上りにかかってから、流れていく景色が少し古びたものになってきた。そして、気がつくといつしか周囲は一面の銀世界になっていた。

 車を降りて歩いていくと、一本の大きな木が聳えていた。昔、まだ子供だった頃に見た覚えがある木だ。
「これって例の……」
「そう。あたし達が10歳の頃に切り倒された、あの木」
 彼は軽く頷いてから、あたしの手を引っ張って物蔭に隠れた。
 振り向くと、一匹の狐がその木に近づいていた。


第2位 「景色」 マルマニさん   64.13 pts


「この木は、優しかったんだな」
「そして生き生きとしてた。最初、木霊の独白とは思えなかったくらい」
 彼は切り株を撫でながらくすくす笑った。
「木霊が人間っぽくたって、いいじゃないか」
「ええ。それはもちろん構わないわ。むしろ歓迎できそう」
 歓迎かあ、と彼は笑う。
「どうかした?」
「美坂もそういうこと考えるんだなって」
「……」
「まあでも、あゆちゃん達に力をくれたとすれば、オレ達みんな、この木には感謝しなくちゃだよな。あ、今は切り株だけど」
「そうね」
 あたしも切り株に触ってみた。冷たい感触なのに、どこかにまだ生命の息吹が残っているようにも思えた。

 寒い中を歩いて帰り、ヒーターをつけた。
「大丈夫か?」
「今のところはね」
「オレは風邪引いちまいそうだ」
 彼は大袈裟にがたがた震えてみせた。
「お話を見て回ってる間だけでいいから、頑張ってね」
「その後は、美坂が看病してくれたりするのかー?」
 彼にしては珍しく、そういう際どい台詞を口にする。
 あたしの方はと言えば──
「時と場合によってはね」
 これは、あたしらしいはぐらかし方なのかもしれない。

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