ!

「まぁ、予想以上に集まった人数少なかったけど行くか!」

「う、うぐぅぅぅ〜! 放して! 放してよぉ!」

 それを制したのはそうなる事を分かっていた北川だった。

 肩を掴まれたあゆはじたばたと暴れるがどうも北川の力が凄いのかそのまま引っ張られていく。

 立ち尽くす男三人。

 特に久瀬が何故か少し落ちこんでいるように見えた。

「・・・どうした久瀬、佐祐理さん居なくてそんなにショックか?」

「なっ、何を言い出すかな君は・・・。それよりも僕には幽霊など居ないと証明しなければならない義務があるのだよ」

 ふ、ちょっとした鎌かけのつもりだったんだがな。

「それより早く行かないと置いて行かれちゃうよ」

「ああそうだった。ほら、ショックなのは分かったから行くぞ久瀬」

「全く、君は・・・そんなんじゃないと言っているだろう」

 そう言い張りながらも少し着たいはずれと言った顔を浮かべながら後続組の先頭を久瀬が切った。

 少し行くと北川とうぐぅうぐぅ言っているあゆに追いついた。

 一言『諦めろ』と言ってやるとあゆはすぐに沈静化する。

 とりあえず北川の指示通りに切符を買い更に北へと向かう電車に乗る。

 電車の中では斎藤が持参したトランプを使ってゲームをしていた。

 電車の中は快適で、恐らく朝早く起きて企画を練っていたのだろう北川はいびきも立てずに死んだように眠っている。

 久瀬ははじめ、持参したのだろうMDを聞きながら外を眺めていたが、こちらのゲームが気になったらしく今は参加している。

 あゆは今だけでも楽しもうとして居るのか、終始笑顔を絶やさない。

「あ、それダウトだわ」

「うぐぅ!」

 あ、絶えた。

「わ〜、僕こっちに行く電車こんなに長く乗った事が無いからこんな景色初めて見るよ」

 斎藤は偶にゲームほったらかして外の風景に感動している。

 全く、こいつの好奇心は小学生レベルか。

「ふん、ダウトだな」

「ぐぁ!」

「うぐぅ、終わらない」

 終わらない。

 終われない。

 終わりが見えない。

 俺達はまだ知らなかった。知るよしも無かった。

「やった! 上がりだ!」

「「「ダウトォ!」」」

 まるでそれは足の引っ張り合い。

 お前だけ逃げるのか俺達を置いていくなお前達も俺達の苦しみを味わえ脱出なんてさせてたまるか。

「やったよ! 1!」

「「「ダウトォ!」」」

「ははは〜、残念だったね皆〜」

 そういってあゆは自らが出したカードをめくる。

 『スペードのエース』。

 もしかしたらこれが、悪夢の始まりだったのかもしれない。

 だがしかし、この無駄に長くなるゲームにも必ず終わりがある。

 そう記す・・・ただ一つの道標だったのかもしれない。




§





 目的の街に着いた。

 そこは本当にそう言う曰く付きの物があるのか疑うほどにぎやかだった。

 が、6時で既に暗くなるほどの厚い雲が雰囲気をかもち出していた。

 予定より少し遅かったがとりあえず傘を忘れた奴が居たので傘を購入。

 そのまま北川の手際だろうか、予約してあるという宿に向かい、必要な荷物だけ持ち再び外に出る。

 後で聞いてみると『倉田さんがせめて宿ぐらい用意しますよ〜、だってさ』と、予約しておいてくれたらしい。

 いつの間にそんな情報が入ってきたのかは不明ではあるが宿無しよりは断然いい。

 その辺は深く考えても意味が無いと思いすぐに切り替えた。

 その足で、北川推奨、廃墟某鉄道Aトンネルへと向かった。

 行く途中でそのトンネルの話を北川が、ふっと語り出す。

 その話にあゆが敏感に反応し、俺の腕をイタイほどに握ってきた。 



 内容はこうだった。

 実はこのトンネルを作る事はここの町の人たちの同意の元ではなかった。

 実際そのトンネルは必要性がない物だという事は、トンネルがを作っている間にプロジェクトが中止された事から立証されている。

 ここまでならただの税金の無駄使いで終わってしまう。

 がしかし、その話には裏があった。

 住民がそのトンネルを造るのに同意をしなかった理由。

 それは、その山に穴をあけることを良しとはしなかったから。

 実はその山は昔からここに住む住民の中では知らない人が居ないほどの霊山で、神が住んでいるとされていた。

 そんな山にトンネルを掘るなど、考えられなかったのだろう。

 しかし国はそれを強行した。

 その頃トンネルを作るのは事故が付き物であった。

 その工事もその例に漏れずに少なからず事故は起きたが、別段問題も無く作業は進んだ。

 しかし、異変は起きた。妙な形で。

 ・・・貫通しない。

 トンネルが貫通しないのだ。

 実際予定よりも順調と言えるほどのスピードで作業が進んでいた。

 がしかし、完成予定日になっても作業はまだ続いていた。

 不思議に思ったその工事の責任者は一度トンネルの長さを計ってみた。

 ・・・そして真実を知った。

 全長10km強。

 掘ろうとしたトンネルは1kmくらいの物であった。

 それにその頃、10kmなんていうトンネル作れたのかすら疑問だ。

 それよりも、何故そこまで作業が早く進んでいるのか。

 たしかにずっと山を掘っていく作業を続けているにしてもあまりにも早すぎるのだ。

 しかし、たしかにそのトンネルの長さはそれだけの長さがあると実感できるほどの長さを持っていた。

 漠然とした不安を残しながら作業は続いた。

 そして、3日後・・・。

 今思えば、あれは最後の警告だったのかもしれない。

 いつも通り作業時間が終わり、トンネルから人が出てくるはずの時間。

 ・・・誰も、出てこない。

 『中の様子を見てくる』と、入っていった作業員数名を含め、誰も帰ってこなかったのだ。

 ・・・そして1週間後、調査員が派遣されトンネル内部を調査した。

 そこで再び、工事の責任者は驚くのだ。

 『トンネルの全長、1km』。

 それは、当初予定していたトンネルの長さと同じであった。

 貫通していないのは、方向を間違えたから、と処分される。

 しかし、現場の人間は納得行かなかった。

 俺達はそんなミスを犯していない。

 ・・・残り9kmは何処に行ったのか。

 錯覚だったのか・・・。

 いや、そんなはずは無い。あの奇妙なまでに長いトンネル。彼等はそれを体験したのだ。否定できる物ではない。

 もしかしたら落盤があったのかもしれない。

 それならば、衝撃音を除けば全てが納得が行く。

 そう思い、その日責任者はトンネルの最深部へと入っていった。

 がしかし、最深部には落盤の痕跡は残っておらず、穴を掘るつるはしが残されていた。





 で、ネット上で噂になっていると。

 なんでもホントに10kmあるとか、壁に引きずり込まれそうになったとか。

 その引きずり込もうとした幽霊が実はそのトンネルに取り残された作業員だったとか。

「・・・で、そのタコ糸か」

「ああ。昨日のうちに用意してな。このタコ糸の全長は2kmにしてある。一応1kmって話だけどな」

 そういって北川は地面に釘を打ち、そこにタコ糸を括りつけていた。

 というか凄まじく無駄な労力使って作ったな、そのタコ糸。

 雨が降ってきたので、傘を差しながらの北川の作業になかなか器用だなと思う。

「馬鹿馬鹿しい・・・」

「でも少し怖くなったかも」

「うぐぅ・・・ホントに行くの?」

 あゆの必死の訴えもものともせずに野郎4人は目の前の、そのトンネルへと進んだ。

「うぐぅ・・・!」

 一人で待っておくという選択肢もあったのだろうが、それもそれで怖いのだろう、あゆは結局付いてきた。

§


 ・・・外の暗さが嘘のようだった。

 そこは漆黒。

 例え目の前に壁があろうとそれを認知できないほどの暗さ。

 その暗さに俺は一瞬背中に寒い物が走るが、斎藤がつけた懐中電灯の光によって辺りは光に包まれた。

 もちろん、懐中電灯なら俺も持ってきていた。

 その事を思い出し俺も懐中電灯をつける。

 一人だけまだ傘をさしている事に気が付いてさっさとしまう。

「よし、じゃあ進むぞ」

 全長1kmなら30分もあれば往復できる。

 誰もがそう思っていた。

 そして再び歩き出す。




 歩き出してみるとなんて事は無い。

 ただの暗いトンネルである。

 先ほどまで怖がっていたあゆも何処と無く元気を取り戻しつつあった。

「ほらね、だから言ったんだ。幽霊なんて居ないって」

 結構歩いた所で、それはあった。壁・・・つまり、工事を中断した最深部。

 それを見つけた所で久瀬は自慢げにそう言った。

 別に誰も幽霊がいるなんて言っていない。ただ自分の論が正しかっただけなのに何故か自慢げであった。

「なるほど、1kmってのはあながち嘘じゃないみたいだな」

 そう言いながら自分の持って来ていたタコ糸に光を当て、俺に見せる。

 そこには一部だけ少し赤く染めてあるタコ糸があった。

 恐らくそれが1kmのサインなのだろう。

「で、どうする? ・・・? あ、ここにつるはしがあるよ?」

 おそらく作業用のだろう。

 それ以外なら俺達と同じように面白がって来た奴がつるはしを持って来て持って帰るのがめんど臭くなって置いて行ったか。

 ・・・少なくとも、そんなに新しい物ではない感じがした。

 そいつは、いつものようにその好奇心を持って・・・そのつるはしを握り、壁へと進んだ。

「貫通させるぞ〜!」

 そいつは、何も考えていない。

 ただ、好奇心。

 面白そうだったから。

 つるはしを、振り下ろした・・・。

 ──ガキィン! ボキ!

 ・・・音と共につるはしの木の部分が折れその場に落ちた。

 そりゃこんな長い間放置されてきたのだ、折れない方がおかしい。

 ・・・ふと、斎藤がつるはしを振り下ろした態勢から動かなくなっていた。

「さ、斎藤君?」

 俺の隣に隠れるようにしていたあゆが不安を感じたのか、声をかける。

 俺もあまりに斎藤の次の行動が遅すぎる事に少し戸惑いを感じていた。

「う、うあああああああああああああ!?」

「きゃああああああああああ!」

 突然斎藤が叫んだ。

 それに釣られてあゆが叫んだ。

 ・・・そして、悪夢は始まった。

 腕。

 奇怪な腕が斎藤のうなじを捕らえた所でその叫び声の意味を悟った。

 助けなければならない、しかしどうやれば助けられるのか。

 有るかもしれないと思いつつも有り得ないと思っていた、有るはずが無いその光景を見て俺は予想以上にパニくっていた。

 そんな中、北川が走った。

 逃げる方向ではなく、斎藤の方向へ。

「ああああ!」

 そして先ほど買ったビニール傘を思いきり振り上げたと思うと、斎藤の目の前で振り下ろした。

 ──ボキィ!

 何かが折れる音。

 ・・・果たして傘が折れた音なのか、腕が折れた音なのか・・・それともその両方か。

「斎藤、逃げろ! みんなもだ!」

 その言葉を発した北川がまず走り出した。

「あ、ああ! 斎藤、行くぞ!」

「馬鹿な、有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない!」

「うわああ!」

「うぐうううううぅぅぅ!!!」

 全員が全員少なからず動揺していた。

 しかし、逃げなければ何かがマズイ。そう全員が受け取ったのだろう。全力で走るという行動は一致していた。



 ・・・どれくらい走っただろうか。

 ただがむしゃらに走っていたので結構無駄な体力を消耗したきがするがかなり走った気がする。

 誰が最初にかは分からないが足を緩めた所で全員が足を緩めた。

 が、全長1kmのこのトンネルならもうすぐ出口が見えてもおかしくは無い。

「はぁっはぁっはぁ!」

「マジかよ、ありえねぇ・・・」

「ゴ、ゴゴゴゴゴメン! 僕のせいだ!」

「いや、馬鹿な! そんなはずは無いんだよ! 幽霊なんてこの世に存在してはならないんだ!」

「うぐぅ〜!」

 懐中電灯と傘ををパージした奴が数名おり、灯りの数が減っているのが少し不安だった。

「全く、とんでもねぇな」

 とりあえず手持ち草になったのか北川はここまで一気に走ってきた分のタコ糸をくるくると引っ張り出した。

 ・・・しかし、すぐにその糸は切れていた。

「・・・。おい、それってただ『切れてる』だけだよな? ブチって」

「・・・いや、『切断』されてる。スッパリだ。相沢、その懐中電灯で地面照らしてくれ」

 ・・・言いたい事は何となく分かった。

 ここまでタコ糸を垂らしながら来たなら、間違い無くあるはずだ。切れたもう片方のタコ糸が。

「かー・・・マジか、ねぇわ」

 一通り捜した所でそう結論付けた。

 ・・・俺達は、間違い無くここを『通っていない』。

「ど、どう言う事かな? ボ、ボボボボボボクにはよくわからないよ」

「そ、そうだ! そんなはず無いだろう! それより早くここから出るべきだと僕は思うけどね!」

 確かに、ここで立ち尽くすのはナンセンスに思える。

「とりあえず説明は後だ。きっと出口まで歩いていけば出れるはずだから行こう」

 ──カラ、カラ、、カラ、、、、カラ・・・

 すぐ近くから妙な音がした。

「ん・・・げ・・・ぇ」

「どうした北川、変な声だ、すな、よ・・・」

 ・・・タコ糸を纏めてある棒が、回転していた。

「ぼ、僕が思うに、すぐそれを捨ててまた走ったほうがいいと思う!」

「不可解だ、理解不能だ! 錯覚だぁ! そうだ・・・あれはプラズマだ! そうに違いない!
 北川君、君もそんな下手な冗談は止したまえ! どうせ何処かのモーターに引っ掛けてきたんだろう!」

 何処にそんなモーターがあったのか。けど確かにそうだったらいいと思った。

 ・・・しかし、少なくとも、その回転は紛れも無い事実だった。

『助けてくれぇ〜』

「・・・」

「ボク、変な声聞こえた気がするんだけど気のせいだよね? ね? ねぇ?」

『出れない・・・出れないぃ』

「うぐぅ〜!」

『道連れ・・・道連れだ・・・全員道連れにしてやるうううううう! ヒャヒャヒャヒャヒャ!』

 ──カラカラカラカラカラカラ!!

 突如物凄い勢いでタコ糸棒が回転し始めた。

 そしてそれを合図に俺達は再び走り出す。

 『道連れ』。

 今まで聞いた度の言葉より恐ろしく聞こえた。

「うわぁ!」

 ──ドサッ!

 誰かが、こけた。

 既に誰が誰か分からなかった。

「うおおお!?」

 そして、次に俺がこけた・・・足を掴まれた感触を残して。

 やられるのか? 死んでしまうのか、ここで・・・。

「相沢、行かないでくれ! 頼む!」

「お前か久瀬ぇ! 手を放しやがれぇぇぇ!」

 左手にライト、右手に俺の足首をがっしりと握り締めながら久瀬はやや半泣きになっていた。

「くっそ!」

 ──ガシィ!

「うああああああああああああ!? ちょっと! 相沢放せ!」

「バカヤロぉ! 放したらお前、俺置いて逃げるだろうが! って久瀬! お前の頭!」

 うっすらとライトの光に当たってそれは姿を表していた。

 久瀬の頭の上に、もう一つ。

 笑っている。

 笑った顔が有る。

 それは確かに存在すると、俺の脳が告げていた。

「斎藤! お前久瀬どうにかして手を放させろ!」

「待てぇ! 僕を置いていくというのか!」

「そんなこと言ったって・・・くっ!」

 ──ガシ!

「うぐぅ〜!」

 ──ガシィ!

「え? ちょ、ちょっと月宮さん!?」

「一人だけ逃げるなんてずるいよ〜!」

 恐らく久瀬から北川まで、一本の線に繋がったのだろう。

 ホント馬鹿ばっかりだ。

「馬鹿か君達! こんな所で足の引っ張り合いしていたって何の解決にもならないだろう!」

「原因作った奴が言うんじゃねえよ!」

「相沢、お前・・・上にいるぞぉ! と言うか放せ!」

「イヤだ!」

「ギャーーーーーーーーーーー! 倉田さん〜〜〜〜!!!」

「何気に告白っぽく叫んで・・・って久瀬ぇ!?」

 ふっと、久瀬が持っていたはずのライトの光が消える。

 そして同時に・・・そこには、久瀬の姿が無かった。

 しかし、掴まれた足には確かな感触がある。

 冷たい、手。

 半ズボンだった俺の足を今さっきまでの温かみが有った久瀬の手とは別の手が握り締めていた。

「ヒッ!」

 くっきりと。

『クカカカカカカ・・・』

 くっきりと、その姿は映っていた。漆黒の中に。

 見える筈が無いモノが。

 作業員・・・。

 つるはしを振り上げる。

 ・・・何かが、頭を貫いた。



§




 ──サァァァアアア・・・

 澄んだ音がする。

 ・・・冷たい。雨・・・か?

 むくりと体を起こす。

 辺りは漆黒だった。

 トンネル? 中・・・? なら何で雨?

 自分の頭上から水が漏れていることを気にしながらも、頭を擦るが特に別段何もなっていない。

 ふと自分の懐中電灯が無くなっていることに気が付く。

 恐らく何処かで落したのだろうが、全く検討が付かなかった。

 それよりも確か久瀬が最後までライトを握っていたはずだ。

 突然消えた記憶があるがあいつのライトは何処かにあるはずだ。

 辺りを手探りで探ってみる・・・と其処には幾つもの掴めるもんが存在していた。

 ・・・? 傘? それに何本もあるぞ。

 更に調べてみると懐中電灯も幾つも転がっている。

 電気は・・・付くな。

 ぱっと明るくなった空間に少し安著のため息が漏れる。

 ・・・俺は生きている。多分。と言うかこの状況を生きていないと言うならばおかしいだろう。

 顔をつねってみる。

 あ、イタイ。

 斎藤は? 北川は? あゆは?

 何処にもいない。

「おーい! 誰かいないのかぁ〜!」

『かぁ〜』

『ぁ〜』

『〜』

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・。

 返事も無い。

 ・・・出口は、どっちだ?

 回りをキョロキョロと見渡すが、どちらに行けば良いのかも判らない。

 恐怖。不安。絶望。

 一歩先が果たして一歩先繋がっているのか判らない世界。

 そして、謎の雨。上を見上げると何処から水が降ってきているのかすら判らない。ただのトンネルの天井が見える。

 不可思議だ、不可解だ。ここは何かがおかしい。何かが間違っている。

 何が出てくるかわからない恐怖。

 どう動いても、裏目に出て終わることが無い闇が続いているのではないかという不安。

 どう頑張っても終わりに辿り着かないのではないかという絶望。

「うああああああああああああああああ!」

 思いっきり叫んでみた。

 振り払いたかったから、恐怖を、不安を、絶望を。

 ──カツンカツンカツンカツン!

「っ!」

 それと同時に何かが来るという恐怖。

 未知なる音。

「うおおお!?」

「うぐぅ〜!」

「相沢〜! いるか〜!」

「ぎゃああああああああ!? 倉田さん倉田さん倉田さん! 一度でいいから名前で呼びたかったぁ!」

『あはは〜っ・・・』

 ・・・知っている声。知らない声・・・多分。

 そうだ、まだあいつ等がいる。

 俺だって生きている。

 ・・・まだ、絶望と決まったわけじゃない。

 まだ終わっていない。終わるまでは諦めない。

 右側の通路から懐中電灯の光が漏れる。

 ならば、左だ。ゴールは左。間違っている【ダウト】なんて言わせない。

 一着で上がってみせる、この地獄から。

「みんなで上がろう、この地獄から・・・!」


§










 ふっと走りまくっていた手を止める。

「・・・なぁ名雪、トランプの【ダウト】って最後の一人はやっぱり上がれないよな?」

「? うん、たしかそうだけど・・・。そんな事より祐一、宿題終わった?」

「終わってない」




 正確にはやってもいない。



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